2023.02.28
学習障害のひとつに、読み書きに困難を感じるという特徴を持った症状があります。そのような学習障害を「ディスレクシア」と呼びます。
ディスレクシアは、発達の遅れはないものの読み書きにのみ困難がある場合が多く、学習障害の症状であることに気づきにくい面があります。
この記事ではディスレクシアの症状をはじめ、家庭や学校でできる工夫やディスレクシアに関する相談先を紹介します。
※ディスレクシアは、読みの障害ですが、書字にも困難が生じることが多いため、「発達性読み書き障害」と呼ばれることもあります。
監修
井上 雅彦
鳥取大学医学系研究科臨床心理学講座教授。応用行動分析学が専門。30年以上ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもや家族の相談、療育・家族支援プログラムの開発に携わる。
ディスレクシアとは、「文字の読み書き」に限定して困難を感じるという学習障害のひとつです。読字障害や識字障害と呼ばれることもあります。全体的な知的発達の遅れや聴覚・視覚には問題がないこともあり、周りから気づかれにくい障害です。
そのため、周囲のサポートや理解がない場合は、学校での勉強についていけなかったり、学校生活にうまく適応できなかったりすることがあります。
ディスレクシアの症状には、文字を読むことに大きな労力や時間を要し、読み間違いや書き間違いをしやすいという特徴があります。
読むことに対し負担を大きく感じるため、読むこと自体を避けたくなったり、意味を理解する段階まで進みづらかったりします。
その結果、学校のテストで思ったように点が取れない、また、語彙や知識が不足することなどから学業不振につながることがあります。
読むことに困難がある読字障害には、以下のような症状があります。
・自ら本などの文章を読もうとしない、興味を示さない
・読み飛ばしたり、文末を変えたりして読むことがある
・語や文章を不自然に区切って読むことがある
・文字が詰まっているとさらに読みづらいと感じる
・どこを読んでいるか文字を追いかけることが難しい
・文字や本を読むと疲れやすい(=易疲労性)
書くことに困難がある書字障害には、以下のような症状があります。
・小さい「っ」(促音)、「ん」(撥音)、小さい「ゃ・ゅ・ょ」(拗音)、「おかあさん」「おにいさん」(二重母音)などの特殊な音節を書き表すことが苦手
・「入」と「人」、「め」と「ぬ」のように形が似ている文字を間違える
・「は」と「わ」、「え」と「へ」のように発音が同じ文字を間違える
・画数が増えると間違えやすい
ディスレクシアのある人には文字や文章がどのように見えているか、例をいくつか紹介します。見え方には個人差があるので、参考程度にしてください。
ディスレクシアの原因は明確にはわかっていませんが、脳機能の発達に問題があり、知的能力全体の低さや努力不足は関係しないと考えられています。
文字を読むには次のような動作が必要です。
・文字を目で追う
・単語や文節のまとまりを捉える
・文字を音に変換する
・文字、言葉の意味を表記と結びつけて理解する
上記を瞬時に行うために、脳内では複雑な処理がなされています。この処理を行う機能に障害があるとも考えられています。
ディスレクシアの症状が疑われる場合は、医療機関で診断を受けることができます。
「ディスレクシア」という名称は、診断名ではありません。ディスレクシアを疑われた場合、「学習障害(LD)」や「現局性学習症(SLD)」として診断を受けることがあります。
診断の際には、生まれた時から現在に至るまでの成育歴や既往症、ほかにどんな困りごとを抱えてきたのかをヒアリングします。
加えて、心理検査を受けてみることで発達水準や行動の特性などを把握したり、頭部MRI・CTや脳波検査なども実施して脳の組織などに問題が起きていないかを確認したりすることもあります。
こうした過程を通して、総合的に学習障害や限局性学習症なのかどうかを診断します。
児童発達支援事業所・放課後等デイサービスを運営するLITALICOジュニアでも心理検査を行っています。詳しくはこちらをご覧ください。
文字の読み書きに困難さを感じたら、発達障害や学習障害などに詳しい専門医で受診しましょう。検査についても、診察時に相談をすれば受けることができます。
専門医のいる医療機関については、お近くの保健センターや児童発達支援事業所、かかりつけ医に相談をしてみてください。
ディスレクシアの症状は人によってさまざまです。子どもがディスレクシアの疑いがあるときは、本人にどんな困りごとがあるかを把握して、勉強や日常生活においてできる工夫や対策をしてみましょう。
一例として、家庭では以下のような工夫ができます。
・本人が読む前に一度読み聞かせ、内容の分かるところ・分からないところを確認する
・文章や言葉を区切る線(斜線など)を書き入れる
・文章が読みやすいように、他の行を隠す
・印刷する際は、行間や文字を大きく空ける
・1マスを大きくして漢字練習をさせる
・漢字にひらがなでふりがなを振っておく
こうした工夫を通して、本人が少しずつ読めるようになってきたら、短い文を読んだり、ふりがな・斜線などを消して読んでみたりする練習も効果的です。
しかし、ディスレクシアがある子どもは、学校で想像以上のストレスを抱えている場合があります。あくまで家庭では、そのストレスから解放され、趣味や好きなことに時間を使えるような環境を整えておくことも大切です。
ディスレクシアがある子どもは、学校生活において次のような場面で困難を感じることがあります。
・読んだことのない文章を音読する
・漢字、文章などの書き取り
・黒板の文字を写す
・筆記を要するテスト、試験
・メモを取る
家庭での対策だけでは、ディスレクシアによる困りごとをすべて解決することは困難です。学校の先生やスタッフ(スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーなど)にも相談し、対策やできることについて連携して対策をしていきましょう。
一例として、具体的には以下のような対策ができると安心です。
・いきなり皆の前で音読させないよう、先生にお願いしておく
・やむを得ず音読をする場合は事前に読む箇所を教えてもらい、練習する
・読むときに書き込みをしたり、拡大鏡などの道具を使ったりする許可をもらう
・板書やメモは、写真などで確認できる形にしてもらう
・タブレットなどの活用を促す
現在、大学受験や一部の試験などでは以下のような配慮を受けることができます。
・試験時間の延長
・試験文・問題文などの読み上げ
・読み上げソフトやアプリケーションの利用
・タブレットの利用
・漢字にルビを振る
このように、障害のある人も同じように機会を活用できるよう「合理的配慮」が受けられるようになってきています。
身近な人や子どもがディスレクシアかもしれない、と感じたときはまず専門家へ相談してみることが大切です。
学校や医療機関以外にも、以下のような相談先があります。
・市区町村役所の福祉課/子育て支援課/特別支援教育課など
・特別支援教育支援員/コーディネーター
・全国の発達障害者支援センター
・児童発達支援事業所/放課後等デイサービス
些細なことでも、何か気になることがあれば気軽に相談をしてみてください。
児童発達支援事業所・放課後等デイサービスを運営するLITALICOジュニアでは、ディスレクシアを含むさまざまな子どもの特徴にあわせた指導などを行っています。
ディスレクシアは、読み書きに困難を感じる学習障害のひとつです。
たくさんの文字を読み書きすることが必要とされる学校などにおいて、ディスレクシアを持つ子どもの抱えるストレスは想像以上に大きいかもしれません。
「文字の読み書きに関する困りごとや不安を解消したい」と感じたら専門医や学校、児童発達支援事業所やその他専門機関に相談してみることが大切です。
ひとりで抱え込まず、公的な支援・サポートを活用しながら、少しずつできることを見つけていきましょう。