2023.02.24
「急な予定の変更があると動けなくなる」「会話をしているときについ自分のことばかり話してしまう」、といったことから日常生活で困難を抱えていたり、苦痛を感じていたりすることはないでしょうか。また、ある特定の物事に対してのこだわりが強く、こだわっている事柄の手順などが崩れると混乱してしまうこともあるでしょう。
このような症状を持つ人の中には、発達障害の中でも広汎性発達障害に分類される障害や症候群の診断をされる人もいます。
ここでは、広汎性発達障害とは何か、またその特徴やASD(自閉スペクトラム症)との違いについてご紹介します。
※現在は『DSM-5-TR』の診断基準により「自閉スペクトラム症」に含まれますが、この記事では広汎性発達障害として取り上げます。また、「自閉症」「アスペルガー症候群」なども『DSM-5-TR』の診断基準により現在は「自閉スペクトラム症」に含まれますが、この記事では一部以前の表記を用いて記載しています。
監修
井上 雅彦
鳥取大学医学系研究科臨床心理学講座教授。応用行動分析学が専門。30年以上ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもや家族の相談、療育・家族支援プログラムの開発に携わる。
広汎性発達障害とは、発達障害における症状や特性によって大きく3つに分類される中の一つです。
広汎性発達障害には、自閉性障害・レット症候群・小児期崩壊性障害・アスペルガー症候群、さらに特定不能の広汎性発達障害が含まれます。
広汎性発達障害の主な症状の特性として、コミュニケーションや対人関係・社会生活に難しさを感じていたり、パターン化した行動に強いこだわりを持っていたりすることで、生活に支障をきたしてしまうことなどがあります。
また、人によって障害の程度や強度は異なり、これらの特性以外のことを示す場合もあります。
アメリカの精神医学会が刊行している、精神障害の診断と統計マニュアル『DSM-IV』において、広汎性発達障害は診断名としてではなく、分類上の概念として記載されていました。
広汎性発達障害に分類される障害の診断名の一つとして、自閉症が位置づけられていましたが、2022年(日本語版は2023年)発刊の『DSM-5-TR』では「自閉スペクトラム症」という診断名になりました。
ASD(自閉スペクトラム症)と広汎性発達障害は、自閉スペクトラム症は診断名、広汎性発達障害はDSM-IVまで用いられていた症状や状態像を示す概念という意味で違いがあるものの、ほとんど同じ意味をもっているといえます。
※こちらの診断名に関してはアメリカの精神医学会が刊行しているDSMに準拠しております。
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広汎性発達障害は、脳の機能障害によって起こるものだと考えられていますが、特定の原因については現時点では明らかになっていません。
広汎性発達障害に分類されている障害・症候群のそれぞれの特徴について記載していきます。
なお、以前は対人関係の困難、パターン化した行動や強いこだわりの症状がみられる障害の総称として「広汎性発達障害」が用いられていましたが、アメリカ精神医学会発刊の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)では自閉的特徴を持つ疾患は包括され、2022年(日本語版は2023年)発刊の『DSM-5-TR』では「自閉スペクトラム症」という診断名になりました。
自閉症とは、言葉の遅れやオウム返し、スムーズな会話が成り立たないなどの症状がある障害です。そのほかにも、社会性や対人関係の構築における困りごと、こだわりが強い、感覚過敏などの特徴もあります。自閉症は、3歳までになんらかの症状がみられることが多いです。『DSM-5-TR』において現在は自閉スペクトラム症という診断に統合されています。
アスペルガー症候群とは、周囲と交流することの難しさや、興味の対象が限定的であることなどが症状としてあげられる、コミュニケーション能力に関わる発達障害のひとつです。『DSM-5-TR』において現在は自閉スペクトラム症という診断に統合されています。
特定不能の広汎性発達障害とは、自閉症やアスペルガー症候群など、他の広汎性発達障害の特徴がみられるものの、それらの基準を満たさない場合に診断される障害です。特定不能の広汎性発達障害は、アメリカ精神医学会の『DSM-Ⅳ-TR』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第4版 テキスト改訂版)の診断基準により分類されていました。『DSM-5-TR』において現在は自閉スペクトラム症という診断に統合されています。
レット症候群とは、女児に発症することの多い進行性の疾患です。乳幼児期に発症する発達障害のひとつで、けいれんや歩行障害、てんかんなどさまざまな症状があります。また、これまで出来ていた活動や動作が出来なくなってしまうなどの、退行の症状もあります。現在は治療法が見つかっておらず、国の難病に指定されています。
レット症候群の詳しい内容はLITALICO発達ナビの記事よりご確認ください。
小児期崩壊性障害とは、定型発達をたどっていたにも関わらず、成長の途中からそれまでできていた排泄が困難になったり、言葉が出なくなったりするなど、獲得してきた能力を突然喪失していく障害です。進行していくと知的障害を伴うASD(自閉スペクトラム症)のような状態を示すとされています。
広汎性発達障害でよくある行動について、幼少期・児童期・思春期に分けてご紹介します。
指さしに反応しない、もしくは指のさし方向にある目的ではなく、指先に注目するような様子を示すことがあります。また、ほかの人が見ている視線の先を追うといった「共同注意」が苦手なこともあります。
親のマネをあまりしない、大人からの働きかけには反応せず、興味のあるおもちゃなど、物に強いこだわりをもって執着する傾向があります。
コミュニケーションでは、質問に対して応答をするのではなく、同じ言葉を繰り返して発声する「オウム返し」が特徴として見られます。例えば、大人が「何して遊んだの?」と聞くと「何して遊んだの?」と繰り返して言うなどの場合があります。
集団場面において、強いこだわりから融通をきかせることが難しい傾向があります。また、そもそも集団活動が苦手なことも多く、一人遊びを好む傾向があります。
知的障害をあわせ持つタイプの子どもの場合は、全般的に言葉の遅れが見られる場合があります。発語が可能な子どもの場合も、自分の気持ちを言葉にすることが苦手な傾向があります。
そのため、困りごとを相談することができず、強いストレスを抱え込んでしまうことがあります。環境の変化が大きく、集団での活動が求められるようになる児童期では、二次障害として抑うつや不安状態を引き起こしてしまうこともあります。
嗅覚や視覚、聴覚などが過敏で、多くの人にとっては平気なにおいや光、音などをつらく感じたり、ストレスになったりすることがあります。そのため、頻繫に耳をふさぐといった行動がみられることがあります。
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知的障害がある場合は、言語指示全般に苦手さが見られます。言葉の理解ができる場合もあいまいな指示の理解が苦手なことがあります。
これは、ASD(自閉スペクトラム症)の人に見られる特徴です。学校で仲間や先生から漠然とした内容で指示を受けた時に、どうしたらよいのかわからなくなってしまうなど、暗黙の了解などを汲み取ることが苦手な場合があります。
言いたいことを一方的に話してしまうことがあります。そのため、相手の反応を見ながらやり取りをしていくといった、臨機応変さを求められる雑談が苦手であることが多いです。
興味のあるものについてはとことん没頭し、膨大な知識をもつ傾向があります。これは、ASD(自閉スペクトラム症)の人に見られる特徴です。物事に対して強いこだわりがあるために、興味のある分野においては大きな功績をあげる場合もあります。
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広汎性発達障害のある子どもとの関わり方について解説します。
広汎性発達障害のある子どもの中には、言葉だけでのコミュニケーションではなかなか伝わりづらいこともあります。その際には、紙などに伝えたい内容、やって欲しい事柄などを箇条書きにして分かりやすく伝えると良いかもしれません。
複数の指示などを行う際には「1番○○、2番△△」のように簡潔に記載することもポイントです。
広汎性発達障害のある子どもは、あいまいな表現を理解することが難しい場合があります。そのため、できるだけ「早めに」や「多め」、「ちゃんと」といったあいまいな表現を避け、具体的な数で伝えることも大切です。
次にどんな活動をするか予定をわかりやすく、紙に絵や文字で示すことで見通しが持ちやすくなります。
周囲のざわつきに耳をふさいだり、大きな音がする場所ではイライラした様子が見られたりする場合があります。また、軽く触れただけで痛がったり、靴などを履きたがらなかったりすることもあります。
こうした音や痛みといった身体感覚の過敏さに配慮し、本人がつらそうな様子を見せた場合にはなるべく静かな場所に移動する、痛がった刺激に関する事柄を強要しないといった配慮が大切です。
広汎性発達障害の受診先(大人・子ども別)や相談先について解説します。
下記見出しは一例です。
広汎性発達障害は、現在では「ASD(自閉スペクトラム症)」と診断されることが多くなっています。診断・診療を受ける場合、子どもの場合には児童精神科に、大人の場合には精神科の医師によって診断を受けることになります。
ASD(自閉スペクトラム症)の診断については下記の記事に詳しく紹介をしていますので、ご確認ください。
診断名がつかなかったような場合でも、困りごとを抱えていることに変わりはありません。発達障害者支援センターなどを活用することができるため、気になった際は相談をするようにしましょう。
主に、乳幼児期の子どもと、その子どもを養育している保護者が交流を深める場所として各自治体に設置されています。名称は地方自治体によって異なることがあります。
子育て支援センターは、地域子育て支援拠点事業の一部として位置づけられていて、子育てについて全般的に不安を感じた際などにも活用をすることができます。広汎性発達障害だけでなく、乳幼児期の子育て全般において不安や困りごとを感じた際には、一度相談をしてみるとよいかもしれません。
保健センターとは、地域保健法に基づく施設です。基本的に市町村ごとに設置されていて、総合的な保健サービスを母子・成人や老人保健事業など幅広い世代に対して提供しています。
保健センターでは、健康相談や健康診査などを受けることができます。
児童相談所は、児童福祉法に基づき、各都道府県に設置されています。子どもに関する相談を受け付けており、ほかの児童・福祉機関との連携なども行います。
児童相談所は、児童福祉において高い専門性を有しています。広汎性発達障害の疑いのある子どもの年齢が18歳未満の場合には、一度児童相談所に相談をして行ってみるのもよいかもしれません。
発達障害者支援センターでは、年齢にかかわらず発達障害についての支援を行っています。発達障害者支援法に基づく施設で、各地方自治体に設置されています。
広汎性発達障害だけでなく、発達障害かもしれないと不安になった際には相談に行くと良いでしょう。かもしれません。また、本人や家族のみならず関係者からの相談にも対応しています。
LITALICOライフでは「発達障害のある子の保護者さま向け勉強会」を無料・オンラインで開催しております。勉強会では「事例でわかる!子どもの困った行動への対処」「将来に向けて用意しておくこと」など幅広く学ぶことができます。
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広汎性発達障害(自閉スペクトラム症)のある子どもが受けられる支援や制度(大人・子ども別)について解説します。
広汎性発達障害の人が受けられる支援として、子どもの場合「療育」が挙げられます。
療育とは、子どもの持つ特性や困りごとに合わせて作成された支援計画に基づき提供される、自立や社会参加を目的としたサポートのことです。
児童福祉法に基づき、0歳~6歳の子どもには児童発達支援事業所や児童発達支援センターが療育を提供します。小学生以上になると、放課後等デイサービスという形態で療育を受けることができます。
広汎性発達障害のある大人が受けられる支援の一つとして、広汎性発達障害により就労が難しい場合に、障害者総合支援法に基づく就労移行支援事業を利用することができる場合があります。就労移行支援事業所では、就労するために必要なことを学ぶことが可能です。
LITALICOワークスでは全国で就労移行支援事業所を展開しています。就労移行支援が気になる方はこちらのページよりご確認ください。
広汎性発達障害は、主にコミュニケーションの分野において困りごとを抱えやすい特徴があります。そのため、社会生活や集団活動でストレスを感じることが多いでしょう。
これらのストレスによって起こる二次障害を予防していく観点でも、必要に応じて支援や医療機関を活用していくと良いでしょう。
また、困りごとだと思っていたことが環境の調整次第では強みとなることもあります。広汎性発達障害がある人の症状や困りごとはさまざまあるので、周囲の人と相談しながらサポートをしていくことが大切です。