2022.09.20
5歳になると、園では年中〜年長になり、小学校入学が近づいてきます。これまでに比べて、さらに身体的・精神的な成長が見られ、友だちとの関わり方の中でプライドや競争心も発達していく時期です。
一方で、友だちとのトラブルが多い、他の子どもより言葉が遅い、特有の物事へのこだわりが非常に強く社会生活に支障が出るなど、「困りごと」を感じる機会も増えてきます。
それらの「困りごと」が発達障害に起因している可能性もあるため、早期に療育などのサポートを開始すると、子どもたちの「困りごと」を減らすことができるかもしれません。
今回は、5歳頃に見られることが多い発達障害の特徴について、チェックリストを交えて解説します。
監修
井上 雅彦
鳥取大学医学系研究科臨床心理学講座教授。応用行動分析学が専門。30年以上ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもや家族の相談、療育・家族支援プログラムの開発に携わる。
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発達障害とは、生まれつき脳機能の発達の凸凹(でこぼこ)が激しく、周囲の環境や人間関係とのミスマッチから社会生活上の支障が生じる障害のことです。
発達障害にはいくつかの種類がありますが、先天的に脳の働きに違いがあるという点が共通して見られます。
遺伝的要因以外にも「環境要因」と呼ばれる、その人が置かれている環境や摂取する栄養や薬物、生活習慣なども関連しているのではないかと言われています。
しかし、はっきりとした原因やメカニズムはまだ分かっていません。
同じ診断名であっても人によって症状の個人差が大きく、また同じ人でも年齢や環境によって症状の表れ方は変化します。加えて複数の発達障害の特性が組み合わさって見られることもあります。
5歳になると小学校入学の5〜6ヶ月前に「就学前健診」が行われ、その場で「発達に気になる点がある」と言われたり、医療機関などを受診した際に強く特性が認められた場合は「発達障害」の診断が下りたりするケースがあります。
就学前に発達障害と診断されると不安に感じるかもしれませんが、子どもの特性に早くから気づくことで、小学校で支援級や通級を利用するなど、支援の選択肢が広がります。
また、早いうちから特性に合わせた関わり方をすることで、症状の改善が見られたり、子ども自身が生きやすくなったりすることも期待できます。
周囲とのコミュニケーションで困りごとを感じたり、周りの友だちよりできない・保護者や先生に怒られてばかりという経験を積んだりすることで、子どもの自信や自己肯定感が下がり、結果的に二次障害の発症につながる可能性もあります。
大切なのはその子の特性を受け止め、周囲の環境や困りごとに合わせて適切な支援を行なっていくことです。
発達障害はその特性や表れる困りごとによって、大きく3つのタイプに分けられています。
ASD(自閉スペクトラム症)は、自閉症やアスペルガー症候群、広汎性発達障害などが統合されてできた診断名です。
・主な特徴
①社会的コミュニケーションや対人関係の困難さ(=コミュニケーションがうまく取れないなど)
②限定された行動、興味、反復行動(=強いこだわりが見られるなど)
他にも手先が不器用、感覚刺激に過敏・鈍いなどの特性が見られることもあります。
ADHDには「不注意」「多動性」「衝動性」の3つの特徴が主に見られますが、要素の表れ方の傾向は「不注意優勢に存在」「多動・衝動優位に存在」「混合して存在」というように人によって異なります。
・主な特徴
①不注意(=集中力がなく飽きっぽい、忘れ物・失くし物が多いなど)
②多動性(=手足をいじっていつも落ち着きがないなど)
③衝動性(=順番が待てない、会話の流れや雰囲気を気にせず発言するなど)
学習障害は限局性学習症とも呼ばれ、知的発達の遅れがないものの、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算・推論する」能力のうち1つ以上の取得・活用に困難を示す発達障害です。
・主な特徴
①字を読むことに困難がある:ディスクレシア(読字障害)
②字を書くことに困難がある:ディスグラフィア(書字表出障害)
③算数・計算、その場にないものを推論することに困難がある:ディスカリキュア(算数障害)
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子どもの発達には個人差が見られるものの、5歳児は言語や身辺自立、社会性、学習などの面で、下記のような様子が目安となります。
・「ぼく」「わたし」を使って、意思や疑問を伝える
・具体物を触り、「ふわふわ」「やわらかい」など言語で表現する
・分からないときに「これ何?」と質問する
・自分の意思を文章にして伝えることができる
・相手の目を見て話したり聞いたりすることができる
・箸を使って物を食べはじめる
・排泄の一連の流れをおこなう
・決められた時間内は席を立たずに食事ができる(30分程度)
・靴を脱いだら揃えたり下駄箱にしまったりできる
・登園の準備がある程度自分だけでできる
・友だちが泣いたり怒ったりすると、適宜声をかける
・友だちに興味を持ち、仲良しの友だちと遊ぶ
・状況によっては妥協する
・公共の場でのマナーを意識する
・数字を読んだり、書いたりする
・比較して、「大きい」「小さい」「長い」「短い」が分かる
・覚えているひらがなを読み書きしはじめる
・10までの簡単な足し引きを操作することができる
これらはあくまでも目安であるため、できないことがあっても心配しすぎることはありません。
また、場所や相手が変わったり、体調が悪かったり、気持ちが乗らないなどさまざまな要因が関係することで、いつでもどこでも上記の様子ができるというわけでもありません。
発達の度合いは、子どもによって異なるということを忘れないようにしてください。
一言で「発達障害」といってもさまざまな種類が存在しています。
個人差や年齢差もありますが、一部共通して見られる「困りごと」があるため、チェックリストとして紹介します。
「発達障害であるかどうか」の診断は、専門の医療機関での相談が必要になるため、チェックリストはあくまでも普段の様子を観察し、気になる傾向が見られるかどうかを確認することを目的にご使用ください。
当てはまる項目が多いからといって、発達障害であることを断定するものではありません。
・マイペースな行動が目立つ
・行事参加が難しい
・気に入ったセリフやフレーズを繰り返す
・自分の興味関心のあることを中心とした一方的な会話
・言葉の遅れが見られる、周囲とのコミュニケーションが難しい
・特定の音やにおいなどの感覚的な刺激に対して、強い拒否やこだわりをしめす
・おもちゃや特定の物の操作で同じことを繰り返す
・勝ち負けや順位・独自のルールへのこだわりが強い
・変化が苦手で、いつものやり方や手順が崩れることを嫌ったり、初めての物や場所を極端に怖がる
・夜中に起きることが多い、寝つきが極端に悪い
・言われた言葉をそのままオウム返しする
・表情などから相手の気持ちを読み取ることができない
・冗談や曖昧な表現が理解できない
・活動の切り替えが苦手
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・友だちからおもちゃを取ってしまい、トラブルになることが多い
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・忘れ物や失くしものが多く、少し前に言ったことも覚えていない
・騒ぐ、叫ぶなどの行動が他の子どもと比較しても明らかに多く、道路に突然飛び出すなど危険な行動も見られる(注意しても改善しない)
・自分の思い通りにならないことがあると、激しく癇癪を起こしたり乱暴な行動を起こしたりする
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学習障害(LD)は「読む」「書く」「計算する・推論する」能力に関係する特性のため、就学した後に表出することが多い発達障害です。
5歳の時点では、まだ学習障害(LD)と分からないことが多くあります。
ただし、言葉の発達の遅れや偏り、手先が不器用で運動が苦手という特徴が見られる子どもの場合、後から学習障害(LD)だったことが判明するケースがあります。
他にも普段の生活の中で、知的な遅れがないのにハサミや糊がうまく使えない、スキップができないといったことから、発達障害の発見につながることもあります。
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チェックリストに当てはまる項目が多かったからといって、発達障害であると断定することはできません。
発達障害の診断を行えるのは医療機関のみのため、大学病院や総合病院、小児科・児童精神科・小児神経科や発達外来への相談が必要となります。
また、最初から医療機関に受診するのではなく、地域の発達相談の窓口に相談し発達検査や発達相談を受けた後に、受診してもいいでしょう。
発達障害の特性が見られるものの診断の基準には満たない「グレーゾーン」の場合もあります。「グレーゾーン」の場合、見られる特性の程度によって療育施設に通う場合や、しばらく経過観察をおこなう場合などがあります。
アメリカ精神医学会の診断基準である「DSM-5」(「精神疾患の診断・統計マニュアル」第5版)を用いて診断を行います。
表れる症状について医師が問診や行動観察を行い、必要に応じて心理検査や発達検査などを行います。それらの結果が「DSM-5」の診断基準を満たすかどうか、日常生活・社会生活に著しい不適応を起こしているかどうかなどを総合的にみて、発達障害かどうかを診断します。
特定の症状が6ヶ月以上継続して認められるか、少なくとも2つ以上の状況(例:家庭と園)で見られるかなどが診断基準となっている場合もあるため、一度の受診だけではなく継続的な検査・経過観察が必要なケースもあります。
診断の際には、現段階で見られる子どもの特性や困りごと、生育歴や各健診の様子などが聞かれるため、普段の様子をメモしたものや母子手帳などを準備しておくといいでしょう。
チェックリストの内容が役に立つ場合もあるかと思うので、ぜひ参考にしてみてください。
発達障害かもと思ったら、まずは専門の相談機関で相談してみましょう。
その後、医療機関で発達障害であると診断された、もしくは診断にはいたらないものの、発達に気になる点があると認められた場合、障害児通所支援を利用して支援をスタートさせることができます。
そのためにはまず「通所受給者証」(通称:受給者証)の取得が必要です。
受給者証の取得にあたって、発達に支援が必要である証明として、①〜③のいずれかが必要です。
①医師意見書(確定診断がなくても、意見書があれば受給者証の取得が可能)
②医師による発達障害に関する診断書
③療育手帳
住んでいる自治体の福祉窓口で相談をすれば、地元で受診できるクリニックを紹介してもらえる場合もあります。
自治体の窓口で必要書類を揃えて受給者証の申請を行い、自治体職員による聞き取りを受けた後、受給者証が支給されます。
申請から支給決定までの期間は自治体によってさまざまです。約2週間の場合もあれば、1〜2ヶ月かかる場合もあります。
受給者証と、受給者証の支給量(障害児通所支援を利用できる1ヶ月あたりの日数)などを踏まえて作成した「障害児支援利用計画」が揃うと、実際に施設と契約することができます。
申請前〜支給決定までの期間に、各施設に問い合わせたり見学を行なったりしておくと手続きや契約がスムーズになるかもしれません。
障害児通所支援の福祉サービスは目的や対象によってさまざまです。
5歳の場合、「児童発達支援」でおこなう日常生活の自立のための療育や学習支援、運動プログラムなどが主になります。公費の施設もあれば私費のサービスもあり、利用料は異なります。
子どものニーズに合った支援が受けられるか、通いやすい場所・時間で利用できるか、定員に空きがあるかなど、さまざまなポイントを施設側と相談・見学しながら、利用する施設を決定しましょう。
発達障害であると診断された、もしくは発達に気になる点があると認められた場合、支援をスタートさせます。
療育とは、個々の発達の状態や障害特性に応じて、今の困りごとの解決と将来の自立と社会参加を目指して行います。発達支援と呼ぶこともあります。
療育の中でも、特に対人関係や集団生活を送りやすくするための技術(スキル)を習得するための訓練のことを「ソーシャルスキルトレーニング(SST)」と呼びます。
例えば、3歳〜6歳頃は遊びの中で集団生活のルール・スキルを学べるよう、個別や集団で療育を行います。TPOに合わせた挨拶や会話ができるように指導員と練習をしたり、暴れる・泣くなど以外の手段を使って自分の感情を適切に表現する方法を学んだりします。一度の授業で身につくものではないため、中長期的に教室に通う中で失敗したり、できるようになったことが時間が経つとできなくなったりということがあります。
しかし何度も同じようなシチュエーションを繰り返すことで、段々とスキルが身につき、教室以外の社会生活の場でも同じように行動できるようになります。
療育を担っている機関としては、児童福祉法に基づく児童発達支援センターや児童発達支援事業所があり、0〜6歳の幼児が対象になっています。
小学生以上の場合、放課後等デイサービスの対象となります。
自治体や運営している機関により、集団や個別などの支援形態、どのような支援が受けられるのかが異なるため、通所を決める前には問い合わせや見学をおこなうことをおすすめします。
療育が子どもが対象である一方、ペアレント・トレーニングは保護者を対象として講義やワークが行われます。
ペアレント・トレーニングでは講義による知識の獲得だけではなく、ロールプレイや演習をおこなうことにより、保護者側が子どもと関わる時のスキルを獲得していきます。実際の家庭でもホームワークに取り組むことで、教室の中だけでなく日常生活の中でも子どもの行動が変わっていくことを促します。
個別ではなくグループでおこなうことにより、同じ悩みを持つ他の保護者との出会いや共感、他で実践している工夫が参考になるなどのメリットがあります。
あくまでも一例ですが、それぞれのケースに合わせて支援が行われます。
園生活の中で「勝ち」「負け」「1番」「2番」といった順番がつく場面でこだわりが強く、思い通りにいかない時は激しい癇癪を起こして大声を出して壁を蹴ったり、友だちを叩いたりしてしまうケースです。
個別指導では「見通しを持つこと」と、「感情を言葉にして伝える」ことを目的とし、毎回やることをホワイトボードに書いて見通しを持てるようにしました。
また、指導員と勝敗のあるゲームをして、負けた時に癇癪などの行動が見られた場合には、温度計のイラストで気持ちを表したものを指差して気持ちを表現できるようにして、指導員が「今は少しイライラしているんだね」など感情を言葉に置き換えることで、だんだん本人も気持ちを言葉で伝えられるようになりました。
集団授業では個別指導で学んだことを実践する場として、ゲームで負けた時にも癇癪を起こすより言葉を通した方がスムーズに自分の感情が周囲に伝わることなどを経験から学びました。
「今日幼稚園で何をしたの?」と聞いても、「分からない」としか答えなかったり、「おにごっこ」と単語でしか答えなかったりと、文章を頭の中で整理・構成することが苦手で、語彙力が増える様子も見られないケースです。
個別指導では「今日は帰りの会で何をうたったの?」「今日はだれと一緒に遊んだの?」と質問のポイントを具体的に絞り、内容を明確にして答えやすくしました。
本人から答えが得られた時には共感したり、教えてくれて嬉しいというメッセージを繰り返すことで、言葉で説明することのメリットを感じてもらうことを繰り返しました。
また定期的に園を訪問して子どもの様子を観察し、子どもが会話しやすい環境を一緒に作っていく働きかけも行われました。
「いち、に、さん」という言葉と「1、2、3」という数や量と結びついておらず、「2個ちょうだい」といった指示が通らないケースです。
個別指導では、数の感覚を把握するために、最初は極端な例から練習を始め、「多いとは何か、少ないとは何か」ということを、動作、視覚、聴覚など、いろいろな感覚を使いながら理解しました。
ペアレント・トレーニングを通して、家庭でも指導員と同じ声かけや提示を自宅でも実践しました。本人の興味関心と結びつけることで、より積極的に学ぶことができると期待されます。
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5歳になると、集団生活の中で周囲と違う点が今まで以上に目につくかもしれません。
しかし「周囲と違うこと」自体が問題なのではなく、それが理由で周囲とトラブルを起こしてしまい、「困りごと」が子どもや保護者のストレスになってしまうことの方が問題です。
発達障害の診断が下りるかどうかより、子どもがどんな特性を持っていて、そのためにどんな「困りごと」が起きているのか、どのような対応を行えば「困りごと」を減らすことができるのかを考えてみましょう。
早期のサポートを開始することで、子ども自身やその周囲の人たちがこれから少し生きやすくなるかもしれません。