2023.01.26
アスペルガー症候群は発達障害の一つで、コミュニケーション能力や社会性、想像力などに困難を抱え、対人関係がうまく行きづらいという特徴があります。
ただし、言語障害や知的障害は見られないため、「発達障害である」ということに気づかれにくく、何か困りごとが表出したときに「単なる努力不足」「変わっている人」「困った人」と周囲から思われやすい傾向があります。
本人や家族もアスペルガー症候群であることに気づかず、大人になってから別の疾患で病院に行った際に、アスペルガー症候群であることが発覚したというケースもあります。
アスペルガー症候群とはどのような特性があるのか、子どもに見られる特徴・症状にはどのようなものがあるのかなど、詳しく解説します。
※現在は「ASD(自閉スペクトラム症)」に含まれますが、この記事では以前の診断名であるアスペルガー症候群として取り上げます。
監修
井上 雅彦
鳥取大学医学系研究科臨床心理学講座教授。応用行動分析学が専門。30年以上ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもや家族の相談、療育・家族支援プログラムの開発に携わる。
アスペルガー症候群は、「対人関係や社会的コミュニケーションの困難」と「特定のものや行動における反復性やこだわり」などの特性が幼少期から見られる発達障害です。
アスペルガー症候群と類似のものに「高機能自閉症」がありますが、高機能自閉症は診断名ではなく、主に文部科学省の審議会や学校現場など、教育の領域で使われる言葉です。
アスペルガー症候群の特徴としては、遠回しや比喩を使った表現、表情やしぐさなどから相手の感情を読み取ることが困難ということがあり、周囲と円滑なコミュニケーションが取れない・トラブルを起こしてしまうなどの困りごとが起きやすいと言われています。
その他にも、物事に対するこだわりが強いため、一度決まったルーティンが崩れたり、新しい環境への適応が必要になったりすると、混乱し、強く抵抗するケースなどが見られます。
アスペルガー症候群の原因ははっきりとは分かっていません。素因としては、先天的な遺伝的要因があるのではないかと言われており、胎児期や出生後に脳や心身が発達する中で、遺伝的要因とさまざまな環境要因が相互に影響し合って、アスペルガー症候群を含む脳機能障害が起きるのではないかと考えられています。
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アスペルガー症候群は、知的・言語発達の遅れを伴わない発達障害です。
幼児期から目線が合わない、気持ちの共有が難しいなどのコミュニケーション面での困りごとを感じていても、他の知的・言語発達の遅れを伴う障害と比較すると、発達面での課題に気づかれにくいという特徴があります。
言語コミュニケーションを取ることが可能で、学力的に問題が生じていない場合は、子どもの頃や学生時代に病院を受診することがなく、アスペルガー症候群であることに気づかないケースが多くあります。
他のうつ病や適応障害などの症状が見られるようになってから受診し、背景に「アスペルガー症候群」があったことに初めて気づいたという方もいます。
もともと「アスペルガー症候群」は「広汎性発達障害(PDD)」の中の一つとして位置付けられていました。2013年、アメリカ精神医学会が定めている「DSM-5」(「精神疾患の診断・統計マニュアル」第5版)が改訂された際、「アスペルガー症候群」「自閉症」「特定不能の広汎性発達障害」をまとめて「自閉スペクトラム症」と総称されるようになり、2022年(日本語版は2023年)発刊の『DSM-5-TR』では「自閉スペクトラム症」という診断名になりました。
背景として、「自閉症」「アスペルガー症候群」「広汎性発達障害」においては、共通の特性が見られること、同じ診断名の場合でも一人ひとり症状の出方に違いがあることなどから、集合体を意味する「スペクトラム」として考えられるようになったことが挙げられます。
診断名としては「アスペルガー症候群」という名称は使用されなくなっていますが、教育や療育などの現場では「アスペルガー症候群」という言葉を使うため、今回の記事では「ASD(自閉スペクトラム症)」の診断基準を基に、「アスペルガー症候群」について解説しています。
アスペルガー症候群は、「対人関係や社会的コミュニケーションの困難」と「特定のものや行動における反復性やこだわり」などの特性があります。
知的・言語発達の遅れが見られず、特に乳幼児期〜児童期にかけてはアスペルガー症候群特有の困りごとが表面化しづらいことで、他の発達障害と見分けることが難しい場合も多くあります。
下記のような特徴が見られた場合、アスペルガー症候群がある可能性もありますが断言はできません。
アスペルガー症候群があるかどうかの判断は、専門知識を持った医師によってのみ行われるため、個人で判断することなく、気になる点がある場合は必ず医療機関に相談してみましょう。
・人と目を合わせるのが苦手
・乳幼児の頃から視線が合わない
・名前を呼ばれても反応しない
・マイペースな行動が目立つ
・他者への興味が薄く、一人で過ごすことが好き
・言われた言葉をそのままオウム返しにする
・表情などから相手の気持ちを読み取ることができない
・たとえ話をされても理解が難しい
・自分の興味がある話を一方的にしてしまう
・他者が嫌がっていることに気づかない
・冗談やあいまいな表現が理解できない
・決まった順序、道順などに強いこだわりを見せる
・予定や毎日のルーティンが変わるとパニックを起こす
・活動の切り替えが苦手で、次の行動になかなか移ることができない
・好きなことや興味があることへの知識が豊富
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アスペルガー症候群では、さまざまな症状が見られます。
また類似した症状として、「感覚の偏り」や「運動のぎこちなさ」が表れる場合もあります。
アスペルガー症候群のある子どもは、場の空気を読むことや相手の気持ちを理解すること、それに合わせた言動が苦手な傾向があります。
例えば、場にそぐわなかったり、周囲から自己中心的であると思われたり、相手を傷つけるような発言をして周囲からひんしゅくを買うこともあります。
そのため、アスペルガー症候群の特性がある子どもは、対人関係をうまく築くことが難しかったり、学校生活が合わず結果的に不登校になったりということが見られます。
対人関係の障害と似ていますが、アスペルガー症候群のある子どもは、会話の裏側や行間に込められた人の気持ちを考えることが苦手で、明確な言葉でないと理解しづらいという特性があります。
アスペルガー症候群の特性がある子どもにとっては「なんとなく」を理解することは大変困難です。
結果的に言われたことをそのままの意味として受け取ってしまうので、人の発言を勘違いして傷つきやすい一面もあります。
アスペルガー症候群のある子どもは、いったん興味を持つと過剰と言えるほど熱中し、他のことが目に入らなくなったり、自分の興味があることをずっとしゃべり続けたりするという傾向があります。
また、法則性や規則性があるものを好み、周囲から見ると異常と思えるほどのこだわりを見せることがあります。
そのような法則や規則性が崩れることを極端に嫌うため、自分のルールにのみ従って、急な予定変更やルーティンが崩れると、パニックを起こすこともあります。
アスペルガー症候群のある子どもは、視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚の五感において、非常に過敏である「感覚過敏」が見られ、感覚に対しても強いこだわりを見せる傾向があります。
例えば、服の肌触りや着た時の感覚にこだわっていつも同じ服を着たがったり、人の声が多く聞こえる環境(公共交通機関や教室など)で過ごすことに苦痛を感じたりします。
また、食べることにおいても、いちごのようにブツブツした食べ物が怖くて食べられない(視覚)、揚げ物は口の中が痛くて食べられない(触覚)などさまざまな理由から特定の食べ物が食べられない、もしくは特定の食べ物しか食べられない「偏食」が見られる場合もあります。
この「感覚の偏り」で特徴的なことは、さまざまな要因が症状として表れるため、なかなか一概に要因を特定することが難しいことが挙げられます。
アスペルガー症候群の場合、身体をうまく動かすことや手先を使った細かい動きが苦手な場合があります。
これは自分の身体をイメージすることが難しく、身体の部分が今どんな形であって、どんな動きをしているのか、どんな動きをしたいのかなどのことが脳に伝わりにくいためと考えられます。
この運動のぎこちなさによって、スポーツの技術習得から、着替え・靴ひもを結ぶ・階段の昇り降りといった日常動作の習得まで、さまざまな症状として表れることがあります。
基本的にアスペルガー症候群の特性は、年齢に関わらず表れます。
そのため「大人になったら対人関係の障害が見られなくなった」「大人になって初めてコミュニケーションの障害が表れた」ということはありません。
本人や周囲が気づかなかったとしても、子どもの頃からアスペルガー症候群の特性が見られることが多いです。
学校生活では、あらかじめ達成すべきことや手順が決められており、それらをこなすことができれば、大きな困りごとにはつながらない場合もあります。
一方で、大人になり働き始めると、ほとんどの職場では臨機応変な対応が求められます。仕事の優先順位が分からず効率的に仕事を進められない、上司の説明が理解できないなどの困りごとが起き、結果として強いストレスがかかる環境に置かれると、うつ病などを併発する危険性も高まります。
事前にアスペルガー症候群の特性を自分自身で理解し、職場に伝えて合理的配慮を受けることによって、二次障害を引き起こしやすい環境を避けることは十分に可能です。
このように、アスペルガー症候群の場合、周りの環境を整えたり対処法を用意したりすることで、症状や困りごとを和らげることができる場合があります。
子どもの頃からアスペルガー症候群であることに気づき、適切な支援・サポートを受けることによって、大人になってからの症状を軽減することは十分可能だと言えるでしょう。
アスペルガー症候群と一言で言っても、症状は一人ひとりさまざまです。
年齢ごとの困りごとをいくつか紹介しますが、必ずしも全員に当てはまるものではありません。
・特定の順番で活動することや、道順・物の位置などにこだわる
・集団行動をすることが苦手
・同年代の友だちとうまく遊ぶことができない(自分勝手な行動を取ったり、状況を読むことができなかったりして、トラブルにつながりやすい)
・他人との距離が過度に近い(=初対面の人にも馴れ馴れしい)、もしくは遠い(=特定の人物としか交流しない、もしくは一人でいる)など人間関係が極端
・同じ遊びを繰り返す
・ごっこ遊びが苦手
・個数や量の感覚が把握できない
・その場の空気が読めない、その場に合わせた対応ができない
・人を傷つけることを悪気なく言ってしまう
・あいまいなことを理解できない
・冗談や誇張した表現などが伝わらず、素直に傷ついてしまう
・明確な指示がないと動くことができない
・好きなことや自分の興味があることを、相手の反応を見ずに一方的に話してしまう
・決められた予定やルールに対するこだわりが強く、それらを守らない人を許容することができない
・座る席などのこだわりが強く、例外を認められない
・小数や分数といった具体的にイメージがしにくい抽象的な内容を理解することが苦手
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・思春期に入り、人と自分を比較することで劣等感を感じやすい
・「暗黙の了解」や「友だち同士のルール」が理解できず、友人関係がうまく築けない
・相手の気持ちを読み取れず、思ったことをそのまま口に出してしまう
・身だしなみに無頓着で、だらしがない・清潔感がないと周囲から言われる
・プリントや時間割などを自分で管理することができず、学校の準備を自立的に行うことが難しい
・定期テストや受験など、目標に向けて計画的に行動することが苦手で、周囲のフォローが必要
・パソコンやゲームの使用にあたって理性的に行動することが難しく、際限なく遊んだり、無断で課金してしまったりする
・文章問題が苦手で、何を求めればいいのか、何を聞かれているのかを読み取ることが難しい
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アスペルガー症候群は、対人関係の障害やコミュニケーションの障害が生じます。
そのため、アスペルガー症候群におけるコミュニケーションの特性を理解し、接し方を工夫することで、困りごとを減らすことが可能です。
接し方の工夫として、「見てすぐ分かる環境を整える」「指示は短く具体的に」「注意を引いて、事前に伝える」ことなどが挙げられます。
アスペルガー症候群の特性として、漠然とした空間や時間の把握が難しいことが挙げられます。
目で見て理解する方が得意な場合は、イラストや写真を使って、手順や1日のスケジュールを明確にしたり、空間を目的に合わせて仕切り、何をする場所なのか分かりやすくしたりすることで、子ども自身が行動しやすくなることがあります。
アスペルガー症候群の特性として、あいまいな表現が理解しづらいことが挙げられます。「ちゃんと」や「きちんと」など、あいまいで抽象的な伝え方だと、人によって定義が異なり、特にアスペルガー症候群のある子どもは分かりにくく感じてしまいます。
接し方の工夫として、「きちんと片づけてね」ではなく、「車を箱に入れて」と具体的に伝えるとアスペルガー症候群のある子どもも理解しやすくなります。
その他にも、「走らない」など否定的な伝え方ではなく、「歩こう」のように肯定的な伝え方だと、何をしたらいいか指示が入りやすいと言われています。
コミュニケーションを取るときに、口頭のみで伝えると、聞いていなかったり、聞こえていても注意が向いていなかったりするときがあります。
そのため、肩を叩いたり、目を合わせてから話したりなど、注意を引く工夫をすることで、伝えたいことを確実に伝えることができます。
また、アスペルガー症候群の場合、時間のイメージも掴みにくいため、苦手な環境にいる場合、それがいつまで続くのか分からず、パニックを起こしてしまうことがあります。
順番や終わりの合図などを伝え、見通しをつけることで、パニックを起こしにくくなる場合もあります。
アスペルガー症候群は、「DSM-5」において「ASD(自閉スペクトラム症)」に統合されています。
そのため、ここでの診断や治療方法については、「ASD(自閉スペクトラム症)」の情報に基づいてご紹介します。
ASD(自閉スペクトラム症)は、
・対人関係や社会的コミュニケーションの困難
・特定のものや行動における反復性やこだわり、感覚の過敏さまたは鈍麻さ
などの特性が幼少期から見られ、日常生活に困難を生じる発達障害の一つです。
知的障害(知的発達症)を伴うこともあります。
幼少期に気づかれることが多いといわれていますが、症状のあらわれ方には個人差があるため就学期以降や成人期になってから社会生活において困難さを感じ、診断を受ける場合もあります。
アスペルガー症候群を含む「ASD(自閉スペクトラム症)」は、生まれつき脳の機能に何らかの不具合がある障害です。そのため完治するということは難しいでしょう。
しかし、トレーニングによって本人のコミュニケーション能力を高めたり、周囲からのサポートによって困難さを減らしたりすることは可能です。
子どもの特性に合わせて行われる支援のことを「療育(発達支援)」や「環境調整」と言います。
例えば、言葉や身体機能などに特性が見られる子どもに対して、生活の不自由をなくすよう専門的な教育支援プログラムに則ったトレーニングを行ったり、SST(ソーシャル・スキル・トレーニング)を行って対人関係を円滑に行えるような社会生活技能を身につけたりします。
また、対人関係などの悩み・ストレスによって眠れなくなったり、抑うつ的になったりした場合は、それら二次的な症状を緩和させるために、薬物療法が用いられることもあります。
ただし、薬物療法については主治医とよく相談の上、親子ともに納得した形で進められると良いでしょう。
アスペルガー症候群を含む「ASD(自閉スペクトラム症)」かどうかという診断は専門医が行います。
診断は非常に難しい上、時間がかかる・専門の医療機関でなかなか予約が取れないということもあるため、発達に気になる点が見られる場合は、まず専門機関の相談窓口を利用することがおすすめです。
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原則、乳幼児の子どもと子どもを持つ親が交流を深める場です。加えて子育てに不安や悩みがある親子に対して、相談・援助も実施しています。相談の状態によっては、近隣の医療機関を紹介してもらうこともあります。
こころの健康、保健、医療、思春期問題、ひきこもり相談など幅広い相談を受けつけています。
障害のある子どもが通所し、日常の基本動作・集団適応といったスキルの訓練を行う施設です。お住まいの市区町村へ問い合わせが必要です。
保健、医療、福祉、教育、労働などの関係機関と連携し、地域における総合的な支援ネットワークを構築しながら、発達障害のある人への支援を総合的に行う専門機関です。
心の問題や病気で困っている本人や家族及び関係者の方からの相談を受け、心の健康・精神科医療についてのサポートをしてくれる場所です。
アスペルガー症候群とは、発達障害の一つです。
最近では「ASD(自閉スペクトラム症)」という呼び方に統一が進んでいますが、まだ日々の生活の中では「アスペルガー症候群」という言葉を耳にする機会も多くあります。
基本的な特性として、「対人関係の障害」「コミュニケーションの障害」「パターン化した興味や活動」の3つが挙げられます。一方で、言葉の発達や知的発達に遅れが見られないなど、自閉症やその他の発達障害とは異なる特徴も見られます。
アスペルガー症候群のある子どもへの接し方を工夫したり、子ども自身のスキルを伸ばす療育や発達支援を取り入れたりすることで、アスペルガー症候群ならではの困りごとを減らすことも可能です。
子どもがアスペルガー症候群かもしれない、もしくはアスペルガー症候群かどうかは分からないが発達や普段の様子に気になる点があるという場合は、専門機関の相談窓口をぜひ利用してみてください。