2022.03.04
不登校や登校しぶりのある子どもの中には、発達障害やグレーゾーンの子も少なくありません。
不登校になるきっかけや子どもの気持ちを理解し、親は子どもに対してどんな対応をしたらよいのか、ヒントとなる事柄をまとめてみました。
また、家での過ごし方や勉強、不登校の子どもに対する支援や将来についての考え方など、具体事例も交えてご紹介します。
監修
井上 雅彦
鳥取大学医学系研究科臨床心理学講座教授。応用行動分析学が専門。30年以上ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもや家族の相談、療育・家族支援プログラムの開発に携わる。
不登校や登校しぶりには何らかのきっかけがあります。友だちや先生との関係がうまく行かない場合、そこには発達障害の影響が存在している場合があるかもしれません。
・先生のこと(30%)
・身体のこと(27%)
・生活リズムの乱れ(26%)
※回答:小学6年生
・身体の不調(33%)
・勉強がわからない(28%)
・先生のこと(28%)
※回答:中学2年生
そのほか、小学生では「きっかけが良く分からない」、中学生では「友だちのこと」などがきっかけとして挙げられています。
不登校の子どもの中には、発達障害と診断されている子ども、あるいはその特性の一部を持つグレーゾーンの子どもも一定数いると言われています。その特性の一例を紹介します。
・ASD(自閉スペクトラム症)の特性例:対人関係やコミュニケーションが苦手なことにより、クラスで浮いた存在になりやすかったり、こだわりが強い特性から、からかいの対象になる場合がある
・ADHD(注意欠如多動症)の特性例:集中することが苦手だったり、多動や衝動性による度重なる叱責により自己肯定感が低くなることがある
・LDの特性例:読み書き計算に特定の困りがあるために自己肯定感ややる気が低下する場合がある
そのほか、独特のこだわりを持っていたり、感覚過敏があるなどで学校生活に困難を感じる子どももいます。
発達特性のある子どもが集団の中で過ごすことは、緊張感や疲労感を伴い、学校をつらいと感じる場合もあるようです。
発達障害があり、不登校の子どもの場合は特性に合わせた支援が必要になります。
一方、発達障害やその特性に気づかないまま支援が行われる場合もあります。本人も周囲も気づかず対応が遅れることで、不登校が長期化してしまい、うつ状態が悪化したり、ひきこもりの状態に陥ってしまう恐れもあるでしょう。
従来の不登校支援に加えて、一人ひとりの発達特性を理解したうえで問題点を考え、適切な支援が必要になります。
子どもにとって適切な支援とは何かを考えてみましょう。
不登校支援と将来への準備
・保護者向け勉強会
・参加無料
・オンライン開催
不登校支援をする場合、子どもに対する親の対応の仕方も大切です。不登校中の子どもの気持ちと、親としてどのような対応の仕方があるのかをまとめてみました。
・ほっとした・楽な気持ち(70%)
・自由な時間が増えて嬉しかった(66%)
・勉強の遅れに対する不安があった(64%)
※回答:小学6年生
・勉強の遅れに対する不安があった(74%)
・進路・進学に対する不安があった(69%)
・ほっとした・楽な気持ち(69%)
※回答:中学2年生
子どもの気持ちを踏まえたうえで、親はどのような対応ができるのでしょうか。
・学校に行かせることを無理強いしない
・親が自分自身を過度に責めないようにする
・状態によって子どもが話したくない要因(不登校の原因、将来、勉強)を無理に追及しない
・子どもが興味のあることについて一緒に話をする
・子どもが安心と思える居場所を探す
・簡単な用事やお手伝いをお願いして、できたら褒める
・他のきょうだいに対しては、不登校について決して否定的な言葉遣いをせずに説明をする
・他のきょうだいとの時間も大切に、褒め言葉などの声かけも忘れずに行う
同じ家の中で過ごすと、親子共々一緒にいる時間が増えていくでしょう。そうすると、どうしても目についてあれこれ心配したり、注意したりする機会も多くなってしまいます。
そんなときは、少し子どもとの距離を取ってみるのも良いかもしれません。
まずは学校と十分に連携をとりましょう。
スクールカウンセリングを設定してもらったり、必要に応じて教育委員会が設置している「教育支援センター」を紹介してもらうこともできます。
そのほか以下のような相談先が例として挙げられます。
・学校のスクールカウンセリング
・教育支援センター(適応指導教室)
・心理クリニックや病院、大学の臨床心理相談センター
自治体によって名称は異なりますが、引きこもり支援や不登校支援を行っているところもあります。
担任の先生以外にも、特別支援コーディネーターや医師と連携を取りつつ、関係機関の意見、アドバイスも参考にして支援体制を整える必要があるでしょう。
発達障害・グレーゾーンの子どもが不登校の場合、その子どもの特性を理解し、困っている状況をどのように解消したらよいかを考えながら環境整備をすることが大切です。
発達障害のある子の不登校について、支援の実態はどのようなものでしょうか。関東地方の小学校数十校からの回答より紹介します。
発達障害の診断がある子の不登校については以下の取り組みが挙げられました。
・教員と本人の信頼関係を結ぶ
・周りの子が本人を理解できるような働きかけ
・校内・チームの体制を強化
・医療機関との連携
学校側が感じる支援の難しい面としては、発達障害の診断がある・または疑いのある子の不登校の場合は、以下が挙げられました。
・教員と本人との関係づくり
・周りの子と本人の関係づくり
・保護者と本人の理解のすり合わせ
この調査では発達障害の有無にかかわらず、子ども本人にとって重要な誰か、また周囲の理解、それがともなった体制の整備が重要であることが指摘されています。
発達障害のある子どもの不登校支援事例を紹介します。
<事例>不登校を繰り返してきた中学生男子の場合
【子どもの傾向・特性】
・中学生だからすこしぐらい辛くても我慢しなくてはいけないと思っている
・教室では1人で過ごしたり、ふさぎ込んでいる
【実際に行われた支援】
①いつでも誰でも相談しやすい雰囲気づくり
・生徒全員の連絡帳に「先生へのひとこと欄」を設け、生徒が自由に書けるようにした
・それに対して担任が一人ひとりに丁寧にコメント
②イライラを我慢するのがつらくなったときのルール(対処の仕方)を決めた
・イライラや不安を尺度で表現。
・「20%以下の時は自分で頑張る」「20~40%ぐらいのときは連絡帳の「ひとこと欄」に必ず記入する」「40%を超えたら担任か保険の先生に相談する」など
【支援を受けてからの様子】
・落ち着いて学校生活を過ごせるようになった
<事例>いじめにあい、言葉の暴力を浴びて不登校になった中学生男子の場合
【子どもの傾向・特性】
・中1の冬にフリースクールに通い始める
・乱暴な言葉遣いをしてしまう
・学習面では「どうせやっても無駄だ」という投げやりな態度をとる
【実際に行われた支援】
①どんな小さなことでも褒める
・姿勢として「受け入れていること」「やればできること」を繰り返し伝えた
②乱暴な言葉遣いに対しては、言われた側の気持ちを伝えることを徹底
・正面から指導を行うことを開始
・注意を繰り返すと、かえってパニック寸前の不安定な状態なることも
・「そんな言い方をしたらちょっと怖いな」とさりげなく本人に伝えるようにした
【支援を受けてからの様子】
・すぐには変化がなかったが、1年以上経過したころ学習の成果を満面の笑みで伝えに来るようになった
・同時期、乱暴な言葉をあまり使わなくなった
・中学3年生の夏休み明けに公立高校への進学を希望。面接の練習も繰り返し、高校進学の夢を果たした
一人ひとりの発達障害の特性に合わせた学級環境にすることが大切です。
刺激に過敏性がある子どもには、環境的な配慮や工夫も必要になります。
場合によっては通級指導教室と並行することも考えましょう。
家で過ごす時間が多くなる分、「どのように過ごしたらよいのか?勉強に遅れが出てしまうのでは?」という心配も頭に浮かんでくるかもしれません。ここでは、勉強や家での過ごし方、学校以外の居場所についてご紹介します。
学習方法もさまざまです。本人の状況や特性に合わせて、また本人の意見も参考に検討してみましょう。
・一人ひとりに合わせた個別指導で学習できる
・不登校の子どもに特化したタイプもある
・タブレットなど(情報通信技術)を活用した学習
・自分のペースで学習でき、非対面でコミュニケーションできる
・勉強以外の好きなことも学べる
・個別指導で、遅れた部分を本人のペースで学習できる
・心理カウンセラーや不登校経験者がいる、不登校の子どもに特化した塾もある
・学校以外の外出ができる子どもの外出の機会となる
空いた時間の過ごし方によっては、より親子の会話が増える場合もあります。無理強いはせずに、子どもが自ら進んでやれることをやってみてはどうでしょうか。
人から感謝される、必要とされると自己肯定感も高まります。まずはどんな小さなことでも手伝ってくれたら感謝の気持ちを示して褒めることが大切です。
不登校の間に自分の好きなことを見つけて打ち込むのも良いでしょう。将来につながる仕事や仲間づくりのきっかけになる場合もあります。
昼夜逆転しすぎたりしないよう、一日のスケジュールや見通しを作ります。決めた時間を守れるように、タイマーを利用する、スケジュールを視覚化する、見えるところに貼る、などの工夫があります。
ゲームが好きな子どもの場合は、一日のゲーム時間を決める、ゲーム以外に興味のあることを持つなど、ゲームばかりにならないよう気を付けます。
外に出ることに不安やストレスを感じないよう、親と一緒に近所に外出するなどの機会をもうけます。本人の不安の高いところと低いところを知り、外出の習慣をつくる、行動範囲を拡げるなどに活かしましょう。
外出が可能であれば、家族以外の人とのコミュニケーションができる場所に出かけてみることも、子どもにとっては良い経験となります。
・子どもの自主性を尊重した、自由な学びが行われている
・在籍校とフリースクールとの間で連携が行われ、在籍校の校長先生に認められたら出席扱いとなる
・自分の好きなこと、得意なことを活かせ意欲が高まる
・学校以外の人とコミュニケーションが取れる場所となる
子どもが不登校、あるいは登校しぶりになるとついつい「学校に行くこと」を目標に考えてしまいがちです。その先の子どもの将来についても目を向けてみましょう
子どもの進路を決める際に、特性に合う環境はどんなところなのかを考えて選ぶことが大切です。
不登校の子どもの進路もさまざまですが、ここでは文部科学省が定める不登校特例校と通信制高校についてご紹介します。
□不登校特例校
・不登校児童生徒の実態に配慮し、教育課程の基準によらずに少人数指導や習熟度別指導、学校外の学習プログラムの活用など特別の教育課程を編成して教育を実施している
・令和3年度時点で、全国に小学校(小学部)3校、中学校(中学部)13校、高等学校3校が設置されている
□通信制高校
・必要な単位を取得して高等学校卒業資格を取得できる(全日制よりも必修単位が少ない)
・自宅学習をメインとしつつ、登校する頻度を自分で選べる学校もある
・空いた時間で学習以外に自分の興味のあることを学んだり、好きなことに取り組める
<事例>通信制高校から専門学校へ進学した女子の場合
【進学するまでの経過】
・中学入学時から不登校
・人と接することが苦手で、教室への入室、行事への参加が苦手
・中学2年からカウンセリングを受け、中学3年からは家庭教師と勉強
【取り組んだこと】
・高校入試の際のシミュレーションを徹底的に行い、面接はいろいろな人と何度も練習
・会場は高校に頼んで下見を行い、受付・試験会場・トイレなど細かく確認
・高校受験当日は、メガネとマスクを装着することで人目に緊張しないようにする
【結果】
・人と接する機会の少ない通信制高校で学業を修め、専門学校へ進学
・その後、就職
それぞれの子どもにとって状況は異なります。しかし、こうした事例を踏まえながら自分の子どもならどういう環境・支援が良いのか、どういう方向に進んだらよいのかを子どもと相談するきっかけになればと思います。
不登校支援と将来への準備
・保護者向け勉強会
・参加無料
・オンライン開催
子どもが不登校になるきっかけはさまざまですが、もしかしたら発達障害の特性が関係している場合があるかもしれません。その場合、発達障害の支援が遅れると不登校が長引いたり、二次障害を併発する可能性もあります。
子どもの気持ちを受けとめながら、適切な対応を心がけることが大切です。
親だけで問題を抱え込まずに、必要に応じて相談機関を頼り連携して支援を行っていくという方法もあるでしょう。
また不登校支援を行う際は、学校に行くことだけを目的とせず、その子の将来についても目を向けて、本人の意見も大切に進めていくことが重要だと考えられます。
参考
・「不登校児童生徒の実態調査結果」(令和2年度)|文部科学省
・「発達障害が引き起こす不登校へのケアとサポート」|齊藤万比古(編・著)
・「不登校と発達障害」(平成30年9月)|西宮市ホームページ(子ども未来センターコラム)
・「発達障害が疑われる不登校児童生徒の実態― 福島県における調査から―」|中野明德
・「不登校Q&A 自信と笑顔を取り戻す100の処方箋」|下島かほる、辰巳裕介(編・著)
・「親子で乗り越える思春期の発達障害」|磯川宏郷(監修)
・「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」(令和元年10月25日)|文部科学省
・「不登校の対応について」|文部科学省
・「発達障害に見られる不登校の実態と支援に関する研究」(2013年)|加茂 聡、東條 吉邦
・「不登校児童生徒の実態に配慮して特別に編成された教育課程に基づく教育を行う学校の概要」|文部科学省
・「不登校特例校の設置者一覧」|文部科学省
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不登校の支援と将来への準備