2021.11.22
主に小中学校に設置される通級指導教室では特別な指導を受けることができます。この記事では特別支援学級との違いやメリット・デメリット、教員に必要な資格、また限局性学習症(SLD)やことばの教室といった障害種別ごとの教室とその判定基準について紹介します。
そのほか、高校でも広がり始めた通級による指導の最新事情も紹介します。
※2022年発刊の『DSM-5-TR』において自閉症、注意欠陥多動性障害および学習障害(LD)の医学的診断名は現在それぞれ
ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、SLD(限局性学習症)となっているため、こちらの記事では出典表記を基にしつつ、自閉症⇒ASD、注意欠陥多動性障害⇒ADHD、LD⇒SLDと記載しております。
監修
井上 雅彦
鳥取大学医学系研究科臨床心理学講座教授。応用行動分析学が専門。30年以上ASD(自閉スペクトラム症のある子どもや家族の相談、療育・家族支援プログラムの開発に携わる。
通級指導教室とは、一部特別な指導を必要とする子どもが障害に応じた指導を受ける教室です。
普段は小・中学校の通常の学級に在籍し授業を受けますが、通級指導教室の時間だけ、通常の学級の授業を抜け、設置された学校へ移動します。なお同じ学校に設置されている場合は、学校間の移動は必要ありません。
通級による指導の時間数は、年間35単位時間(週1単位時間)から年間280単位時間(週8単位時間)までが標準と示されています。
対象となる障害は、「情緒障害」「ASD」「SLD」「ADHD」「言語障害」「弱視」「難聴」「肢体不自由」「病弱及び身体虚弱」です。
特別支援学級とは、子どもが一人ひとりに応じた教育を受けることができるよう小・中学校に設置された少人数のクラスです。
通級指導教室に通う子どもは障害の程度が比較的軽度で、在籍クラスが通常の学級であるところが、特別支援学級との大きな違いです。
また、対象となる障害は「ASD・情緒障害」「知的障害」「肢体不自由」「弱視」「難聴」「言語障害」「病弱者及び身体虚弱」の7種で、通級指導教室と比べると「SLD」「ADHD」が無く、「知的障害」があります。
特別支援教室は、通常の学級に在籍しながら週数回程度、在籍する学校で特別の指導を受ける教室です。主に東京都で実施されています。
通級指導教室との違いは、特別支援教室は担当教員がその子どもの在籍校に巡回し指導するため在籍校で指導を受けることができ、子どもが別の学校に移動をする必要がない点です。
横浜市では「集団学習への参加が難しい子どもが一時的に落ち着いた環境で学習するためのスペース」として各校に設置するなど、自治体により取り組みが異なる場合があります。
東京都は通級による指導の一つとして特別支援教室を設置しています。
東京都は、「特別支援学級・通級による指導 教育課程編成の手引」を2021年3月に新しくしました。
2021年11月現在では、東京都内の全公立小・中学校に特別支援教室が設置されています。ただし対象となる障害は限られており、障害によっては通級指導学級を利用します。
対象となる障害は「ASD」「情緒障害」「SLD」「ADHD」です。
原則の指導期間は1年間です。
対象となる障害は「弱視」「難聴」「言語障害(小学校のみ)」です。
※図の引用: 特別支援学級・通級による指導 教育課程編成の手引「第2部 通級による指導の教育課程」|東京都教育委員会(5枚目、ノンブル79より)
支援級卒業後の進路
・保護者向け勉強会
・参加無料
・オンライン開催
通級指導教室のメリット・デメリットは一概に言えませんが、専門性を持った先生から、子ども本人に必要なカリキュラムを必要な部分だけ切り取って受けられるのは良いところです。
例えば、ある子どもは聴覚的記憶が苦手なため、九九を暗唱できず困っていました。しかしその子どもは視覚的な情報には強さがあったため、通級指導教室では九九をカードにし、視覚的な補助を用い覚えた、という指導事例があります。
二つ目は、通常の学級の先生と通級指導教室の先生の連携です。通常の学級での困難さを通級指導教室の先生が理解して課題を絞り込んだり、通常の学級の先生も通級指導教室でのノウハウを通常の学級で取り入れるなど、活かすことができます。
通級による指導の利用期間を「原則1年間」と強調している自治体もあります。希望した際に翌年以降も利用できるかどうかは確実ではありません。
「令和元年度 通級による指導実施状況調査結果について(文部科学省)」によると、通級による指導を受けている児童生徒数は、小学生の116,518人に対し、中学生は14%の16,765人です。
「平成29年度通級による指導実施状況調査結果について(文部科学省)」によると、小学校の通級指導教室の設置割合に比べて中学校の設置割合は約半数になります。小学校から中学校に進学した場合に、確実に利用可能とは限らないので注意が必要です。
高校については、通級による指導が必要と判断された約半数は「指導体制が取れなかったため」通級による指導を受けていません。こちらについては後述します。
保護者は個別の教育支援計画・指導計画を通じて、それぞれの学級に指導目標や達成状況について、協力しながら情報共有することも大切です。
通級指導教室の対象となる障害は「情緒障害」「ASD」「SLD」「ADHD」「言語障害」「弱視」「難聴」「肢体不自由」「病弱及び身体虚弱」です。
言語障害の指導には「ことばの教室」とも呼ばれる言語通級指導教室があるなど、それぞれの障害に応じた教室で、子どもの課題に合った指導を受けることができます。
ここでは障害ごとの判定基準の程度と、指導の内容を紹介します。
心理的な要因でかん黙などがあるが、通常の学級におおむね参加でき、一部特別な指導が必要な程度
カウンセリング、緊張を和らげるための指導、人前で話すことに自信を持つための指導、など本人の心理的な段階に応じた指導を行います。
具体例として「家族や特定の友だちと話せる場合と、それ以外の人との場合で、緊張の度合いをチェックシートを用いて整理する」などがあります。
ASD又はそれに類するもので、通常の学級におおむね参加でき、一部特別な指導が必要な程度
円滑なコミュニケーションのための知識や技能を身に付ける指導を行います。個別指導のほか、グループでの運動やゲームを通じ、学校の決まりや対人関係などの社会的ルールを理解するといった、社会的適応を目的とします。
知的発達に遅れはないが、聞く・話す・読む・書く・計算する・推論する能力のうち特定のものの学習に困難があり、一部特別な指導が必要な程度
子どもの課題に応じて異なりますが、具体例として数の概念の理解や計算することが難しい場合は、身近な事象から数概念を育む、また文章問題の内容を図にして意味を理解していく、といった指導があります。
注意力・衝動性・多動性に困難があり、一部特別な指導が必要な程度
基本的には、自身の特性から生じている困難を理解し、工夫や人に支援を依頼することで困難を軽減するための指導が考えられます。
具体例として、次に何をすればいいか分からなくなる子どもに、付箋を用いて「宿題」「夜ごはん」「お風呂」などすることを視覚化し、整理するといった指導があります。
構音や吃音等話し方のリズム、話す・聞くといった言語機能の発達に遅れがあるが、通常の学級におおむね参加でき、一部特別な指導が必要な程度
言語機能の障害は、子どもによって課題が多岐にわたり、その子どもの障害にあった指導が必要なため、個別指導が中心です。
具体例として「国語の教科書を音読し、的確な発音で、スムーズに行えるようにする指導」などがあります。
拡大鏡等を使用しても視覚の認識に困難があるが、通常の学級におおむね参加でき、一部特別な指導が必要な程度
子どもの課題に応じて、似た文字の読み書き、算数のグラフの目盛りを読み取る、社会科の地図を読み取るなど、視覚的な情報収集・処理の方法を指導します。
また、自分に適した明るさ・道具の配置など、自ら環境を整える力を身に付けることも大切です。
補聴器等を使用しても通常の話声の認識に困難があるが、通常の学級におおむね参加でき、一部特別な指導が必要な程度
保有する聴覚の活用を優先しながら、補聴器等を適切に装用する、音声の聞き取りをする、といった指導を子どもの課題に合わせて行います。
個別指導を原則としながら、グループ学習を通じて円滑なコミュニケーション・会話への理解も深めます。
補聴器等を使用しても通常の話声の認識に困難があるが、通常の学級におおむね参加でき、一部特別な指導が必要な程度
保有する聴覚の活用を優先しながら、補聴器等を適切に装用する、音声の聞き取りをする、といった指導を子どもの課題に合わせて行います。
個別指導を原則としながら、グループ学習を通じて円滑なコミュニケーション・会話への理解も深めます。
肢体不自由・病弱及び身体虚弱の程度が、通常の学級におおむね参加でき、一部特別な指導が必要な程度
健康維持に必要な知識、支援機器の使い方、心身の状態理解・管理方法などの指導があります。
東京都の場合は前述のとおり「ASD」「情緒障害」「SLD」「ADHD」を特別支援教室の対象、「弱視」「難聴」「言語障害(小学校のみ)」を通級指導学級の対象しています。
通級指導教室の教員には、幼稚園・小学校・中学校・高等学校の免許状を持っていれば担当教員になることが可能で、特別支援学級の教員も同様です。
障害のある子どもが通う特別支援学校の教員になるためには、別途「特別支援学校教員免許」が原則必要ですが通級指導教室・特別支援学級の教員は持っていることが望ましいとされ、現状必須ではありません。
「発達障害を対象とする通級指導教室と通常の学級との連携の在り方に関する研究(平成22年度版)(独立行政法人国立特別支援教育総合研究所)」によれば、通級指導教室の教員の「特別支援学校教員免許」保有率は44%でした。
また、小学校で通級指導教室を担当する教員の57%が、特別支援学校や特別支援学級での経験がありました。通級指導教室の教員の研修体制や指導方法の研究については、2016年6月に「発達障害者支援法の一部を改正する法律」が公布され、より適切な支援を行えるよう促進されています。
これまで通級指導教室は小・中学生でのみ設置されていましたが、2018年からは高校でも開始されることになり、実際に各都道府県の高校で通級による指導が始まっています。
ただし2019年の文部科学省の調査では、通級による指導が必要と判断された生徒2,485人に対し、実際に通級による指導を行った生徒は1006人と40%であることがわかりました。
指導を行わなかった生徒のうち337人は本人や保護者が希望しなかったためですが、必要と判断された約半数の1085人は「指導体制が取れなかったため」とされています。
通級による指導を受けている児童生徒の数は年々増えており、2009年度の約54,000人と比べると10年後の2019年には約133,000人と、2.5倍になります。
内閣府は障害者白書(令和2年版)にて、更なる特別支援教育の充実が必要だと言っています。
支援級卒業後の進路
・保護者向け勉強会
・参加無料
・オンライン開催
通級指導教室は通常学級に在籍する特別な支援を必要とする子どもが、障害に応じた特別な指導を受ける教室です。
その時間は通常の学級の授業を抜け、場合によっては通級指導教室が設置されている別の学校に移動することもあります。最近は東京都の「特別支援教室」のように通級担当教員がその学校に派遣されて、その学校内で指導を受けられる自治体も増えてきています。
通級指導教室の教員は特別な免許が必須ではありませんが、SLD、ことばの教室など、障害に応じた教室があり、障害への理解と適切な指導のための知識が望まれます。
2018年からは高校でも通級による指導が開始されました。指導体制はこれからですが着実に増えていると言えるでしょう。
参考
・小学校・中学校における特別支援教育|国立特別支援教育総合研究所
・東京都の発達障害教育|東京都教育委員会
・特別支援学級・通級による指導 教育課程編成の手引「第2部 通級による指導の教育課程」|東京都教育委員会
・一般学級(特別支援教室の利用)|横浜市ホームページ
・学校運営の裁量拡大による「特別支援教室制度」に関する研究|特別支援教室制度研究会
・今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)「第4章 特別支援教育を推進する上での小・中学校の在り方について」|文部科学省
・第3章 「通級による指導の実践例」 ~障がい種別の指導例~|福島県特別支援教育センター
・令和元年度 通級による指導実施状況調査結果について|文部科学省
・平成29年度通級による指導実施状況調査結果について|文部科学省
・日本の特別支援教育の状況について (2019年)|文部科学省
・「障害に応じた通級による指導の手引 解説とQ&A(改訂第3版)」(文部科学省 編著)より抜粋|文部科学省
・通級による指導の現状(平成31年)|文部科学省
・障害者基本計画|文部科学省
・令和2年版 障害者白書 第2章第1節「障害のある子供の教育・育成に関する施策」|内閣府
・発達障害を対象とする通級指導教室と通常の学級との連携の在り方に関する研究(平成22年度版)|独立行政法人国立特別支援教育総合研究所
・資料8:教員の特別支援教育に関する専門性の現状と課題について|文部科学省
・発達障害者支援法の一部を改正する法律の施行について|文部科学省
・令和元年度高等学校及び中等教育学校における「通級による指導」実施状況調査の実施について(結果)|文部科学省
無料発達障害のある子どもとその保護者向け勉強会
中学・高校の選択と
今からできる準備