発達障害のある子どもの大学進学。大学選びのポイントや配慮事例を紹介

発達障害のある子どもの大学選びは何を基準に考えたら良いのでしょうか。

大学進学後はこれまでの小・中・高校とは学びのスタイルが変わり、自分自身で学ぶ科目やスケジュールなども決めなくてはなりません。また受験方法も各大学によってさまざまで、手続きも複雑です。

ここでは大学選びのポイントや受験時・入学後の配慮について、また困ったときの相談先も合わせてご紹介します。


監修

井上 雅彦

鳥取大学医学系研究科臨床心理学講座教授。応用行動分析学が専門。30年以上ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもや家族の相談、療育・家族支援プログラムの開発に携わる。

発達障害のある子どもの大学選びのポイント

発達障害がある場合、大学に行けるか、行けないかという視点で大学選びをしてしまいがちですが、そもそも大学に行く目的は何でしょうか。

大学選びのポイントは?

まずはお子さんが大学に行く目的を明確にしてから進路を選ぶことが大切です。

「大卒だと初任給が高いから」「学力はあるから大学は卒業しておいたほうが良いから」という理由だけだと長続きしないかもしれません。

大学でどんなことを学びたいのか、将来どんなことをしてみたいのか、本人と話し合ってみましょう。

また、子どもが「できること」、「得意なこと」は何かを整理しつつ考えることが重要です。

■大学進学の目的は何か?その大学で何を学ぶことができるのか?

例えば、「将来福祉関係の仕事につきたいから、福祉に関する総合的な知識を身につけたい」など、どのような目的で何を学ぶのかを明確にしてみましょう。必ずしも大学に行かなくても専門学校が適している場合もあります。どのような学校に行けばそれを学べるか探してみましょう。

■授業料はいくらかかるのか?設備はどうか?

例えば国公立の大学か、私立の大学かで入試の費用や入学金・授業料なども大きく変わります。また、学部で考えると理系や医学部などは文系よりも学費が高い傾向があります。

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校内の設備に関しても、国公立か私立か、都心か地方かでは違いが多く見られます。(トイレや図書館、カフェテリアなどの規模やインターネット環境など)

■大学及びその周辺の環境は子どもに合っているか

規模が大きい大学だと何千人もの生徒が在籍していたり、授業によっては大教室で100人〜200人になる場合もあります。交通の不便な場所にあったり、にぎやかな繁華街から近い場合もあります。

自宅から通えなければ、下宿や寮から通うことも考えなくてはなりません。

その大学の場所や環境などが子どもに合っているかは、重要なポイントになります。

以上のように本人の特性を十分考慮し、その子どもに合う環境選びが重要となります。また大学卒業後の自立も見据えて準備することも大切です。

大学以外の選択肢は?

将来の職業を考えた場合、大学以外の学びの場も選択肢の一つです。

■専門学校

・仕事に結びつく専門的な知識や技能を学ぶことができる
・学科によっては実験や実習の割合が多い
・資格取得にもつながりやすい
・工業、農業、医療、衛生、教育・社会福祉、文化・教養、商業実務、服飾・家政などの8分野に大きく分かれている

大学選びの際は、将来を意識して、本人のやりたいこと・向いていることに取り組める環境はどんなところなのかを考えていきましょう。

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発達障害への配慮に手厚い大学とは?

大学における障害等の配慮について、具体的な内容についてまとめました。また事例についてもご紹介します。

大学入試時の配慮

大学受験の際も事前に申請を行い、認められると配慮を受けることができます。多くの大学では、出願前の早い時期に受付を開始しています。

■共通テストにおける配慮申請

・志願者に対して個々の症状や状態などに応じた受験上の配慮を行っている
・大学入試センターでは、受験上の配慮に関する事前相談も随時受付
・申請時期は①出願前申請と②出願時申請がある

また国公立二次試験や私立受験も共通テストに準じた配慮が可能となります。各大学により申請手続きの窓口は異なりますので、事前に確認が必要です。

配慮事項には審査があり、時間がかかる場合があります。また申請には障害に応じて医師による診断書・状況報告書などが求められます。これまでの取り組み(個別の教育支援計画・個別の指導計画の写しなど)が必要な場合もありますので、申請に何が必要か、確認しながら進めることが大切です。

詳細については以下、大学入学者選抜に関わる大学入学共通テスト「受験上の配慮案内」をご参考ください。

引用:大学入学者選抜に関わる大学入試共通テスト 受験上の配慮案内| 独立行政法人 大学入試センター

■受験時の発達障害に関する配慮事例

以下は実際に共通テストで行われている配慮の一例です。

・本人の状況に応じて試験時間を延長する
・問題や解答用紙の拡大版を配布する
・注意事項を口頭ではなく、文書を用いて伝える
・試験室まで付添者が一緒に行くことを認める
など

大学入学後の配慮

学内での配慮については、教諭と連携して支援内容を決定し実施しています。大学により支援機関の名称は異なりますので、詳細については各大学に問い合わせしてみましょう。

■配慮申請の手続きについて

大学入学決定後、なるべく早い段階で担当部署に連絡し支援申請書を提出します。また、医師の診断書や発達検査などの提出を依頼されることがあるので用意しておくと良いでしょう。

■学内での配慮事例について

・履修の登録に関する相談や補助
・講義内容の録音許可
・授業内容をPDFファイルにて送付
・本人の状況に応じて試験時間・レポート提出日を延長する
など

なお、学内にサポートスタッフ(学生)の依頼をし、障害のある学生のサポートを行っている大学もあります。

このように、大学それぞれの方法でサポートが得られるようになってきています。その際に、本人が自分の特性を理解し、どんな配慮が必要なのかを自分自身で伝えられることが求められます。

発達障害がある場合の大学で起こりやすい困りごと

大学生活はこれまでの学校生活と大きく異なり、戸惑いを感じる場合も多いかもしれません。大学入学後にどのような困りごとが生じそうか、あらかじめ知っておくことで準備ができます。

高校との違いや大学生活における困りごと・課題は?

以下の表では、高校との違い、またそれにより起こりやすい大学での困りごとの一例をまとめました。
なお発達障害の特性によって、生じる困りごとは異なりますので、高校生活時とどのような違いがあるかを事前に確認しておくことが大切です。

そのほか、就職活動においては

・どのような仕事がしたいのか分からない
・自分に向いている仕事が分からない
・自己PR、面接が苦手
・周りの就職活動のペースについていけない
・卒業要件を満たすことと同時に就職活動するのが難しい

などの困りごとが生じてくる場合もあります。

大学進学後、発達障害がある場合に計画的にスケジュール管理ができず、単位を落としてしまうケースもあります。また、仲間とのコミュニケーションがうまく行かずに大学生活をつらいと感じてしまうかもしれません。

次の章では、大学生活において困った場合の相談先についてご紹介します。

発達障害のある子どもが大学生活で困ったときの相談先

汎用

大学入学後、大学生活で困ったことが起きた場合の相談先をご紹介します。相談内容によって相談先が異なる場合があるので、事前に調べておくと良いでしょう。

障害学生支援室、学務課など
・障害のある学生に対して支援を行う
・履修に関しての相談、学修上の配慮申請など受付
・学部学科や授業担当教員、関係部署との連携

学生相談室
・障害の有無にかかわらず、学生全般の悩みごとに関して相談受付
・大学生活における不安や悩みごとなどに対し、資格を持った心理カウンセラー、教員などが対応

キャリア支援室
・就職活動における悩みや不安などについて相談受付
・適正診断やキャリアカウンセラーなどによるアドバイス
・ハローワークや特例子会社へのコンタクト

など

大学によって支援体制はさまざまです。
基本的には本人からの相談を受け付けていますが、中には家族からの相談を受け、話を聞きながら連携を取って支援を行っている大学もあります。

そのほかの相談機関の情報については以下の記事をご参照ください。

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まとめ

近年、発達障害のある学生が在籍している大学も多くなり、大学受験時や入学後に配慮を受けることも可能となりました。

子どもの大学進学を考える際は、まず目的を明確にし、その目的にそった大学を探したら、パンフレットを取り寄せ、卒業要件やカリキュラムを確認しましょう。グループ活動や実習などの中に、子どもが苦手とする事柄が入っていて、それが卒業の必須要件になっている場合は、入学試験の前に個別に問い合わせましょう。
そして、子どもの意見を尊重しながらその子どもに合った学びができる環境を探すことが大切です。オープンキャンパスなどの実際に見学できる機会も活用しましょう。

大学入学後、困ったことがあれば早めに相談機関に問い合わせることも重要です。大きくなったことだし、少し様子を見て…と思っていると、中にはうつ状態やひきこもりなど二次障害を併発する子どももいます。

親から離れて、自立に向けて第一歩を踏み出そうとする時期ですが、まだまだ本人だけでは解決するのが難しい場面もあるかもしれません。今後は、子どもが困ったときに親がいつでも相談に応じられるような関係づくりが必要になってくるでしょう。

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