癇癪(かんしゃく)とは?発達障害との関連性や原因、対応方法、相談先などを解説

癇癪(かんしゃく)とは、「大きな声を上げる」「手足をバタバタさせて暴れる」「物を投げつける」など、感情の爆発を伴う行動のことです。
癇癪がなかなかおさまらない、何度も繰り返していると悩んでいる保護者の方もいるかもしれません。

子どもが癇癪を起こすのには子どもの性格や環境、言葉の発達スピードなどさまざまな要因が関係しています。まずは癇癪を起こす原因を知り、子どもの特性にあった対応をすることが大切です。

この記事では、癇癪の原因と対応方法、発達障害との違いや関連性についてご紹介します。

監修

井上 雅彦

鳥取大学医学系研究科臨床心理学講座教授。応用行動分析学が専門。30年以上ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもや家族の相談、療育・家族支援プログラムの開発に携わる。

癇癪(かんしゃく)とは?

癇癪(かんしゃく)とは?

癇癪とは、「大きな声を上げる」「手足をバタバタさせて暴れる」「物を投げつける」など、感情の爆発を伴う行動のことです。

癇癪は子どもにはよくあることです。癇癪は、成長の過程のひとつであるため、それ自体が悪いわけではありません。

子どもの成長過程は一人ひとり異なりますが、1歳になる少し前くらいから癇癪が見られるようになります。2歳〜4歳が最も多く起こり、5歳を過ぎると癇癪は落ち着く傾向があると言われています。

癇癪と発達障害の違いとは?

癇癪と発達障害の違いとは?

癇癪をたびたび起こしたり、小学生まで長く続いたりすると「発達障害があるのでは」と考える人もいますが、癇癪があるからといって発達障害というわけではありません。

発達障害は生まれつき脳の働きに偏りがある障害で、「癇癪を起こす」という特性はありません。

ただし、発達障害の特性が癇癪の要因の一つになっている場合もあります。ここでは発達障害の特性を説明し、関連性と違いについて解説します。

 

発達障害とは

発達障害とは、生まれつき脳機能の発達の偏りによる得手不得手と、周りの環境や人間関係のミスマッチから社会生活上の困難さが生じる障害のことです。

発達障害には、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、SLD・LD(限局性学習症、学習障害)といった種類があります。

●ASD(自閉スペクトラム症)

ASDは「社会性や対人関係の困難さ」「行動や興味の偏り」といった特性が見られます。また、感覚過敏や鈍麻性が表れることもあります。

●ADHD(注意欠如多動症)

ADHDは、「集中力がない(不注意)」「じっとしていられない(多動性)」「思いつくと行動してしまう(衝動性)」といった特性が見られます。これらの要素の表れ方は子どもによって異なります。

●SLD・LD(限局性学習症、学習障害)

LDは知的発達の遅れはないものの、「読む」「書く」「計算する」など部分的に困難さが生じる障害です。

子どもによって、発達スピード、得意なことや不得意なことも異なるため、上記の特性が見られても発達障害があるとは言えません。

子どもの学習障害(LD)とは?

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癇癪と発達障害の関連性

癇癪と発達障害の関連性

癇癪を起こすからといって発達障害があるとは言えませんが、発達障害の特性が癇癪の要因に関係していることもあります。

例として、いくつか紹介します。

 

こだわりが強い

発達障害のある子どもの中には、ある特定のものごとに対するこだわりが強い場合があります。例えば、着る服にこだわりがあり、服を購入しても同じ服しか着てくれなかったり、順番にこだわりがあり、教わった手順を徹底的に守ろうとしたりなどです。急に手順が変わると不安な気持ちが強くなり、癇癪を起こすことがあります。

 

対人関係や社会性に困り感がある

コミュニケーション全般に苦手意識や困り感を抱えている発達障害のある子どもも少なくありません。相手の意図や気持ちを察したり、暗黙の了解や曖昧な表現を理解したりすることが難しい場合があり、相手から「違うよ」と言われたときに、困惑したりストレスを感じ癇癪につながることもあります。

 

感情のコントロールが難しい

発達障害のある子どもの中には、自分の思い通りにならないことが起きると怒ったり、泣きわめいたりなど感情のコントロールが難しい子どもがいます。また、気持ちの切り替えが苦手な子どもも多く、イライラした気持ちが収まらずに癇癪を起こすこともあります。

 

自分の思いを言葉にすることが苦手

何か嫌なことがあっても、何が嫌なのか自分自身の感情や感覚に気づきにくかったり、自分の気持ちや意見を言葉で表現しづらかったりして困っている子どももいます。小さなフラストレーションがたまり、癇癪というかたちで爆発することがあります。

ここで紹介したものはあくまでも一例です。
もし「発達障害かな?」と気になることがあれば、のちに紹介する専門家や支援機関に相談することも検討してみてください。

子どもが癇癪を起こす原因・背景

子どもが癇癪を起こす原因・背景

癇癪は子どもにはよくあることといっても、どう対応したらよいのかと悩んでいる保護者の方もいるのではないでしょうか。

そんなときは「なぜ癇癪が起きているのか」と、癇癪を起こす原因をまず探ってみましょう。

 

生理的欲求を満たすための癇癪

癇癪の原因としてもっとも多いのが、「欲求不満」「疲労」「空腹」と言われています。

乳幼児は、「おなかが空いた」「おむつが濡れている」「眠い」など、不快感を泣いて表現することで、ミルクをもらえたり、おむつを替えてもらえたり、寝かしつけをしてもらえたりして不快感を取り除くことができます。

「おなかが空いて泣く」などもコミュニケーションの一つですが、激しい感情を伴うと癇癪になります。

乳幼児期は生理的欲求を泣くことで伝えることが多いですが、成長とともに社会性やコミュニケーションの発達など様々な要因が関係するようになります。

 

コミュニケーションのための癇癪

1歳ごろになると、身近な人の顔がわかるようになり、初めての人や知らない人に対しては、泣いたりして人見知りをするようになります。

2歳ごろになると、大人の言うことがわかるようになり、自分の意思を大人に伝えたいという欲求も芽生えだします。また「自分でしたい」という気持ちも強くなります。自分の意思や欲求を「いや」と言葉で表せるようにもなりますが、思い通りにいかないと泣いたり、癇癪を起こす場面があります。

5歳ごろになると、自分の意思や欲求を言葉で伝えられるようになり、癇癪は落ち着いてきます。

大人のように自分自身の要求を言葉でうまく表現できない子どもにとっては、癇癪は自分の要求を伝えるコミュニケーション手段なのです。

 

子どもが癇癪を起こす背景

子どもが癇癪を起こす背景には、以下のような気持ちがあります。

・注目してほしい、かまってほしいという気持ち
・あれがほしい、こうしてほしいなど要求したい気持ち
・これはしたくない、避けたいという拒否したい気持ち

例えば、かまってほしくて子どもが言葉で伝えてもその気持ちを満たせなかったとき、「泣き叫ぶことで保護者がそばによって抱き上げてくれた」というような経験を繰り返し得ることで、「泣き叫ぶとかまってもらえる」と学んで癇癪を起こしやすくなります。

 

癇癪は子育てのせいではない

子どもが癇癪を起こすと「自分の子育てのせい」と責めてしまうかもしれませんが、癇癪は子どもの性格や環境、言葉の発達スピードなどさまざまな要因が関係しています。

もしも癇癪で困っているようであれば、次に紹介する癇癪の対応方法を試してみるとよいかもしれません。


 

子どもの癇癪を予防する方法

癇癪にたびたび対応していると疲れてしまうこともあるでしょう。癇癪の頻度を少なくしていくためには、普段の生活から癇癪を起こさないよう工夫していくことが大切です。

 

見通しを持てるようにする

気持ちの切り替えをすることは、子どもにとっては難しいものです。例えば、いきなり遊びを中断されることは子どもにとってはストレスなので、癇癪を起こす要因になります。

「○○したら、ご飯にしようか」など、次の行動の予測がつく声かけを行うと、心の準備の時間が持て、癇癪を起こしづらくなります。また、視覚的にわかりやすくする工夫もできます。例えば、スケジュールを絵や写真と文字で提示するなどです。

 

コミュニケーションツールを活用する

自分の気持ちや意見をわかってもらうだけでも、気持ちが楽になることがあります。言葉で伝えることが苦手な場合、図やイラストにまとめたり、文章にまとめたりする方法があります。また、「イライラしている」「落ち着いている」などの気持ちを書いた絵カードを使うのもよいかもしれません。子どもが気持ちを伝えやすい方法でコミュニケーションをとってみましょう。

 

気持ちを切り替える方法やルールを用意しておく

普段子どもが穏やかなときに「イライラしたときは、どうするとよいかな」と、あらかじめ対処方法について話し合っておくとよいでしょう。例えば、落ち着く場所を決めて不安になったときは移動するようにする、落ち着く音楽を聴く、などです。

また、癇癪を起こしていないときに「おもちゃの取り合いになったときは、こうしよう」などの約束ごとを決めておくこともよいでしょう。

子どもの癇癪が起こってしまったときの対応ポイント

子どもの癇癪が起こってしまったときの対応ポイント

癇癪に対して叱責しても根本的な解決にはつながりません。子どもが癇癪を起こしたときのポイントは「安全を確保」し「落ち着くまで待つ」ことです。

 

まずは安全を確保する

子どもが癇癪を起こしたときは、まずは子どもの安全を確保するようにしましょう。
ものを投げる場合、硬いものや尖ったものなど危険なものは遠ざけます。また、頭を床や壁に打ちつけるなどの癇癪の場合は、クッションを挟むなどして怪我を防ぎます。

 

落ち着くまで待つ

安全の確保ができたら、子どもが落ち着くまで待ちましょう。
癇癪を起こしているときに、必要以上に声をかけたり注意したりすると、より子どもを興奮させてしまうかもしれません。もしもお店など外で癇癪を起こしたときは、一旦外に連れ出すなどして落ち着くのを待ちます。

 

冷静さを取り戻したら褒める

癇癪がおさまり、子どもが冷静さを取り戻したら、自分で落ち着けたことをしっかりと褒めるようにしましょう。褒めることで子どもは安心でき、癇癪を落ち着ける方法を学ぶことで、自信や予防にもつながります。

子どもが癇癪を起こしたときのNG行動

子どもが癇癪を起こしたときのNG行動

不適切な対応が、子どもの癇癪をエスカレートさせてしまうこともあります。

癇癪は子育てのせいではありませんが、子どもが癇癪を起こしたときの対応には注意が必要です。

 

子どもの癇癪に感情的になってしまう

頭ごなしに叱ったり、暴力をふるったりすると、癇癪をエスカレートさせてしまいます。もし癇癪中の子どもにイライラした場合は、大人もクールダウンしましょう。

 

ものを与えて落ち着かせる

もしお菓子が欲しくて暴れる子どもにお菓子を買い与えてしまったり、片付けを頼んだらものを投げるようになった子どもの代わりに片付けをしてしまったりすると、「癇癪を起こすと欲求が満たされる」と学んでしまいます。

一時的に癇癪は落ち着くかもしれませんが、根本的な対処になっていないのでよい方法とは言えません。

子どもの発達に関する相談先は?

子どもの発達に関する相談先は?

子どもの癇癪が激しかったり大人も疲弊してしまったりすると、家庭内だけでは対応が難しいこともあります。また、癇癪の予防方法を考えるには、専門性が必要なこともあります。

もしも子どもの癇癪に悩んでいたり、「発達障害かも」と思うようであれば、なるべく早くに支援機関や専門家に相談することをおすすめします。

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子育て支援センター

子育て支援センターは、主に乳幼児の子どもとその親が交流を深める場です。市町村ごとに公共施設や児童館の中などにあり、癇癪など育児不安についての相談を受け付けています。

 

児童発達支援センター・児童発達支援事業所

障害のある子どもが通所し、日常の基本動作・集団適応といったスキルの訓練を行う施設です。お住まいの市区町村へ問い合わせが必要です。

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児童発達支援とは?対象やサービス内容、利用方法、費用などを解説

発達障害者支援センター

癇癪の原因として発達障害の特性がありそうな場合は、発達障害者支援センターなどの支援機関に相談をしてもいいでしょう。

発達障害者支援センターでは、発達障害のある子どもへの支援をおこなう専門機関です。子どもへの関わり方についてのアドバイスや、必要に応じて福祉制度や医療機関の紹介などもおこないます。

 

児童相談所

児童相談所は、18歳未満の子どもに関するあらゆる相談に応じてくれる機関です。都道府県や政令指定都市などに設置されています。

癇癪についてまとめ

癇癪についてまとめ

癇癪とは、「大きな声を上げる」「手足をバタバタさせて暴れる」「物を投げつける」など、感情の爆発を伴う行動のことです。

癇癪は子どもの成長過程でよくあることで、5歳を過ぎると癇癪は落ち着く傾向があると言われています。

癇癪を頻繁に起こす、小学生になるまで長く続くからといって発達障害とは言えませんが、発達障害の特性が癇癪の要因に関係していることもあります。癇癪の原因はさまざまですが、その原因に合わせて対処することが大事になります。

ご家庭だけで対応が難しい場合は、支援機関や専門家への相談も検討してみましょう。

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