2021.01.18
発達障害の子どもの進路については多くの保護者が不安や悩みを抱えています。特に高校以降は多様な選択肢があり、将来についても考え始める時期ですが、進路を決める基準も明確ではありません。専門学校や大学進学などその後の自立に向けての準備も視野に入れつつ、子どもの様子や特性を十分考慮しながら進路選択するにはどのようなことを基準に考えたら良いのでしょうか?ここでは小学校以降の進路・進学の選択肢と特徴、進路選択の際のポイントをまとめてご紹介します。
監修
井上 雅彦
鳥取大学医学系研究科臨床心理学講座教授。応用行動分析学が専門。30年以上ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもや家族の相談、療育・家族支援プログラムの開発に携わる。
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発達障害のある子どもの進路・進学を考える場合どのような基準で選んだら良いのでしょうか?進路選択を考える上で大切なポイントをいくつかご紹介します。
子どもは適切な環境の下で過ごすことによって能力を伸ばすことができます。
そのためにはそれぞれの子どもの特性を理解して、どんな教育環境が適しているかを考えることが大切です。以下、場面ごとに例をご紹介します。
学校の規則やルールについて、子どもたちの受け止め方はさまざまです。自分で判断するよりも決められた規則やルールに従った方が楽だと感じる場合もあれば、逆に自分の思い通りにできないような規則・ルールに縛られたくないと感じる場合もあります。具体的には制服があったほうが通学時の服を考えなくていいから楽だと思う子どももいれば、着心地やスタイルが気に入らなくて制服を着ることを嫌がる子どももいます。
発達障害の子どもは多人数の教室では周囲の音が気になって集中できなかったり、窓際の席だと外に気を取られて授業中うわの空になったりすることもあります。子どもを取り巻く学習環境によっては子どもが本当の力を発揮できなくなる場合があるのです。少人数で落ち着いた環境だと集中して取り組める子どももいれば、逆に多くの仲間がいる中で影響を受けるとやる気が出る子どももいます。
授業内容をノートに書き写したり、漢字や単語を繰り返し書いたりするのが苦手な子どももいます。先生の話を耳から聞いてもなかなか頭に入らない場合もあります。その場合、タブレットや学習支援ツールの活用によって苦手や困り感を軽減することもできます。例えば、宿題をノートに書き写すのに時間がかかる場合でも、タブレット上に問題が出てきて、それを解くだけならスムーズに処理できることがあります。
以上のように、それぞれの場面で子どもがどんな様子か、どんな特性があるのかなどを整理してみることが大切です。
自分から助けを求められない、口頭指示だけではなかなか理解が難しい子どもには個別の対応や支援が必要です。どのような個別対応・支援が受けられれば困りごとが軽減し、その子にとって過ごしやすい環境になるのかも選択のポイントとして重要です。
在学中に何か困難な状況になっても、自分で選んだ道なら頑張れることもあります。逆に人から決められた場合だと、「やらされている」感じがして続けられなくなることもあります。どういう選択肢があって、具体的にどのような方向に進めるのかを親や教師が情報提供することが必要です。
自分の好きなことなら意欲をもって取り組めます。また、得意なことであればうまくいって評価を高め自信につなげることもできます。興味があっても苦手な分野では負担が大きく苦労してしまい、後悔することもあるかもしれません。
高校以降の進路は将来の職業に結びついてくるため、卒業後の進路についても情報を得て見通しを立てながら考えましょう。オープンキャンパスでは様々な体験ができ、詳しい話を教員から直接聞くこともできます。高校卒業後に就職を考えるならば、就職に必要な技能や知識を身につけられるよう専門的な学びができる進路を選ぶなども一つです。子どもの特性を考えつつ、どのような就職先があるのか、どんな職業に向いているのか子どもと一緒に話し合ってみましょう。
そのほか通学時間や授業料などもどれくらいなら現実的に考えられるのか、選ぶ際の基準を決めておくと判断がしやすくなります。
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特別支援教育の広がりや中等教育の多様化により、発達障害の子どもの進路選択の幅はグっと広がりました。それぞれの特徴を簡単に説明してみましょう。
1クラスの人数が通級指導教室や特別支援学級よりも多いため、色々な児童と関わることができますが、個別の対応・支援には限りがあります。
通常学級に籍をおきながら、一部の時間で苦手な学習科目や生活面での困難さに対する個別支援を受けられます。
障害のある子ども一人一人に応じた教育を行うため、障害の種別ごとに学級編成をしています。1クラス8人までで、各教科の内容をその子供の状況に合わせて調整したり、個別の学習支援・生活支援を受けることができます。
障害の程度が比較的重い子を対象として、各教科の学習に加え、自立活動の指導を行っています。障害の状態に応じた、専門性の高い教育ときめ細かい支援を受けることができます。
中高一貫校を選ぶメリットは、中学受験に合格できればその後受験をせずに高校まで進学できることです。中等教育の一層の多様化をはかるため中高一貫教育の設置数は年々増えています。
一貫した教育課程や学習環境の下で6年間学べて「探究活動」や「体験学習」なども行っています。公立なので学費も安く抑えられますが応募倍率は高めです。
私立の場合は教育理念も各学校様々で、独自のカリキュラムや部活動の種類も多く、また男子校・女子校・共学とあるため、子どもの特性に合わせて選ぶことが可能です。
一方授業料は中高6年間かかるため金額的にも負担が大きくなります。
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高校の進路選択はより多様になってきます。学習スタイル・学習内容・受け入れに対する理解という点をポイントに進路を考えてみましょう。
朝から夕方まで一日を通して授業が行われます。公立の場合は学習指導要領に従って授業が行われ、一方私立では独自の教育理念に即した教育方針に基づいて授業が行われます。
単位制か学年制かによって卒業要件が異なることがあるため、確認が必要です。また、農業高校・工業高校など、実習が必須の高校もあります。必修科目や実習に苦手さがないか、事前に確認することも大切です。
午前の部・午後の部・夜間の部に分かれていて自分の好きな時間帯に通うことができます。年齢制限がないためさまざまな年代の人が通っています。一般的には卒業に必要な単位は全日制より少なく、卒業まで4年かかります。(3年で卒業可能な学校もあります)
自宅学習をメインとして、登校日数や頻度を自分で選択することができます。卒業までの期限がなく、自分のペースで学習することができます。
通信制高校を卒業するための学習サポートを行う学校で、単独で通うのではなく通信制高校と併用する形になります。通う頻度は毎日だったり、或いは自分で選べたりと自由度が高いです。
どんな学校で何が学べるのかを整理して考えてみましょう。
・文部科学省で定められた「普通教育」に沿って幅広い科目を学習できるが、科目選択の自由度は少ない
・卒業後の進路選択肢が多い
・特定の職種に特化した知識や技術などの専門教育を受けられる
・卒業後の進路の選択肢は限られる
・主に工学・技術系の専門的な教育を行う
・卒業までに5年かかるが、即戦力が身につき就職率も高い
・大学への編入も可能
・仕事に役立つ専門的な知識や技術、実務をまなぶことができる
・高校卒業資格を取得するには「技能連携制度」を利用したり、「大学入学資格付与指定校」を選ぶ必要がある
そのほか、学習スタイルや学習内容以外の観点として、発達障害のある子ども向けのサポートをしている学校もあります。
発達障害や知的障害などに対する支援が充実しており、教員のほとんどが障害児教育の専門的な知識をもっているため個別の支援も受けやすいのが特長です。卒業後の就労を目指した職業教育も充実しており、職業体験や企業での実習、自立に向けた生活スキルなどを学べます。
高等学校における発達障害のある子どもへの支援は地域によってさまざまですが、例えば基礎から学習し直す事ができる高校や単位制の高校もあります。
以下、発達障害のある生徒への支援を行っている指定校一覧です。子どもの特性にあう学校があるかどうか、参考にしてみてください。
特別支援教育について 高等学校における発達障害のある生徒への支援 指定校一覧 |文部科学省
また、上記以外のポイントとして「受験スタイル」も挙げられます。高等学校などに入学する場合は必ず受験が必要になってきます。受験科目や科目数、内申点の必要性などそれぞれの学校で異なりますので早めに調べておくことをおすすめします。
高校卒業後の進路については、大学進学・就労・就労準備などを視野に入れて考えてみましょう。また高校卒業後や大学卒業後にすぐに就職するのではなく、就職に向けたプログラムを提供している場所に通う選択肢などもあります。
環境の変化によって就職のタイミングも変わってくるかもしれません。さまざまな選択肢を踏まえて柔軟に方向転換できるようにしておくことも大切です。
入試改革により大学入試の方法も多様化し、多くの人が大学で学ぶ機会を得られるようになりました。けれどもなんとなく大学に進学して、その後就職でつまずいてしまうケースも多いといいます。入学後どのような進路・就職を目指すのかを事前に考えて大学を選ぶことが大切です。
日本学生支援機構では、障害学生の支援事業を行っています。ホームページでは発達障害のある学生への支援事例も載っていますので、支援について参考にしてみてください。
専門学校は、理論を学ぶことを重視する大学と比べ、社会に出てからすぐに役立てることのできる専門的な知識・技術の習得を中心にしています。学科によっては実験や実習の割合が多いことも特徴です。資格取得にもつながるため、なりたい職業・具体的な目標がある場合は選択肢の一つになります。
また、2年の修了者は、大学に編入学することも可能です。
障害者総合支援法に定められた福祉サービス事業の一つで、利用するには自治体から発行される受給者証が必要となり、必ずしも障害者手帳の取得が必要なわけではありません。なお就労まで最長2年間のプログラムを受けることができます。
事業所によってプログラム内容はさまざまです。例えばパスコンスキル・ビジネスマナーなどの基礎知識から、コミュニケーションを円滑にするためのソーシャル・スキルトレーニング(SST)まで就職に向けて必要な知識・能力を身につけるためのトレーニングを受けることができます。そのほか実務に近い作業トレーニングや企業での職場実習などを行い、適性に合った職場探しや、就職後の職場定着に向けた支援なども受けることができます。
身体や精神に障害がある人が、就職に必要な知識や技術を身につけて社会で活躍できるように国が設置し、国や各都道府県によって運営されています。訓練内容は豊富で数ヶ月から1年間で就職を目指します。利用するには医師による診断と全国のハローワークへの登録が必要となります。ビジネスマナーの習得やコミュニケーションスキルの上達のための就業基礎科目と事務・物流・サービスなどの実技科目などがあります。
グレーゾーン・発達障害のある子の大学進学・就活
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子どもの進路や将来について、いつごろから考え始めたらよいか悩むご家庭も多いのではないでしょうか。子どもは少しずつでも日々確実に成長し、周囲の状況も常に変化していきます。
その都度子どもに合う環境を見つけられるよう早いうちから情報収集を行い、さまざまな選択肢があることを知っておくと、その後の進路・進学の選択を柔軟に考えることができるでしょう。
その場合は、まずは子どもの特性をよく理解し、子どもにとって何を一番優先しなくてはならないのかをきちんと整理した上で考えていくことが大切です。子どもの意見も参考にしながら、一緒に考えていきましょう。
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