発達障害とは、生まれつき脳機能の発達の凸凹(でこぼこ)が激しく、その子の周囲の環境や人間関係とのミスマッチから社会生活上の支障が生じる障害のことです。ここでは、発達障害のある子どもの特徴や接し方などについて分かりやすく説明します。
発達障害はその特性や表れる困りごとによって、大きく3つのタイプに分けられています。
忘れ物や遅刻などの不注意、じっとしていられなかったりなかなか集中できなかったりといった多動性・衝動性を主な特徴とする障害です。
対人関係の困難や興味・関心の限定、特定の行動を繰り返すなどの特徴があります。ASD(自閉スペクトラム症)はコミュニケーション能力や社会性に関連する脳機能の偏りを広く捉えており、よく耳にする「自閉症」や「アスペルガー症候群」の症状もASD(自閉スペクトラム症)に含まれるという考え方が一般的になってきています。
読み書きや聞く・話す、計算・推論することなどが著しく苦手な特徴があります。「学習障害」と呼ばれることが多いです。
発達障害の原因は現時点では特定されていませんが、生まれつき脳機能に偏りがあることで、さまざまな特性が現れるとされています。
実際に2004年12月に公布された発達障害者支援法においても、発達障害は「脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの」と定義されています。
脳機能の偏りが生じる理由についても明確にわかっていません。一部には遺伝的な要因が絡んでいるとされていますが、影響があったとしても単一ではなく複合的な遺伝的要因と、その他にもさまざまな環境要因が影響しあった結果として脳機能の偏りが生じると推測されています。
このように、発達障害は遺伝などの要因が指摘されていますが、なぜ脳機能の発達に偏りが生じるのかについてははっきりとは分かっていません。
親のしつけの仕方や愛情の注ぎ方が影響しているのでは、と考える方もいるかと思いますが、そういったことは発達障害の発症とは関係ありません。同時に本人のわがままでもないことを理解しましょう。
また、診断名が同じでも子どもの性格や環境などによって生じる困り事は異なります。一人ひとりの状況に合わせて環境調整など対策を行い、困り事を減らしていくことが大事です。
発達障害のある子どもに見られる特性・特徴の一例を紹介します。このような特徴のあらわれ方は前述したの3つの診断名によって異なりますし、それぞれの子どもの発達の状態によっても変わってくるため、あくまでも例になります。
発達障害の特性はさまざまであり、子どもの得意・不得意に応じた接し方をすることが重要です。以下で主な発達障害の特性に対する接し方の事例を紹介します。
発達障害の特性は、単体ではなく複数が重なっている場合も多くみられます。
例えばADHDと学習障害が重なっている子どもの場合、勉強が苦手で集中力も途切れやすいことがあり、学習面での手厚いサポートが必要です。
特性が重なるとサポートも難しくなる場合があります。支援機関や医療機関の専門家などに相談しながら対応方法を考えていきましょう。
発達障害の診断は専門の医療機関で行われます。大学病院や総合病院、小児科・児童精神科・小児神経科や発達外来などで行っていますが、受診を検討している病院が発達障害の診断を行っているかあらかじめ確認しておくようにしましょう。
どういった病院を受診するか迷う場合は、後ほど紹介する支援機関などに相談をしてみる方法もあります。
発達障害の診断方法は医療機関によって異なりますが、基本的に問診や心理検査などを行い、その結果をもとに医学的に診断基準に適合しているかを総合的に判断されます。
問診では、保護者から子どもの家庭や幼稚園・保育園、学校での様子の聞き取りも行われます。事前に母子手帳や園との連絡帳、学校の通知表、気になる様子のメモなどを用意しておくとスムーズに受け答えすることができるでしょう。
医学的な診断基準としては、現在では主にアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)が用いられています。
以下のような条件をすべて満たすことがADHDの診断基準となっています。
「不注意(例:注意を向けることや持続することが難しい、不注意な間違いをする、物事を順序だてることが苦手 など)か「多動性および衝動性(例:じっとせず手足を動かす、席についていることが苦手、走り回ったり高いところへ登る、しゃべりすぎることがある など)」といった様子に6個以上該当し、かつ6か月以上継続していること。
また、そういった様子が
・12歳以前から見られること
・2つ以上(家庭と学校など)で見られること
・日常生活や学校などに大きな影響を与えていること
・ほかの疾患などでは説明できないこと
となっています。
以下のような条件をすべて満たすことがASD(自閉スペクトラム症)の診断基準となっています。
「対人関係の困難(例:他者との距離感を計ることの困難、非言語的コミュニケーションの難しさ、状況に合わせた振る舞いの難しさ など)」と「興味関心の偏り(例:同一性・習慣へのこだわり、限定された興味関心、感覚過敏/鈍麻 など)」といった様子に該当すること。
また、そういった様子が
・発達早期から見られること
・2つ以上(家庭と学校など)で見られること
・日常生活や学校などに大きな影響を与えていること
・ほかの疾患などでは説明できないこと
となっています。
以下のような条件をすべて満たすことが限局性学習症/学習障害(LD)の診断基準となっています。
学習において「識字(単語を間違って読む、発音の困難、文章の理解の困難、)」「書字(文法や句読点を間違える、言葉を書くことの困難)」「数字(数の概念や計算の困難、推論の困難)」といった様子が6か月以上継続して見られること。
また、そういった様子が
・年齢に対して期待されるよりも低く、学業や日常生活に影響を与えていること
・ほかの疾患や視力・聴力、学習の指導方法などによって説明できないこと
となっています。
子どもの発達が気になる場合の相談先を紹介します。相談自体は発達障害の診断がなくても行うことができますので、「病院を受診するか迷っている」といった場合も相談を検討してみるといいでしょう。
児童相談所は18歳未満の子どもに関する相談を受けている機関です。児童福祉司・児童心理司・医師・保健師などの専門スタッフがいて、子ども本人や保護者、地域の方など幅広い人からの相談を受け付けています。子どもの発達が気になる場合の相談に対しても、助言や医療機関や支援機関の紹介などを行っています。
子育て支援センターは、児童福祉法に基づく「地域子育て支援拠点事業」の一つとして設置されている機関です。主に乳幼児の子どもと保護者が交流を深める場です。子どもの発達が気になるといった育児の相談をはじめ、地域の子育て家庭の相談援助も行っています。
市町村保健センターは市町村が設置・運営している、地域の保健や衛生に関する業務を担当している行政機関です。1歳半検診や3歳児検診も行っており、子どもの発達についての相談に対しても、助言や必要に応じて医療機関や他の支援機関の紹介などを行います。
発達障害など障害のある子どもに、地域で支援を提供する機関です。障害のある子どもが通って、日常生活を円滑に営むための知識・スキル習得のためのプログラム、対人関係など集団生活に適応するためのサポートなどを提供しています。
発達障碍者支援センターは発達障害のある方向けにさまざまなサポートを提供している支援機関です。年齢にかかわらず発達障害の方やその家族などからの相談に対して、必要な助言や医療機関、支援機関の紹介を行うなどのサポートを行っています。
発達障害の子どもが受けることができる支援として「療育」があります。また、学校などでの困り事を減らす制度として「合理的配慮」も紹介します。
療育は発達支援とも呼ばれていて、発達障害など障害のある子ども一人ひとりの障害特性や発達の段階に合わせて、学習や対人関係スキルの指導などのサポートを行っていく支援のことです。
療育には「対人関係スキルの構築」「子どもに合った学習方法の指導」「身体の使い方の訓練」「感情コントロール方法の取得」などさまざまなアプローチがあるため、子どもの困り事に合わせて選んでいくといいでしょう。
療育を受けることができる場所としては「児童発達支援センター」や「児童発達支援事業所」などがあります。こちらは未就学の子どもが対象となっており、小学生~18歳までの子どもは「放課後等デイサービス」が対象となります。
合理的配慮とは障害のある方もない方も、教育や仕事など社会生活において平等に参加できるために、それぞれの障害特性や困り事に合わせて実施される配慮のことです。
「障害者差別解消法 (正式名称:障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)」により、この合理的配慮の提供が、行政・学校といった事業者に求められるようになりました。合理的配慮は双方の話し合いの元、無理のない範囲で実施されます。
学校で行われている合理的配慮の例としては
・文字を読むのが苦手な子どもへ、プリントを拡大コピーして渡す
・集中の持続が難しい子どもへ、テストを別室で実施する
・視界情報が多いと気が散る子どもへ、席を一番前にして視覚情報を減らす
といったものがあります。
合理的配慮を希望する場合は、まずは担任や学年主任、スクールカウンセラーなどに相談をしていくといいでしょう。
発達障害の特性がある子どもを見守り育てるなかで、さまざまな苦労があるかもしれません。
まずは、子どもが今できていることに目を向けて、褒める言葉がけを増やすのも一つです。子どもの特性や関わり方のコツを学ぶことによって、お互いがその子の得意・不得意に応じた接し方ができるようになることがあります。
子どものケアも大切ですが、保護者のケアも忘れてはいけません。つらくなったら休養をとったり、専門家に相談することも大切です。
【監修】井上 雅彦
無料発達障害のある子どもとその保護者向け勉強会
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