高機能自閉症とは?アスペルガー症候群との違いや特徴、困りごと、接し方を解説

高機能自閉症は、知的発達の遅れを伴わない障害のことです。

知的発達の遅れがない分、本人も周りも障害があることに気づきにくく、診断を受けずにそのまま大人になるケースが多くあります。
適切な支援を受けられないことで、高機能自閉症により起きる困りごとや生きづらさを感じ、二次障害が引き起こされることもあります。

今回は高機能自閉症の特徴や困りごと、接し方について解説します。

※高機能自閉症は、正式な診断名ではありません。実際に医療機関などで診療を受ける場合などは、「ASD(自閉スペクトラム症)」と診断されることが多いですが、行政や教育の場で使用されてきた通称であることから、この記事では高機能自閉症として取り上げます。

監修

井上 雅彦

鳥取大学医学系研究科臨床心理学講座教授。応用行動分析学が専門。30年以上ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもや家族の相談、療育・家族支援プログラムの開発に携わる。

高機能自閉症とは?

高機能自閉症は「対人関係や社会的コミュニケーションの困難」と「特定のものや行動における反復性やこだわり」などの特性が幼少期から見られる発達障害です。
知的発達の遅れを伴わないことが特徴です。

文部科学省では、高機能自閉症を以下のように定義しています。

高機能自閉症とは、3歳位までに現れ、
①他人との社会的関係の形成の困難さ
②言葉の発達の遅れ
③興味や関心が狭く特定のものにこだわることを特徴とする行動の障害である自閉症のうち、知的発達の遅れを伴わないものをいう。

また、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定される。

引用 学習障害(LD)、注意欠陥/多動性障害(ADHD)及び高機能自閉症について:文部科学省

なお、「高機能」とは「知的発達の明らかな遅れがない」ということを意味しており、「平均より高い知的能力がある」という意味ではありません。
高機能自閉症には、IQが70付近の数値から140付近と非常に高い数値まで、さまざまなケースが見られます。

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高機能自閉症とアスペルガー症候群の違い

高機能自閉症は、正式な診断名ではありません。
実際に医療機関などで診療を受ける場合などは、ASD(自閉スペクトラム症)もしくは古い診断名である「アスペルガー症候群」と診断を受けます。
高機能自閉症は、知的発達の遅れはありませんが、言語発達においては遅れが見られるため、知的発達や言語発達の遅れがないアスペルガー症候群とは異なると考えられてきました。

しかし、近年の研究によって、2〜3歳頃に見られた高機能自閉症とアスペルガー症候群の言語能力の差は、時間の経過とともに縮まっていくことが明らかになっています。

また、高機能自閉症は年齢を重ねて言語が身につき始めると、アスペルガー症候群と変わらない特徴や症状が見られることも分かっています。

そのため、近年では、高機能自閉症とアスペルガー症候群の両者はあまり区別せず扱われることが多くなってきています。

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自閉症に関連する診断名

アメリカ精神医学会発刊の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)において自閉的特徴を持つ疾患が統合され、2022年(日本語版は2023年)年発刊の『DSM-5-TR』では「自閉スペクトラム症」という診断名になりました

これまでは知的障害や言葉の遅れの有無などで、アスペルガー症候群や自閉症などに分類されてきました。
しかし、これらの障害に共通する特性は人によってグラデーションや強弱があり、明確に分けられるものではありません。また、同じ人においても、年齢や状況によって特性が変化します。

そのため、明確に障害名で分類するのではなく、「自閉スペクトラム(※スペクトラムは連続体の意)症」という、境界線のないひとつの障害と認識されるようになりました。

このことから、自閉症やアスペルガー症候群を含む「広汎性発達障害」と呼ばれていた障害が、ASD(自閉スペクトラム症)にまとめられました。

現在、日本の医療機関ではASD(自閉スペクトラム症)という診断名が使用されていますが、一方で長年使われてきた通称として、行政や教育の場では「自閉症」「アスペルガー症候群」「高機能自閉症」などが使用されることもあります。

高機能自閉症の特徴

高機能自閉症は、対人関係がうまくいかなかったり、限定された物事へのこだわりが強く表出したりするという特徴があります。
言語の発達に遅れが見られますが、知能の発達に遅れは見られません。

 

子どもの場合

子どもの場合、特に言語能力の発達の遅れが見られるため、社会性や対人関係により強い困難を感じやすい場合があります。

 

・言語能力の発達の遅れ

2歳までに単語を習得し、3歳までにコミュニケーション的な語句を用いることができていない場合、言語発達に遅れがあると言われています。
高機能自閉症の子どもの場合、年齢に応じた言語やコミュニケーション能力の獲得に困難を感じる場合があります。

ただし、高機能自閉症の子どもの場合、話し言葉の発達が遅れていても、発達過程で豊富な語彙が扱えるようになることが多く、成長とともに音程・抑揚・速さ・アクセントなども問題なく発話できるようになります。

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・社会性と対人関係の障害

言語能力の発達の遅れも影響しますが、もともとASD(自閉スペクトラム症)の特性として、あいまいなコミュニケーションを取ることが難しいこと、相手の気持ちを理解することが難しいこと、場の暗黙の空気を読むことが難しいことなどが挙げられます。

特に子どもの場合、園生活や学校生活において、自分の思ったままに発言して周囲の人を傷つけてしまったり、集団ないで共有されている暗黙の共通ルールや慣習を守れないことで自己中心的な人と捉えられたりして、周囲とトラブルになることが多くあります。

 

・限定的な反復行動

ASD(自閉スペクトラム症)の特性として、一度興味を持ったものに対しては、過剰といえるほど熱中する傾向があります。
また、自分独自の行動ルールへのこだわりが強く、その予定や手順を急に変えられることに強い拒否反応を示すこともあります。

特定の領域に関しての知識や高い集中力がうまく働くこともありますが、興味がない領域に関してはすぐに忘れてしまったり、集中しすぎるあまり物事をやめられなくなってしまったりすることがあります。
また、自分独自の行動ルールが守れないような状況になると、癇癪やパニックを起こしてしまうことがあります。

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大人の場合

大人の場合も子どもと同じような特徴が見られます。特に社会生活に困難を感じる場面が多いです。

・言語コミュニケーションの障害

言語の遅れが成長とともに改善されても、状況に応じて適切に言葉を選んで使うことに困難が残る場合があります。
また、自分の気持ちを言葉で伝えることや、他人の気持ち・言葉を理解することが苦手な方もいます。

相手の言葉を文字通りに受け取ったり、表情や身振りなどの非言語メッセージの理解が苦手だったりすることで、働く時に困難を感じやすい特徴があります。

 

・社会性と対人関係の障害

社会性の障害は、高機能自閉症の代表的な特徴の一つです。相手の気持ちや状況を推測することや、他人との適切な距離感をつかむことが苦手な場合があります。

人との交流を避けるほどコミュニケーションが苦手だと感じる人もいれば、初めて会う人に一方的に親しく話しかけて迷惑に感じられてしまう人もいます。

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高機能自閉症の二次障害

高機能自閉症の二次障害

二次障害とは、発達障害などの一次障害を起因として、周囲からの理解を得づらい環境で繰り返し注意されたり、不安な経験をしたりすることで自己肯定感が下がってしまい、他の障害を引き起こしてしまうことを指します。

高機能自閉症の場合、知能発達に遅れが見られないことから、本人も周囲も「高機能自閉症である」ということに気づかない場合が多くあります。
そのような状態では適切なサポートを受けることができず、二次障害が引き起こす環境に陥りやすいです。

高機能自閉症の二次障害として、うつ病・適応障害・不安障害などの内在化障害と、暴力・妄言や他者に対する敵意・攻撃性などの外在化障害が挙げられます。

 

内在化障害

発達障害の特性も含め、自分自身に対するいらだちや精神的な葛藤が自分に向けて表現される症状のことを「内在化障害」と呼びます。
具体的には下記のような症状が挙げられます。
・不安障害
・抑うつ
・強迫性障害
・睡眠障害
・対人恐怖
・心身症
・依存症
・引きこもり など

中でも抑うつ症状は、高機能自閉症を含め発達障害がある大人(18歳以上)に最も表れやすい二次障害と言われています。

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外在化障害

自分自身に対するいらだちや精神的な葛藤が、他者に向けられる形で表出する症状のことを「外在化障害」と呼びます。
具体的には下記のような症状が挙げられます。
・暴力、暴言
・家出
・他者に対する敵意、攻撃性
・反抗挑戦性障害
・行為障害
・感情不安定、自傷行為
・非行などの反社会的行動

特徴としては、大人になってから見られるだけでなく、小学校低学年など比較的幼いうちからこのような行動が繰り返し見られるケースもあります。

これらの内在化と外在化の問題は、両方が密接に関わって表れることもあります。

特に高機能自閉症の場合、二次障害により医療機関を受診し、高機能自閉症と診断されるケースも少なくありません。

高機能自閉症の診断基準

高機能自閉症の診断基準

高機能自閉症という言葉は一般的によく使われていますが、精神医学における診断名ではありません。

高機能自閉症にあたる特徴・症状がある方は、診断基準上は「DSM-5」におけるASD(自閉スペクトラム症)に含まれます。

ASD(自閉スペクトラム症)は、
・対人関係や社会的コミュニケーションの困難
・特定のものや行動における反復性やこだわり、感覚の過敏さまたは鈍麻さ
などの特性が幼少期から見られ、日常生活に困難を生じる発達障害の一つです。

知的障害(知的発達症)を伴うこともあります。

幼少期に気づかれることが多いといわれていますが、症状のあらわれ方には個人差があるため就学期以降や成人期になってから社会生活において困難さを感じ、診断を受ける場合もあります。

高機能自閉症のある子どもの困りごと

高機能自閉症のある子どもの困りごと

高機能自閉症のある子どもには、よく見られる困りごとがあります。
ただし、必ずしもすべての子どもに当てはまるわけではなく、一人ひとり特徴は異なります。

 

人との関わりに関心がない、もしくは過剰に関心がある

高機能自閉症の特徴として、社会性と対人関係の障害があります。
視線が合わなかったり近づくと避けたり、人との関わりがあっても興味や感情を共有することが少ないといった特徴があります。

反対に一方的すぎるコミュニケーションをとってしまい、双方向の対人関係をうまく築くことができない特徴もあります。

 

同じやり方や状態にこだわる

高機能自閉症の特徴に、限定的な反復行動に基づく困りごとがあります。
例えば、毎日同じ道順をたどる、同じ服を着ることや同じ食べ物を食べることを要求する、ドアを何度も開け閉めするといった生活習慣や、ミニカーのタイヤを回してずっと遊んでいるといった遊び方があげられます。

 

感覚(痛みや音、におい、光など)に無関心、もしくは過度に反応する

高機能自閉症は、感覚に偏りがある場合があります。
身体を触られることを極端に嫌がったり、赤ちゃんの泣き声など特定の音を嫌がりパニックを起こしたりすることがあります。

また、食感や味覚に敏感で、特定の食べ物しか食べられず偏食になるというケースもあります。

高機能自閉症のある子どもへの接し方

高機能自閉症のある子どもへの接し方

高機能自閉症のある子どもに接する時は、工夫することで困りごとや生きづらさをやわらげることが期待できます。
子どもの様子を見ていて気になる点があれば、専門機関に相談の上、接し方を工夫してみてください。

 

簡単な言葉で、統一した言葉かけを行う

曖昧な表現で伝えると高機能自閉症の子どもは混乱しやすくなります。
簡単な言葉でゆっくりと話すことを心がけてみましょう。
例えば「ちゃんと座って」ではなく「前を向いて座ろう」、「そこに置いて」ではなく「机の上に置いて」など、短い言葉で具体的に伝えることがポイントです。
また言い方が変わると同じことであるとは理解しづらいため、繰り返し同じことを伝えたい時には伝え方を統一しましょう。

 

落ち着ける環境を用意する

苦手な音が聞こえる場所や、たくさんの物が見える環境では、子どもに刺激を与えてしまいます。
静かなスペースを用意して落ち着けるようにしたり、壁や机の上をスッキリさせる・物が置かれている場所にはカーテンをつけるなどして気が散らないようにしたりして、子どもが安心して過ごすことができる環境を用意しましょう。

 

興味の幅が広がるような工夫をする

高機能自閉症の特徴として、同じことを繰り返すことが挙げられますが、無理に別のことに興味を持たせる必要はありません。

いつもの遊びをしてから他の遊びにも誘ってみることで、興味の幅が広がるきっかけにつながるかもしれません。

例えば、いつもミニカーを並べて遊んでばかりという場合には、車が描かれた絵本を一緒に見たり、積み木や折紙・段ボールなどを使って車を作ってみたりと、いま興味があるものから少しずつ他のことにも興味を持つことができるよう、機会を用意しましょう。

 

スケジュールや手順を視覚的に伝える

高機能自閉症の子どもは、想像力や応用力を使うこと、物事を直感的に理解することが苦手なケースが多いです。
また、変化に不安を感じやすく、パニックにつながることもあります。

そのため、先の見通しや、自分がやることを目に見える形で共有することで安心感を与えることができます。
「学校に行く前に、顔を洗って、着替えて、ご飯を7時半までに食べて……」と言葉で伝えてもイメージがしづらいため、文字や絵など視覚的に認識できる方法で伝えましょう。
また、「いつ始まるのか」「いつ終わるのか」を感じ取ることが苦手で、強いストレスを感じる場合があります。

その際も砂時計やスマホのアラーム、時計の文字盤などを使って、いつ今の状況が終わるのか、いつから次の行動を始めればいいのかを把握しやすいようにしましょう。

高機能自閉症に関する相談先や支援について

高機能自閉症に関する相談先や支援について

高機能自閉症は、気づきにくい障害の一つです。
保護者としては、「発達に気になる点があるが、発達障害なのかどうか判断がつかない」「高機能自閉症と診断されたが、具体的にどのように接したらいいのか分からない」ということもあるでしょう。

子どもの発達障害について不安や悩みのある保護者や、発達障害の診断がある子どもの保護者に向けて、相談先と支援の流れを簡単に紹介します。

 

発達障害に関する相談先

発達障害に関して相談する際、以下のような機関が利用できます。

 

・子育て支援センター

主に乳幼児の子どもと子どもを持つ親が交流を深める場、市区町村ごとに、公共施設や保育所、児童館などの地域の身近な場所に設置されています。育児や発達に関する発達相談も受け付けており、相談・診察の状態によっては近隣の医療機関を紹介してもらうこともあるそうです。

 

・児童発達支援センター・児童発達支援事業所

障害のある子どもが通所し、日常の基本動作・集団適応といったスキルの訓練を行う施設です。お住まいの市区町村へ問い合わせが必要です。

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・発達障害者支援センター

保健、医療、福祉、教育、労働などの関係機関と連携し、地域における総合的な支援ネットワークを構築しながら、発達障害児(者)への支援に関する地域の機関なども紹介しています。児童相談所や医療とも連携を図り、発達障害に特化した支援を行います。

 

発達障害のある子どもへの支援

現在、高機能自閉症を根本的に治療する手段はありません。
しかし、トレーニングによって本人のコミュニケーション能力を高めたり、周囲からのサポートを受けることで困りごとを減らすことはできます。

子どもの頃から「療育(発達支援)」を受けることにより、言葉や身体機能など発達に遅れの見られる子どもが、一人ひとりの障害特性や発達状況に合わせて、困りごとの解決と将来の自立、社会参加などを目指し、日々の困りごとを減らすことが期待できます。

また、子どもに発達障害の診断があると、一人ひとりに合わせた個別の支援計画の立案や合理的配慮を受けやすくなります。
障害者手帳取得による公共施設利用時の割引、受給者証の取得とそれによる療育の負担費用軽減、障害年金の受給可否、薬の処方などの行性的サービスを受けることも可能です。

ただ、検査の結果、発達障害の診断が下りないこともあります。だからといって「発達障害の特性が全くない」とは言い切れません。
子どもの体調や状態によって結果は左右されるので、検査の結果を踏まえて「ここは得意だけど、この部分は苦手」「このあたりに困りごとが強くありそう」など、子ども一人ひとりの特性や傾向を把握することが大切です。

診断を受けるのかどうか、受給者証を取得するのかどうか、公的サービスを利用するのかどうかなど、それぞれの家庭で考え方も異なるため、一概にこうするべきと言うことはできません。

ただし、子どもの困りごとを減らし、より安心して暮らすことができるようにするためには、まず子どもにどんな特性があるのかを把握し、適切な支援方法を探ることが必要不可欠といえるでしょう。

高機能自閉症についてまとめ

高機能自閉症についてまとめ

高機能自閉症は、一般的に使われている名称ですが、診断名として使用されることはなくなりつつあります。

現在は、ASD(自閉スペクトラム症)の名称に統一が進んでいます。

発達障害は目に見えない障害のため、なかなか周囲から理解を得られなかったり、本人も障害があることに気づいていなかったりする場合も多くあります。
高機能自閉症の特徴を理解することで、本人の困りごとを緩和したり、周囲も関わりやすくなったりすることが可能になります。

高機能自閉症の子どもが適切な支援を受けられるよう、高機能自閉症の特徴や困りごと、必要になるサポート方法を理解した上で支援を行っていきましょう。

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