2023.01.31
発達障害の診断が下りた時や、子どもの発達について気になる点がある時、多くの場合「療育」もしくは「発達支援」という言葉を耳にするのではないでしょうか。
障害のある子どもやその家族にとって、発達に合わせた支援が受けられる「療育(発達支援)」は身近な存在ではありますが、改めて「療育とは」「療育の種類にはどのようなものがあるのか」「療育を受けるための手順とは」など、気になる点があるかもしれません。
今回は「療育(発達支援)」について詳しく解説します。
監修
井上 雅彦
鳥取大学医学系研究科臨床心理学講座教授。応用行動分析学が専門。30年以上ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもや家族の相談、療育・家族支援プログラムの開発に携わる。
療育(発達支援)とは、障害のある子どもやその可能性がある子どもに対して、一人ひとりの障害特性や発達状況に合わせて、困りごとの解決と将来の自立、社会参加などを目指して行う支援・サポートを指します。
療育は、元々は身体障害のある子どもへの「治療」と「教育」を掛け合わせたアプローチを表す用語として使われていました。現在は、身体障害に限らず発達障害や知的障害など、障害のある子どもや発達が気になる子ども全般が対象となっています。
厚生労働省の「児童発達支援ガイドライン」では、「児童発達支援」を以下のように定義しています。
児童発達支援は、障害のある子どもに対し、身体的・精神的機能の適正な発達を促し、日常生活及び社会生活を円滑に営めるようにするために行う、それぞれの障害の特性に応じた福祉的、心理的、教育的及び医療的な援助である。
療育の対象は、基本的に18歳以下の子どもです。
障害種別については、身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)のいずれかに該当する障害がある子どもが療育の対象となります。受けられる療育の内容は、身体障害のある子どもは機能訓練を受けたり、知的障害のある子どもは認知機能を中心としたアプローチを行ったりと、障害の種類や特性によってさまざまです。
療育の種類には、公費で受けられる発達支援などの公的な療育、主治医の判断で治療の一環として医療行為も含めて行う療育、私費で受ける療育などがあります。公費で療育を受ける場合は、自治体から発行される「受給者証」の申請・取得が必要です。自治体によっては「受給者証」の申請を行うために、医師の診断書が必須の場合もあり、どんな療育を受けたいかによって申請方法も異なるので注意が必要です。
申請方法については「療育(発達支援)を受けるには?」で詳しく紹介します。
療育は障害のある子どもが社会的に自立できること、また、今感じている困りごとを軽減することを目的に、苦手分野を補うことを意識した働きかけを行ったり、コミュニケーションなど社会的スキルが身につくよう支援したりします。
子どもたち一人ひとりが必要としている支援内容は異なるため、一概に療育の方法を断定することはできません。
療育を行っている施設や、子どもの特性や状況によって行う支援やプログラム内容はさまざまです。特に発達障害のある子どもに対して行われる支援は、形式として「個別療育」と「集団療育」の2種類に分けることができます。
個別療育は、子どもと支援員が1対1で行う支援を指します。
集団での療育を受けることが難しい場合や、1対1での指導が適している場合などに「個別療育」を選択します。障害特性に合わせて、応用行動分析学(ABA)やTEACCH、紙カードを使ったPECSなどを活用したさまざまなプログラム、作業療法や言語療法などを行います。
他にも、小学校以降に生じやすい学習の遅れやつまづきを解消するための支援、進学・就職などを目標とした学習プログラムやパソコン指導などを実施する施設もあります。
個別療育のメリットは、一人ひとりの発達状況や困りごとに合わせて、きめ細やかな支援を提供しやすいことが挙げられます。また、1対1のコミュニケーションを通して、子ども自身が成功体験を積み重ねやすいこともメリットの一つです。
デメリットとしては、支援員とのコミュニケーションはあるものの、プログラム内では同年代の子どもとの接点はないため、社会的スキルが扱いにくいことなどの可能性があります。
子どもが複数名集まり、集団でゲームや遊び・ものづくりなどを行う療育方法を指します。
集団行動をする力や同年代の子どもとの関わり方、感情のコントロール方法など、集団生活に欠かせないソーシャルスキルやコミュニケーション能力の向上を主な目的としています。
プログラム内容は施設によってさまざまですが、集団で行うゲーム(鬼ごっこなどルールのある遊び)やスポーツ、音楽活動などを行う場合もあります。小学校高学年・中学生以降になると、グループディスカッションやロールプレイングを取り入れている施設もあります。
集団療育のメリットは、ソーシャルスキルのトレーニングを行うことで、社会生活上で抱いている困りごとにアプローチしやすいこと、同年代の子どもたちの存在が刺激となり、言葉の選び方や行動、感情のコントロールなどを学ぶきっかけにもなりやすいことが挙げられます。
一方でデメリットとして、集団行動に強い苦手意識を持っている場合は、強いストレスになる可能性があります。また、1人の支援員に対して5〜6人以上の子どもが受けるプログラムが多いため、個別療育と比較して一人ひとりに目が行き届かない恐れもあります。
個別療育も集団療育も、支援員には幅広い知識とスキルが必要になります。
施設によっては公認心理師(臨床心理士)や言語聴覚士、作業療法士、保育師などの専門家が関わることもあります。また、親子で一緒に参加するタイプの療育もあります。施設を利用して療育を受ける際は、どんな支援員がいるのか、どんなプログラムを受けられるのか、親子で参加できるのかなど、気になる点について必ず事前の確認が必要です。
療育では、主に「健康・生活」「運動・感覚」「認知・行動」「言語・コミュニケーション」「人間関係・社会性」の5つの領域において、さまざまなアプローチを行います。
心身の健康や生活に関する領域で、「お風呂や歯磨きなどを極端に嫌がる」「毎日のことなのに支度や片付けができない、忘れ物が多い」などの困りごとが表れる場合があります。
発達障害の場合、特性によって強いこだわりやマイルールがあったり、感覚過敏(触覚過敏)があったりすることで、お風呂や歯磨き、トイレなどの生活習慣にも高いハードルを感じるケースがあります。
また、ADHD(注意欠如多動症)の場合、本人の努力や親の育て方とは無関係に不注意あるいは多動・衝動が見られることがあります。
発達障害の特性が日常の活動に悪影響を与える場合、療育では健康な心と身体を育て、自ら健康で安全な生活を作り出せるよう支援を行います。
集団生活の中で「他の子どもたちと同じように運動ができない」という困りごとだけでなく、「じっと椅子に座っていられない」「指先が不器用で朝の着替えや身支度ができない」という場合も、運動機能や身体動作の適切なコントロールが必要です。
特に発達障害がある子どもの場合、運動機能や身体動作のコントロールが難しく、生活上の困りごとにつながっていることが多いです。
療育でのアプローチを通して、自分が考えた通りに身体を動かすことができるよう支援を行います。
発達障害の場合、個人差はありますが認知・行動の面で一定の特徴が見られることがあります。
例えば、「先生からの一斉指示が通りにくい(=自分に言っていると認識しづらい)」「状況判断が苦手(=ある一場面だけ見て判断したり、自分のこだわりに固執したりする)」「場に合った行動ができない(=暗黙のルールを理解することが難しい、集中力・落ち着きがない)」などの、認知・行動の面で困りごとが表出することがよくあります。
また、発達障害では「認知の歪み」と呼ばれる考え方のパターンに対して、認知行動療法でアプローチする支援方法があります。
認知の歪みには10個のパターンがあり、「白黒思考(全ての物事を白か黒かではっきりさせなければ気が済まない)」「過剰な一般化(一度か二度起きたことでも、それがいつでもどんな場合でも起こるかのように認識する)」「マイナス思考(良いことがあっても全て悪い方向へ考える)」などが挙げられます。
これらは、発達障害の有無にかかわらず、考え方の癖としてどのような人にも表れる可能性があります。
言語・コミュニケーションに困難を抱えている場合、言語理解が不足していることで約束ごとが守れなかったり、表出言語が少ないために明確な意思疎通が取れず対人関係でつまづいたりするケースがあります。
言葉を覚える・話せるようになるという部分だけではなく、表情やイントネーション、頷きなどの動作、会話の往復回数なども含めて、コミュニケーションスキルが培われるよう、療育を通して支援を行います。
障害がある子どもの場合、日常生活における「あいさつ」や、授業中は席に座る、公共交通機関では静かにするなどの「決まりごと」などを、理解した上で適切に振る舞うことが難しい場合が多くあります。
対人関係において失敗体験を積み重ねてしまうと、日常的に強いストレスを長期間感じることになり、二次障害につながりかねません。
療育では一人ひとりの苦手・困りごとの背景を探りながら、状況に合った行動が取れるよう、サポートを行っていきます。
療育には「個別療育」と「集団療育」の大きく分けて2種類があると紹介しましたが、その中で行われるプログラムの種類もさまざまです。
ここでは代表的な療育の種類を7種類を紹介します。
応用行動分析学(通称:ABA)とは、発達障害がある子どもの療育における、ベースとなる考え方の一つです。
人間の行動を「個人と環境の相互作用」の枠組みの中で分析し、実社会の諸問題の解決に応用していく理論と実戦の体系を指します。
つまり、行動の原因・きっかけと結果に着目し、個人と取り巻く環境を分析しながら、問題行動の改善や望ましい行動の強化に取り組みます。応用行動分析学の基本的な考え方としては、個人に対してだけでなく、周囲の環境(モノ、人)にもアプローチすることです。
例えば、感覚過敏で学習に集中できない子どもがいる場合、部屋の色を変えたりイヤーマフで耳に入ってくる音を減らしたりと、周囲の人の会話や行動を変えることによって、学習に集中することを支援します。
このように応用行動分析学では、(1)行動の原因を理解・特定すること、(2)適切な手法を知ること、(3)その手法を実践し続けることの3点が大切です。
「TEACCHプログラム」とは、ASD(自閉スペクトラム症)の当事者とその家族を対象とした生涯支援プログラムです。
このプログラムは人生を通して行われるもので、「ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもの診断・評価」「構造化を特徴とした療育プログラム」「家族・支援者サポート」「就労支援」など、さまざまな角度からのサービス群から成り立っています。
自治体と大学が主体となり、研究機関・専門家・家族・本人・地域社会が一体となってプログラムを運用していることが特徴で、発祥地のアメリカ・ノースカロライナ州以外の世界各地でも広まっています。
ASD(自閉スペクトラム症)が持つ「コミュニケーションの困難」「視覚優位」「こだわりの強さ」などの特性を「自閉症の文化(Culture of Autism)」と肯定的に表現し、ASD(自閉スペクトラム症)の人々に「世界の捉え方が一般の人とは異なる」という態度で向き合うことも特徴です。
日本の療育の現場においても、TEACCHの考え方が基になり「視覚的構造化」や「ワークシステム」などを活用した支援プログラムが実践されています。
SST(ソーシャルスキルトレーニング)とは、さまざまなプログラムを通して対人関係など社会生活に必要なスキルを学んでいく支援を指します。
「周りの子どもとコミュニケーションを取ることが苦手」「自分の思い通りに行かないとパニックになって癇癪(かんしゃく)を起こしてしまう」など、対人関係での困りごとを抱える子どもは多くいます。
SSTは、そのような子どもの対人関係を円滑にするためのトレーニングとして、状況に応じた適切な振る舞いや、社会生活を営んでいくために必要なスキルを養うことが目的とされています。
一般的にSSTは「教示→モデリング→リハーサル→フィードバック→般化(はんか)」の流れで進められることが多く、最終的にはSSTを通して学んだスキルが実際の生活の中で使えるようにすることを目標としています。特に、ロールプレイなどルールのある遊びを通してSSTを行うことが多く、同年代の子どもとの集団療育を通してソーシャルスキルを身につけていきます。
言語療法とは、言語、聴覚、発声・発音、認知等の各機能が病気や事故、先天性・加齢等により不自由になり、それにより社会生活上必要とされるコミュニケーションに障害がある時に用いる治療法を指します。
主に言語聴覚士(ST)が評価・訓練・指導・援助などを行います。
例えば、失語症の方に対して、言葉を聞いて理解する、言葉を話す、文字を読んで理解する、文字を書くなどの訓練を行います。また家族に対して、より円滑にコミュニケーションを図るための方法についてサポートを行うこともあります。
呂律が回りにくく、発声・発語がはっきりしないなどの症状がある構音障害の方に対しては、口が動かしやすくなるようになるための口腔の体操や、はっきり話せるようになるための音読練習などを行います。
コミュニケーション機能の障害に対するサポート以外に、摂食・嚥下に対する訓練も行います。
運動療法とは、運動を行うことで障害や疾患の症状の改善や予防を図ることを指す。
以前は、運動療法というと、脳卒中後の身体の麻痺に対するものや、骨折や腰痛などの整形疾患に対するものが主流でした。
最近では、糖尿病や高血圧などの生活習慣病の改善や予防、心臓リハビリテーション、呼吸リハビリテーションなど内科疾患に対する運動療法も積極的に行われており、発達障害の一種である発達性強調運動障害(DCD)の療育や支援の手段としても活用されています。
運動療法には、有酸素運動、無酸素運動、筋力トレーニング、ストレッチなどの種類があります。
子どもの発達では、姿勢を保ったりバランスを取ったり、身体全体を使って走ったりジャンプをしたりするような「粗大運動」と、手や指を使った細かく精密な動作を必要とする「微細運動」が重視されています
感覚統合療法とは、学習障害(限局性学習症、LD)やASD(自閉スペクトラム症)を含めた発達障害がある子どもへのリハビリテーションの一つです。
そもそも感覚統合とは、複数の感覚を整理したりまとめたりする脳の機能のことを指します。
人間の感覚には五覚(触覚・視覚・聴覚・味覚・嗅覚)に加えて、固有受容覚(手足の状態筋肉の伸び縮みや関節の動きを感じる感覚)と前庭覚(身体の動きや傾き、スピードを感じる感覚)の合わせて7つの感覚があります。
絶えずさまざまな感覚器官から入ってくる感覚を、きちんと分類したり整理したりする脳の機能のことを「統合」と呼びます。
感覚統合がうまく行かないと、感覚が過敏に働き集中すべきことに集中できない、あるいは他の感覚のコントロールができず姿勢が保てなかったり、感覚が鈍化したりするなどの症状が見られるようになります。
発達障害の場合、感覚統合の成長プロセスに課題がある場合が多く、感覚統合療法によって支援を行います。
感覚統合療法では、作業療法士(OT)が子どもの成長に寄り添いながら、子どもが「楽しい」と感じるような遊びや運動を通して、感覚機能の未熟さや苦手な部分を伸ばしていくことを目的としています。
例えば、積み木を高く積み重ねていくこと、ブランコ遊びなど身近にあるおもちゃや遊具を活用することによっても、感覚統合を促進するような遊びにつながります。
ポーテージプログラムとは、子ども一人ひとりの発達に応じたアプローチを、親・家族が中心となって、主に家庭などの日常生活の中で指導を行うプログラムを指します。
応用行動分析学も用いながら、指導の目標や結果を具体的に記録しながら行動目標の達成を目指すことが特徴です。
ポーテージプログラムでは、「チェックリスト」「発達経過表」「マニュアル・活動カード」の3つのツールを使いながら、家庭の中で行動目標を達成していきます。
施設や教室で支援員から指導を受けるのではなく、親・家族が家庭で指導を行うことが大きなポイントです。
マカトンサインはマカトン法とも言い、言葉やコミュニケーションに困難がある人々のためにイギリスで開発された言語指導法です。
話し言葉と共にサインやシンボルを組み合わせて提示することが特徴で、「核語彙」と呼ばれる330の言葉から、個人の発達状況やニーズに合わせて語彙を選び、生活の中で繰り返し使うことでコミュニケーションを促進します。
誰でも使いやすいようにシンプルな動作でサインが決められており、シンボルもシンプルな線画です。サインやシンボルを表出手段として使用することで、話し言葉よりも容易に自分の気持ちを表現することができ、コミュニケーションの意欲を育むことを目的としています。
児童福祉法では、発達支援を行う施設を「通所型」と「入所型」の2種類に分けており、その中でそれぞれ「福祉サービスのみを行う福祉型」と「福祉サービスと医師による治療を併せて行う医療型」に分かれています。
通所支援型は、施設などへ通所し、日常生活における基本的な動作の指導や生活能力の向上のために必要な訓練、知識技能の付与、集団生活への適応訓練などを行う施設のことを指します。
通所支援型の福祉型としては、未就学児に対して支援を行う「児童発達支援」、就学児童に対して支援を行う「放課後等デイサービス」、専門スタッフが保育園や幼稚園、小学校などを訪問して集団生活に必要な支援を行う「保育所等訪問支援」があります。
一方通所支援型の医療型としては、身体障害がある未就学児を対象に支援を行う「医療型児童発達支援」があります。
入所支援型は都道府県が実施主体となっている施設で、施設に入所してさまざまな支援を受けることができます。
通所支援型と同様に日常生活を送る上で必要となる指導や、自立に向けて必要な知識や技能を身につけるためのサービスだけでなく、日々の生活を営む上でのサポートも受けることができます。
例えば、福祉型障害児入所施設では、介護サービス、相談支援、機能訓練、社会活動参加支援、コミュニケーション支援などが受けられます。
一方、医療型障害児入所支援施設では、疾病の治療・看護、医学的管理下の食事・排泄・入浴介護、日常生活上の相談支援・助言、身体能力・日常生活能力の維持・向上のための訓練、レクリエーション活動などの社会活動参加支援、コミュニケーション支援などが受けられます。
施設を利用して公費の療育を受ける場合、市区町村発行の「受給者証」が必要です。
「受給者証」により、児童福祉法に基づく障害児施設給付制度が適用され、利用料金の9割は自治体負担・残り1割が自己負担となります。
利用料金は自治体によって定められており、また負担額は世帯によって変わり、サービスが受けられる日数(回数)も受給者証に上限が記載されています。ただし月毎の利用者負担額には上限があり、その上限額を超えて自己負担をすることはありません。
例えば児童発達支援や放課後等デイサービスを利用する場合、費用上限額は前年度の所得によって以下の通りに分かれます。
療育は、障害のある子どもやその可能性がある子どもに対して、それぞれの発達特性や困りごと、状況に応じて個別の支援計画を作成し、様子を観察しながら支援を進めていきます。
例えば、言葉を使ったコミュニケーションが難しい場合は、発音の仕方を練習したり、コミュニケーションの取り方をサポートしたりします。療育を通して、苦手なこと・困っていたことができるようになったり、得意なことが伸びて自己肯定感が高まったりという効果が期待できます。
しかし、すぐに言葉を使ったコミュニケーションができるようになったり、今までできなかった身支度が一人でできるようになったりと、目に見える変化が療育の効果として得られるわけではありません。お子さんによっては、家族が期待するような効果が感じられないというケースも多くあります。
個別支援計画は、もちろん家族からのニーズも取り入れられますが、まず第一に子どもの様子を把握し、どのような支援・アプローチがその子どもに合っているかが検討されます。
「言葉をたくさん増やしてほしい」「自分の感情をコントロールしてパニックや癇癪(かんしゃく)を起こさないようにしてほしい」という家族からのニーズがあっても、子どもの発達がまだそれらより前段階である場合は、療育のプログラムとして取り入れることは難しい場合もあります。
療育とは一朝一夕で効果が感じられるものではなく、時間をかけて、何度も失敗も繰り返しながら、徐々に効果が感じられるものであるため、半年・1年、時にはそれ以上の長い目で見て子どもの変化と向き合うことが求められます。
乳幼児健診などで心身の障害やその可能性が見つかった場合、保健センターにおいて発達の見極めのための療育相談や経過観察が行われます。
その後、障害や発達の遅れなどが明らかとなった場合、専門医療機関の受診や療育を行っている施設の利用へとつながっていきます。
また、保育園・幼稚園に通って集団生活を送る中で、障害や発達の遅れが明らかになる場合もあります。このケースでは、保育園や幼稚園の巡回心理・発達相談や、保健センター・保健所の療育相談などの利用後、専門医療機関や療育を行っている施設の利用へとつながっていきます。
療育を利用する際の手続きは、児童福祉法における障害児通所支援と障害児入所支援で一部異なります。
例えば、児童発達支援・放課後等デイサービスを利用する場合は障害児通所支援の手続きとなります。
療育を利用する際には、はじめに利用相談が必要です。
相談窓口は、お住まいの市区町村の福祉相談窓口・障害児相談支援事業所などとなります。
相談窓口は、お住まいの児童相談所となります。
ただし、障害児入所支援の利用に迷う場合は、まずお住まいの市区町村の福祉相談窓口・障害児相談支援事業所などに相談するとよいでしょう。
実際に利用したい療育を行っている施設を訪問し、見学・相談を行います。
施設で実際にどんな療育を受けることができそうか、提供しているプログラムや施設の雰囲気が子どもに合っているかだけでなく、自宅からの距離や通うにあたって何かサポートは受けられそうか、家族が感じるスタッフや施設の印象も大切な検討材料になります。
施設によっては、障害児施設利用計画案を作成してくれる場合もあるため、見学・相談の際に問い合わせてみてください。
療育を行っている公費の施設を利用するためには「受給者証」が必要です。
受給者証には、児童発達支援や放課後等デイサービスなどの通所支援を受けるために必要な「通所受給者証」と、医療型障害児入所施設などに入所して支援を受けるための「入所受給者証」の2種類があります。
受給者証取得のためには、障害児通所・入所給付費支給の申請を行う必要があります。必要書類は市区町村によっても異なるため、事前によく確認しておきましょう。
市区町村の福祉担当窓口にて、障害児通所給付費支給の申請を行います。
お住まいの地域の児童相談所にて、障害児入所給付費支給の申請を行います。
支給の有無やサービス内容の決定のために、聞き取り調査・ヒアリングが実施されます。
障害の種類や程度を基に、給付費支給の要件を満たしているかどうか、また子どもに必要だと考えられる適切なサービスの量や内容について検討が行われます。
市区町村の支給担当窓口によって検討されます。
お住まいの地域の児童相談所の担当者によって検討されます。
支給が決定されたら「受給者証」が交付されます。
「受給者証」の交付によって施設利用が可能となり、各施設で詳しい療育プランの策定・利用開始となります。
「通所受給者証」が交付されます。
福祉型では「入所受給者証」、医療型では「障害児施設医療受給者証」と「入所受給者証」が交付されます。
療育を担っている機関としては、児童福祉法に基づく児童発達支援センターや児童発達支援事業所があり、これらの施設では未就学児(0歳〜6歳)の子どもが対象です。また、就学児童(6歳〜原則18歳)に対しては、放課後等デイサービスなどの施設で療育が行われます。
現代社会は、障害のない多数派(マジョリティ)に向けて環境や仕組みがつくられている場合が多く、障害のある子どもの場合は、特に特性によって自然にスキルを学ぶことが難しい傾向が見られます。
このような子どもたちに対して、早い段階から療育による支援やアプローチを行う「早期療育」が大切です。
そもそも発達障害は、脳の機能障害と考えられていますが、その原因や予防方法については詳しく分かっていません。
障害特性自体を治療することは難しいものの、発達障害のある子どもに対して、早期から療育による支援を開始することで、いじめや不登校、抑うつなど二次的な問題を予防することが期待できるでしょう
また、その子どもに合った方法で、社会生活における必要なスキルを早期に獲得することで、毎日の生活の中での困りごとが起きにくくなる可能性が高まります。
療育は、スモールステップで段階を経ながら目標達成を目指すことになるため、療育を始めたからといってすぐに効果が出るというものでもありません。
療育施設や支援員との関わりの中では実践できるようになったものの、家庭や園生活の中など環境や関わる人が変わればうまく実践できないというケースも多くあるので、根気強く取り組んでいくことが必要があることから、療育を始めるタイミングとしては、なるべく早期がおすすめです。
最初はハードルが高く感じられるかもしれませんが、困りごとがある子どもやその家族がサポートを受けるためのものですので、ぜひ療育を活用してみてください。
障害のある子どもやその可能性がある場合、一人ひとりの特性や成長にかかるスピードは大きく異なります。そのひとりの子どもに合った接し方や環境を用意することで、困りごとが改善したり、大きな成長が見られたりすることが期待できます。
療育では、専門的な知識を持った支援員が家族や園の先生など、子どもに関わる周囲の人々と関係しながら、子どもに合った支援・サポートを行います。
「日常生活に必要な能力が身につく」「社会性やコミュニケーション能力が身につく」というだけでなく、療育施設でのプログラムを通して「できた」という成功体験を積み、自己肯定感を高めることも可能です。
早期から療育を開始することで、その後の二次障害のリスクを軽減したり、困りごとが発生する可能性を減らしたりできます。
どこに何を相談したら良いかわからない場合は、一人で悩まず、まずは市区町村の相談窓口やかかりつけ医、療育施設などに相談するようにしてください。
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