2021.03.03
発達障害のある子どもを育てるときに気になるのが教育費のこと。私立に行くとどれくらいかかるの?療育や塾の費用はいくらぐらい必要なんだろう?と考えることもあるかもしれません。
そこで就学前・小学校・中学校・高校と、それ以降で発達障害のお子さんがとりうる進路の選択肢と、それぞれにかかる教育費の目安を分かりやすくご紹介します。また、家計を助けるために活用できる給付金制度や減免制度についても知っておきましょう。
監修
寺門 誠
[保有資格] AFP(日本FP協会認定)、相続診断士、住宅ローンアドバイザー。お子さまの進路・自立を含めたライフプランや資産運用・相続・教育費などの資金計画を作成し、1800世帯以上の夢の実現を支援。
発達障害のあるお子さんの教育費を考える際には学校にかかる費用だけでなく、療育費や勉強などを補うため塾・習いごとなどの費用も見込んでおく必要があります。
全て公立に通った場合約1,000万円、全て私立に通った場合は約2,600万円となり、どのような学校を選ぶかによって、教育費に大きな開きがあることが分かります。
以下、幼稚園から大学までを全て公立の学校に通った場合と全て私立に通った場合を比較したグラフです(高等学校など就学支援金や奨学金制度を利用しない場合)。
小・中・高校とそれ以降どんな進路の選択肢があるのか、それぞれどのくらい費用がかかってくるのかを知っておくと今後の進路を選ぶ際に判断しやすくなります。
就学前に利用できる療育にはどのようなタイプがあるのでしょうか?療育の選択肢とそれにかかる教育費の目安についてお伝えします。
児童発達支援とは、発達障害を含む身体・精神・知的障害のある子どもやその家族に対して行われる支援です。就学前の子どもが社会生活において必要な力を身につけられるよう、一人ひとりに合わせた個別支援計画が作成され、それに沿ったサポートが受けられます。
発達特性のある子どもが保育所や幼稚園などの集団生活に適応しやすいようにサポートが受けられます。
障害児指導経験のある児童指導員・保育士などが保育所や幼稚園を訪問し、特性のある子どもに対して集団生活に適応するための訓練をしたり、保育所・幼稚園のスタッフに対して支援の方法を指導してくれます。
支援を受ける場合には、まず各市区町村に障害児通所給付費などの支給申請を行いましょう。支給決定されると受給者証を取得することができ、国と自治体から利用料が給付されるため少ない自己負担でサービスが受けられます。
自己負担については、前年度の所得に応じて負担上限月額が設定されており、ひと月に利用したサービス量にかかわらず、それ以上の負担は生じません。
一般①、一般②の区分は世帯年収によって異なっています。
なお、受給者証がない場合でも民間の療育を受けられることがありますが、その分費用は割高となります。
小学校入学前に各市区町村が行う就学時健診が実施されます。この健診で気になる特性がみられれば就学前相談を利用してみましょう。その子の特性に合わせて、適切な学校を選べるように教育委員会による就学指導が行われる場合もあります。
小学校における選択肢を公立・私立に分けてご紹介します。
公立小学校においては以下の選択肢があります。
・通常学級
・通級指導教室
・特別支援学級
・特別支援学校
同じ学校内に通級指導教室・特別支援学級がある場合もあれば、在籍校以外の学校に支援を受けるときだけ通う場合もあります。
それぞれの選択肢については、下記の記事に詳しくあります。
小・中学校における進路・進学の選択肢「公立小学校の進路及び支援」
小・中・高校・大学まで内部進学できる学校もあれば、中学または高校までの学校もあります。各学校によって教育理念・教育方針などさまざまで、どのような配慮が受けられるかも学校によって異なります。
文部科学省の子どもの学習調査(平成30年度)によると、給食費や塾・習いごとなどの費用を含めた教育費は、6年間の総額で以下の通りです。
・公立小学校:約193万円
・私立小学校:約959万円
小学校の6年間でかかる学校関連の教育費は、公立と私立では約766万円もの違いがあります。
上記の教育費に含まれる学校外活動費の中では、公立・私立小学校ともに、学習塾・家庭教師や自宅学習補助教材費などの支出が最も多いことが分かっています。
こちらも公立・私立小学校で比較してみると以下の通りになります。
・公立小学校: 約49.2万円(6年間の総額)
・私立小学校: 約208.8万円(6年間の総額)
このように学習補助費用にかかるお金にも差が見られます。
また、上記はあくまでも一例です。ご家庭によって大きく変わる可能性があるため、確認しながら検討することが大切です。
児童福祉法に定められている発達障害の子が小学生以降に利用できる療育には、放課後等デイサービスがあります。
・放課後等デイサービスって?
放課後等デイサービスは、障害のある就学児童(小学生~高校生)が学校の授業終了後や長期休暇中に専門の事業所に通って受けられる療育です。生活の上で必要な知識・スキルを身につけたり、コミュニケーション力を養ったりするのが目的です。
・費用の負担は?
「児童発達支援」の場合と同様に受給者証を取得することによって自己負担額は少なくなります。ただ、受給者証を申請した際に審査が行われ、一人ひとり受けられる支援の量が決められるため、利用できる回数はみんな同じではありません。
幼児期からの就学準備
・保護者さま向け勉強会
・オンライン開催
・無料
中学校では「私立」という選択肢も増えてきます。子どもの特性を考えてどちらを選択したらよいかと悩む保護者の方もいらっしゃるでしょう。その場合に授業料などの教育費がいくらぐらいかかるのか気になるところです。
また、公立に進んだ場合も高校受験が控えているため塾代・家庭教師代などの費用は私立以上にかかってきます。中学生でかかる教育費の内訳などみてみましょう。
公立小学校の場合と同様に以下のような選択肢があります
・通常学級
・通級指導教室
・特別支援学級
・特別支援学校
中高一貫教育を行っている学校も多く、大学付属の場合には大学まで内部進学可能な学校もあります。
各選択肢の特色や中高一貫校については、下記の記事に詳しくあります。
小・中学校における進路・進学の選択肢「高校卒業まで通える中高一貫校」
前述と同様に文部科学省の子どもの学習調査(平成30年度)によると、給食費や塾・家庭教師などの費用を含めた教育費は3年間の総額で以下の通りです。
・公立中学校:約146万円
・私立中学校:約422万円
中学校の3年間でその差は約276万円と、約3倍となります。
フリースクールや特別なカリキュラムのある学校は、より高くなることがあります。
中学生になると塾・家庭教師などの学習補助費にかかる金額が私立中学より公立中学の方が多くなる逆転現象がみられます。高校受験を控えた公立中学の子どもが、塾・家庭教師など利用して学校外の学習に力を入れるからです。
・公立中学校: 約73.2万円(3年間の総額)
・私立中学校: 約66万円(3年間の総額)
上記はあくまでも一例です。ご家庭によって大きく変わる可能性があるため、確認しながら検討することが大切です。
小学生の場合と同様に、受給者証を取得して放課後等デイサービスを利用すると、かかる費用は抑えられます。
高校の学費は公立・私立の違いだけでなく、全日制・定時制・通信制などの学校種別によっても大きく異なります。また学校によっては、制服代・教材費や学外活動費(修学旅行や課外学習費)など別途必要になるため、進路選択の際に事前確認しておくことが欠かせません。
・全日制高校(公立/私立)
・定時制高校(公立/私立)
・通信制高校(公立/私立)
・サポート校(公立/私立)
・高等専門学校(公立/私立)
・高等専修学校
・特別支援学校高等部
・フリースクール
それぞれの特色については、下記の記事に詳しくあります。
中学卒業後(高校)における進路・進学の選択肢
それぞれの学校に進学することになった場合どのくらい費用がかかるのでしょうか?ここでは各学校の学費の目安をお伝えします。
・全日制高校:約84万円(公立)、 約216万円(私立)
※3年間の総額で授業料・入学金・教材費・通学費・修学旅行費用などを含みます。
・定時制高校(公立):約13万円(4年間の入学金と授業料のみ※神奈川県の場合)
・通信制高校(公立):約2.6万円(1単位350円× 1年で25単位取得×3年で計算※神奈川県の場合)
・高等専門学校(公立):約126万円(入学料+5年間の授業料)
・特別支援学校高等部:1万円以下
なお上記はあくまで一例です。私立高校・サポート校・高等専修学校やフリースクールなど学校によって必要な教育費が異なります。
2020年4月から「高等学校等就学支援金」の対象範囲が拡充され、多くの人がこの制度を利用できるようになりました。高校の学費を考える際は自分が行きたい学校の学費を調べたうえで、そこから在学中に支給される「高等学校等就学支援金」を引いた額を学費の目安と考えると良いでしょう。
ここでは高等学校等就学支援金についてとその受給資格・支給額を説明します。
高等学校などに子どもが通う場合、家庭の経済的負担を軽減し、授業料に充てるための就学支援金を国が支給する制度です。国立・公立・私立高等学校、特別支援学校(高等部)、高等専門学校(1~3年生)などが対象となります。
日本国内在住で以下の要件を満たす方が対象となります。(2020年7月以降)
・学校種別
高等学校(全日制、定時制、通信制)
特別支援学校高等部
高等専門学校
高等専修学校
ただし、在学期間が通算して36ヶ月をこえた場合は対象となりません。
・所得要件
年収約910万円未満の世帯(課税標準額(課税所得額) × 6% - 市町村民税の調整控除額で計算される算定基準額が30万4,200円未満の世帯)が対象となります。
なお上記は、両親と子ども二人の世帯で、親のどちらか一方が働いている場合の目安となります。家族の人数や年齢、働いている人の人数などで、実際に対象となる年収は変わりますのでご注意ください。
支給額は以下の通りです。
なお支給額や所得要件などについては、学校によって異なりますので、詳しく確認が必要です。
高校生になると公立・私立とも塾・家庭教師・通信教材費など学校の授業料の他に学校外での学習費用の支出が多くなります。
・公立高等学校(全日制) : 44.3万円
・私立高等学校(全日制) : 58.3万円
そのほか療育にかかる費用の目安については小学生の場合と同様です。
中学・高校の選択と今からできる準備
・保護者さま向け勉強会
・参加無料
・オンライン開催
国立・公立・私立とあり、広い知識と深い専門性を養うための学びの場です。入試改革により大学入試の方法も多様化し、多くの人が大学で学ぶようになってきました。令和元年現在国立大学86校、公立大学93校、私立大学607校が設置されています。入試の方法や受験科目などは各大学・学部によってさまざまです。
様々な分野の教育が行われていますが、特に幼稚園教諭や保育士、栄養士や介護福祉士など、地域の専門的職業の知識の習得や資格取得のための学習ができます。
特定の職種に特化した知識や技術などの専門教育を受けることができ、卒業後の就職に役立てられます。
(授業料だけでなく、入学金・通学費・教科書代・習いごとの費用などを含む)
・私立短大 約385万円(3年の場合約562万円)
・国公立大学 約492万円
・私立大学文系 約659万円
・私立大学理系 約821万円
障害年金は、病気やケガによって生活や仕事などが制限されるようになった場合に、現役世代の人も含めて受け取ることができる年金です。
ある一定の障害のある状態で、日本国内に住んでいる間に初診日がある人が対象となります(年金未加入者であっても20歳未満で障害を受け、その状態が続いている人も対象に含まれます)。
給付額は障害の等級に応じて異なります。精神障害と知的障害においての等級は「日常生活能力の程度」と「日常生活能力の判定」の評価の平均をもとに認定されます。なお、障害者手帳の障害認定基準とは異なるためご注意ください。
〈例〉
・1級:781,700円×1.25
・2級:781,700円
(※令和2年4月分から)
特別児童扶養手当は、精神または身体に障害がある児童のために豊かな生活をサポートしていく目的で支給される手当です。
20歳未満で精神又は身体に障害を有する児童が対象となり、その保護者や養育者に対して給付されます。
給付額は障害の等級に応じて異なります。
・1級:52,500円
・2級:34,970円
ただし、前年の所得が一定の額以上であるときは手当は支給されません。
保育所などに通っている、あるいは障害児通所支援を利用している就学前の児童が同一世帯に2人以上いる場合に、第二子以降の子どもにかかる利用負担を軽減する制度です。
対象となるのは市民税を課税されており、障害児通所支援を利用している世帯で、条件によって次のように異なります。
①同一世帯に就学前の障害児通所支援を利用する児童が複数いる場合、そのうちの第二子以降の子ども
②年収約360万円未満相当世帯(世帯における市町村民税所得割合計額が 77,101 円未満)の場合には、子どもの年齢に関係なく第二子以降の子ども。
以下は東京都中野区の一例です。地域により異なることがあるため、確認が必要です。
障害のある幼児児童生徒が特別支援学校や小・中学校の特別支援学級などで学ぶ場合に、保護者が負担する教育関係経費について、家庭の経済状況に応じ、国及び地方公共団体が補助する仕組みです。
特別支援学校や小・中学校の特別支援学級で学ぶ児童生徒あるいは通級指導教室を利用しながら通常学級で学ぶ児童生徒などが対象となります。
通学費、給食費、教科書費、学用品費、修学旅行費、寄宿舎日用品費、寝具費、寄宿舎からの帰省費などが対象となります。
どのような進路を選ぶかによって、かかる学費は大きく変わってきます。子どもにとってどのような進路が合っているのかを考えたうえで、その進路を歩んだ場合に必要となる教育費を計画的に準備しておくことが大切です。
発達障害のある子どもに対して「得意なことを伸ばしてあげたい」、「苦手なことは少しでもできるようにしてあげたい」と考えて習いごとを検討するご家庭もあります。また、進路についても「できるだけ本人に合った環境を見つけてあげたい」と思ってさまざまな選択肢を前に悩む方もいるかと思います。
そんなときに給付金がもらえる制度や公的支援機関を上手く活用することも一つの選択肢です。お金の心配がある場合は計画的に準備をしていくことで、安心した子育てにつながるかもしれません。
親なきあとのお金と自立
・保護者さま向け勉強会
・参加無料
・オンライン開催
参考
・子供の学習費調査(平成30年度)、平成30年度における幼稚園3歳から高等学校第3学年までの15年間の学習費総額 |文部科学省
・教育費負担の実態調査結果|日本政策金融公庫
・障害児の利用者負担|厚生労働省
・障害児及び障害児支援の現状|厚生労働省
・障害児通所給付費に係る通所給付決定事務等について|厚生労働省
・『入園・入学前までに気づいて支援する本』|宮尾益知(監修)
・「高等学校等就学支援金制度」|文部科学省
・都立高等学校、中等教育学校(後期課程)の授業料・入学料及び特別支援学校高等部の授業料について|東京都教育委員会
・県立高校の授業料・諸会費について|神奈川県公式ウェブサイト
・就学支援金制度概要リーフレット|文部科学省
・支給期間 ・ 支給限度額一覧|文部科学省
・大学・大学院、専門教育|文部科学省
・公立大学について|文部科学省
・障害基礎年金の受給要件・支給開始時期・計算方法|日本年金機構
・特別児童扶養手当について|厚生労働省
・特別児童扶養手当等の支給に関する法律施行令別表第3における障害の認定について|厚生労働省
・多子軽減制度の対象範囲の拡大について|中野区公式ホームページ
・障害者自立支援給付支払等システムについて|厚生労働省
・特別支援教育就学奨励費|文部科学省
・就学奨励事業のお知らせ|東京都教育委員会
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