2022.09.26
3歳頃になると、保育園や幼稚園に通う子どもも増え、集団生活の中で他の子どもとの違いや、困りごとが気になりはじめる保護者さまもいらっしゃるのではないでしょうか。
周りの子どもと比べて、言葉の遅れが見られたり、集団生活が難しかったり、時には周囲とのコミュニケーションが苦手ということもあります。
子どもの成長には個人差があるとはいえ、あまりに他の子どもと違うところがあったり、同じ問題行動が繰り返し見られると、保護者としては気になるところ。
今回は、特に3歳頃に見られることが多い発達障害の特徴について、チェックリストを交えて解説します。
監修
井上 雅彦
鳥取大学医学系研究科臨床心理学講座教授。応用行動分析学が専門。30年以上ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもや家族の相談、療育・家族支援プログラムの開発に携わる。
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発達障害とは、生まれつき脳機能の発達の凸凹(でこぼこ)が激しく、周囲の環境や人間関係とのミスマッチから社会生活上の支障が生じる障害のことです。
発達障害の原因というと、「遺伝」「親の育て方に原因がある」などさまざまなことを言われることもありますが、遺伝や育て方が発達障害の原因とは関係ありません。
現在わかっていることは、生まれつき脳の働き方(機能)の違いがあり、行動や情緒に特徴があるということだけで、はっきりとした原因やメカニズムはまだ分かっていません。
同じ診断名であっても人によって症状の個人差が大きく、また同じ人でも年齢や環境によって症状の表れ方は変化します。
加えて複数の発達障害の特性が組み合わさって見られることもあります。
3歳児健診で「発達に関して気になる点がある」と言われることもありますが、専門の医療機関で相談したとしても、3歳の段階で発達障害と断定することは難しいことが多くあります。
早期の段階から過剰に気にする必要はありませんが、子どもの特性に早くから気づき、特性に合わせた関わり方をすることで、症状の改善が見られたり、子ども自身が生きやすくなったりすることが期待できます。
周囲とのコミュニケーションで困りごとを感じたり、周りの友だちよりできない・保護者や先生に怒られてばかりという経験を積んだりすることで、子どもの自信や自己肯定感が下がり、結果的に二次障害の発症につながる可能性もあります。
大切なのはその子の特性を受け止め、周囲の環境や困りごとに合わせて適切な支援を行なっていくことです。
発達障害はその特性や表れる困りごとによって、大きく3つのタイプに分けられています。
ASD(自閉スペクトラム症)は、自閉症やアスペルガー症候群、広汎性発達障害などが統合されてできた診断名です。
・主な特徴
①社会的コミュニケーションや対人関係の困難さ(=コミュニケーションがうまく取れないなど)
②限定された行動、興味、反復行動(=強いこだわりが見られるなど)
他にも手先が不器用、感覚刺激に過敏・鈍いなどの特性が見られることもあります。
ADHDには「不注意」「多動性」「衝動性」の3つの特徴が主に見られますが、要素の表れ方の傾向は「不注意優勢に存在」「多動・衝動優位に存在」「混合して存在」というように人によって異なります。
・主な特徴
①不注意(=集中力がなく飽きっぽい、忘れ物・失くし物が多いなど)
②多動性(=手足をいじっていつも落ち着きがないなど)
③衝動性(=順番が待てない、会話の流れや雰囲気を気にせず発言するなど)
学習障害は限局性学習症とも呼ばれ、知的発達の遅れがないものの、「読む」「書く」「計算する」などの能力に困難を示す発達障害です。
・主な特徴
①字を読むことに困難がある:ディスクレシア(読字障害)
②字を書くことに困難がある:ディスグラフィア(書字表出障害)
③算数・計算、その場にないものを推論することに困難がある:ディスカリキュア(算数障害)
一言で「発達障害」といってもさまざまな種類が存在しています。
個人差や年齢差もありますが、一部共通して見られる「困りごと」があるため、チェックリストとして紹介します。
「発達障害であるかどうか」の診断は専門の医療機関での相談が必要になるため、チェックリストはあくまでも普段の様子を観察し、気になる傾向が見られるかどうかを確認することを目的にご使用ください。
当てはまる項目が多いからといって、発達障害であることを断定するものではありません。
・一人遊びや独り言が目立つ
・集団を避ける
・気に入ったセリフやフレーズを繰り返す
・言葉の遅れが見られる、周囲とのコミュニケーションが難しい
・特定の音やにおいなどの感覚的な刺激に対して、強い拒否やこだわりをしめす
・おもちゃや特定の物の操作で同じことを繰り返す
・変化が苦手で、いつものやり方や手順が崩れることを嫌ったり、初めての物や場所を極端に怖がる
・夜中に起きることが多い、寝つきが極端に悪い
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学習障害(LD)は「読む」「書く」「計算する・推論する」能力に関係する特性のため、就学した後に表出することが多い発達障害です。
3歳の時点では、まだ学習障害(LD)と分からないことが多くあります。
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チェックリストに当てはまる項目が多かったからといって、発達障害であると断定することはできません。
発達障害の診断を行えるのは医療機関のみのため、大学病院や総合病院、小児科・児童精神科・小児神経科や発達外来などへの相談が必要となります。
また、最初から医療機関に受診するのではなく、地域の発達相談の窓口に相談し発達検査や発達相談を受けた後に、受診してもいいでしょう。
発達障害の特性が見られるものの、診断の基準には満たない「グレーゾーン」の場合もあります。「グレーゾーン」の場合、見られる特性の程度によって療育施設に通う場合や、しばらく経過観察をおこなう場合などがあります。
アメリカ精神医学会の診断基準である「DSM-5」(「精神疾患の診断・統計マニュアル」第5版)を用いて診断を行います。
表れる症状について医師が問診や行動観察を行い、必要に応じて心理検査や発達検査などを行います。それらの結果が「DSM-5」の診断基準を満たすかどうか、日常生活・社会生活に著しい不適応を起こしているかどうかなどを総合的にみて、発達障害かどうかを診断します。
特定の症状が6ヶ月以上継続して認められるか、少なくとも2つ以上の状況(例:家庭と園)で見られるかなどが診断基準となっている場合もあるため、一度の受診だけではなく継続的な検査・経過観察が必要なケースもあります。
診断の際には現在子どもの特性や困りごと、生育歴や各健診の様子などが聞かれるため、普段の様子をメモしたものや母子手帳などを準備しておくといいでしょう。
前述した、チェックリストの内容が役に立つ場合もあるかと思いますので、参考にしてみてください。
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発達障害かもと思ったら、まずは専門の相談機関で相談してみましょう。
その後、医療機関で発達障害であると診断された、もしくは診断にはいたらないものの、発達に気になる点があると認められた場合、障害児通所支援を利用して支援をスタートさせることができます。そのためにはまず「通所受給者証」(通称:受給者証)の取得が必要です。
受給者証の取得にあたって、発達に支援が必要である証明として、①〜③のいずれかが必要です。
①医師意見書(確定診断がなくても、意見書があれば受給者証の取得が可能)
②医師による発達障害に関する診断書
③療育手帳
住んでいる自治体の福祉窓口で相談をすれば、地元で受診できるクリニックを紹介してもらえる場合もあります。
自治体の窓口で必要書類を揃えて受給者証の申請を行い、自治体職員による聞き取りを受けた後、受給者証が支給されます。
申請から支給決定までの期間は自治体によってさまざまです。約2週間の場合もあれば、1〜2ヶ月かかる場合もあります。
受給者証と、受給者証の支給量(障害児通所支援を利用できる1ヶ月あたりの日数)などを踏まえて作成した「障害児支援利用計画」が揃うと、実際に施設と契約することができます。
申請前〜支給決定までの期間に、各施設に問い合わせたり見学を行なったりしておくと手続きや契約がスムーズになるかもしれません。
障害児通所支援の福祉サービスは目的や対象によってさまざまです。
例えば、事業所によって「集団療育」を中心に提供しているところと「個別療育」を中心に提供しているところがあります。集団が苦手なお子さんの場合、個別療育を中心に支援をしている事業所が入りやすいでしょう。
個別療育を提供しているところも、徐々に集団療育に移行するプログラムを提供している事業所もあるので、実際に見学をしたり、職員に話しを聞いてみるとよいでしょう。
またお試しで、実際の療育内容や事業所の雰囲気を知るために体験をしてみることをおすすめします。子どものニーズに合った支援が受けられるか、通いやすい場所・時間で利用できるか、定員に空きがあるかなど、さまざまなポイントを施設側と相談・見学しながら、利用する施設を決定しましょう。
発達に対してはさまざまな支援が行われます。ここでは具体例として一部をご紹介します。
療育とは、個々の発達の状態や障害特性に応じて、今の困りごとの解決と将来の自立と社会参加を目指して行います。発達支援と呼ぶこともあります。
3歳ごろの支援としては具体的に以下のような療育をされることがあります。
・身辺自立のトレーニング
・微細運動
・認知トレーニング
・感覚運動
・コミュニケーション など
ここでは、保護者のお困りごととしてよく挙げられる身辺自立に関して具体的な支援方法をご紹介します。
身辺自立のトレーニングは、着替えやトイレ・食事などの身の回りの生活の基本的な動作についての困りごとに対する療育です。
例えば、「ボタンを付けることや外すことができない」というお子さんに対して、微細動作(手の細かい動作)が必要となる遊びを増やしてみるという方法があります。
具体的には、自動販売機のおもちゃにコインをいれることや、紐通りやブロック(LAQ)など協応動作(手と足、目と手など別々に動く機能をまとめてひとつにして動かす運動のこと)が含まれる遊びをしてみるといいでしょう。お子さんが楽しめそうな遊びをお子さんのレベルに合わせて一緒にやることが重要です。
このような療育はご自宅でも実施ができますが、一人でやるには「難しい」「不安」という保護者の方も多いのではないでしょうか。
各地域において療育をしてくれるさまざまな社会資源があります。
例えば、療育を担っている機関としては、児童福祉法に基づく児童発達支援センターや児童発達支援事業所があり、0〜6歳の幼児が対象になっています。小学生以上の場合、放課後等デイサービスの対象となります。
自治体や運営している機関により、集団や個別などの支援形態、どのような支援が受けられるのかが異なります。まずはどのような療育をしているか、問い合わせをし、見学をしてみることをおすすめします。
療育が子どもが対象である一方、ペアレント・トレーニングは保護者を対象として講義やワークが行われます。
例えば講義では障害理解や事例を学び、ワークでは講義内容を実際に子どものケースに当てはめて考えます。
学んだことを自宅でホームワークとして実践し、次回の講義で難しかった点や感想をグループで共有したり、講師に相談したりすることで、振り返りと改善を行います。
個別ではなくグループでおこなうことにより、同じ悩みを持つ他の保護者との出会いや共感、他で実践している工夫が参考になるなどのメリットがあります。
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3歳は子どもの成長にも変化が感じられる時期です。
保育園や幼稚園など、集団生活を送る時間も増えていくため、周りの子どもと比較して発達の気になる点が顕著になることも多くなります。
子どもの成長は個人差が大きいため、気になる点があるからといってすぐに「発達障害」であると判断する必要はありません。
大切なのは、子どもがどんな環境でどんなことに困っているのかを観察し、困りごとが軽減されるよう適切なサポートを行っていくことです。
チェックリストに基づき、発達に気になる点がある場合は、ぜひ一度、発達相談機関で専門家に相談してみてください。
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