2021.04.25
この記事では、発達障害のある人が一人暮らしをする際に困りがちなポイントを解説し、解消するためのヒントや工夫をお伝えします。
また、一人暮らしをする際に知っておきたい制度(障害年金・生活保護)や福祉サービス、困ったときに相談できる窓口も紹介します。
「自立に向けて一人暮らしがしたい」「でも、本当にできるのか不安」という人はぜひご覧ください。
監修
井上 雅彦
鳥取大学医学系研究科臨床心理学講座教授。応用行動分析学が専門。30年以上ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもや家族の相談、療育・家族支援プログラムの開発に携わる。
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個人差がありますが、成人期の発達障害の場合、以下のような特性があると言われています。
ASD(自閉スペクトラム症)の場合は、物事への強いこだわりや、興味のあることへの没頭しやすさ、対人関係への苦手さといった特性です。
ADHD(注意欠如多動症)の場合は、多動性は目立たなくなりますが、不注意・衝動性など、集中することが難しく気が散りやすい、忘れ物や失くしものが多い、じっとしていたり我慢したりすることが苦手であるといった特性があります。
これらは一つの例であり、特性は人によって異なります。個々人が自身の特性を知り、自分にあった対処や工夫をすることが大切です。
では、ASDやADHDの場合、一人暮らしをする際にどのような困りごとが生じるのでしょうか?
・一人暮らしにどの程度お金がかかるのか見通しが立てづらい
・生活費が足りなくなる
・衝動買い、無駄遣いをしてしまいがち
・訪問販売に断れないなどの消費に関するトラブル
・ゴミ出しの場所・タイミングや自転車をとめる位置などのルールを守るのが苦手
・大事な手続きを後回しにする、期日や時間を守るのが苦手
・モノをどこに置いたか忘れてしまうことがある、片づけが苦手
・生活音やマナーに関するご近所トラブル
・ゲームやSNSなどに熱中し、生活リズムが乱れることがある
・疲れがたまり、無理をしてしまいがち
・医療機関に抵抗があり、自分から行くことができない
・薬の服薬を適切に行うことが難しい
このような困りごとを解決する情報やアイデアをお伝えしていきます。
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まずは「一人暮らしにどの程度お金がかかるのか見通しが立てづらい」「生活費が足りなくなってしまう」という困りごとについて見ていきましょう。
そもそも一人暮らしには、どの程度費用がかかるのでしょうか。総務省統計局「家計調査(家計収支編)調査結果(2019年)」によれば、単身世帯(34歳未満)の一ヶ月の平均支出は住宅費、光熱費、食費、交通費などを全て含めて172,324円となっています。これは全国平均であり、都市部で暮らす場合は家賃や物価の高さをふまえて少し高めに見積もっておくと安心です。
上記の各項目の支出例などを参考に、自身の収入や「自分ならこの項目はこれくらいにおさえられる」など、整理してみましょう。
ここでは「障害年金」「生活保護」の2つの制度を紹介します。
実際に給付されるかどうかは個々の状態や自治体の基準によって異なるため、確認が必要です。
障害年金とは、病気やケガによって生活や仕事が制限される場合、障害の程度に応じて一定額を受け取れる年金です。「障害基礎年金」「障害厚生年金」の2つの種類があります。
・障害基礎年金
病気やケガで初めて医師の診療を受けたとき(初診日)に国民年金に加入しており、かつ法令によって定められた障害等級表(1・2級)の障害がある場合は、障害基礎年金を受け取ることができます。国民年金に加入していない20歳未満の期間に初診日がある場合でも、20歳以降もその状態が継続していれば給付を受けられます。
障害基礎年金を受けるためには、次の障害基礎年金の保険料納付要件のうちどちらかを満たしている必要があります。
①初診日(障害の原因となる病気やケガで初めて病院を受診した日)の月の前々月までの公的年金の加入期間の2/3以上の期間について、保険が納付または免除されていること②初診日において65歳未満であり、初診日のある月の前々月までの1年間に保険料の未納がないこと
受け取れる金額は、障害等級に応じて決められています。
【1級の場合】 781,700円×1.25
【2級の場合】 781,700円
※子どもがいない場合の金額となります。(2020年12月現在)
詳しくは日本年金機構のホームページ、または実際に問合せてみるのも一つです。
・日本年金機構
公式HPはこちら
・障害厚生年金
厚生年金に加入している期間に、障害基礎年金の1級または2級に該当する障害の状態になったとき、障害基礎年金に上乗せして支給される年金です。2級に該当しない軽い程度の障害のときは、3級の障害厚生年金が支給されます。
障害厚生年金を受けるためには、先ほど説明した障害基礎年金の保険料納付要件を満たしていることが必要です。
受け取れる金額は、障害基礎年金と同じく、障害等級に応じて決められています。
【1級の場合】(報酬比例の年金額) × 1.25
【2級の場合】(報酬比例の年金額)
【3級の場合】(報酬比例の年金額) 最低保障額 586,300円
※配偶者がいる場合は配偶者の加給年金額が加わる場合があります。(2020年12月現在)
詳しくは日本年金機構のホームページ、または実際に問合せてみるのも一つです。
・日本年金機構
公式HPはこちら
生活保護制度とは、資産や能力などすべてを活用してもなお生活に困窮する場合に、その困窮の程度に応じて必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障し自立を助長する制度です。
生活保護法は最後のセーフティーネットであり、ほかの制度で給付が受けられる場合は、他の制度が優先されます。障害年金と併用することもできますが、その場合は厚生労働者が定める「最低生活費」から障害年金額を引いた額のみが生活保護から扶助されます。
生活保護を受給しており、かつ精神保健福祉手帳を保持している場合は、生活保護費に「障害者加算」が加算されます。加算額は、居住地と障害の程度で決まります。
詳しくは下記ホームページ、またはお住まいの地域の福祉事務所で相談することができます。
・生活保護制度|厚生労働省
公式HPはこちら
・福祉事務所 一覧
公式HPはこちら
子どものうちから考える「障害年金」と就労の選択肢
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自立して一人暮らしをする際には、お金、生活、健康などを適切に管理していく必要があります。この章では発達障害のある人が一人暮らしをする際に困りがちなお金、生活、健康の困りごとと、できる工夫についてお伝えしていきます。
ADHDの特性がある場合、衝動買いや無駄遣いをしてしまいがちです。またASDの特性がある場合は、自分の好きなものやこだわりのあるものにお金を使いすぎてしまい、無駄遣いをしてしまうケースがあります。
・クレジットカードからデビットカードやプリペイドカードに切り替える
デビットカードとは、カードを利用するとその直後に銀行口座から引き落としがされるカードのことです。貯金の減り具合が分かりやすく、かつ銀行口座の残高以上にお金が使えないので安心です。また、1日に使用する金額の限度額も設定できるため、低めに設定しておけばより効果を発揮するでしょう。
プリペイドカードは、あらかじめカードに現金をチャージしておくと、その範囲内でクレジットカードと同様に利用できるカードです。チャージした分しか利用できないので、こちらも使いすぎの防止に有効です。一ヶ月の利用限度額を決めて入金するようにしましょう。クレジットカードのリボ払いや消費者金融の使い方にも注意が必要です。
・あらかじめ予算を組んでおく
使いすぎを防ぐためにはあらかじめ何にどのくらいお金を使ってよいのかという予算を組んでおくとよいでしょう。
ADHD傾向が強い場合は、費目が多くなると情報量や作業量が増えるため、面倒くさく感じてしまうことがあります。「食べる(食費)」「暮らす(水道光熱費、家賃、日用品など)」「浪費(習い事や趣味、交際費など)」といったざっくりとした3つの費目に分けて、どの費目にどの程度の予算があればいいのか考えてみましょう。
一方でASD傾向が強い場合は、費目に曖昧さがあるとやりづらさを感じる可能性があります。食費、外食費、水道光熱費、住居、日用品、通信費…などなるべく細かく費目をわけてそれぞれの予算上限を定めておきましょう。
例えば大学生から一人暮らしを始めた場合、レポートの提出期限が守れなかったり、必要な書類の提出が遅れたりしてしまう人もいるかもしれません。
ADHD傾向がある場合、ほかのことに注意が移ってしまうとやらなくてはいけないことを忘れてしまったり、ついつい後回しにしてしまいがちです。
・カウントダウンタイプのタスク管理アプリを使う
おすすめは「残り●日」と期日までの日数をカウントダウンしてくれるタイプのタスク管理アプリです。スマートフォンのトップ画面に期日までの残日数が表示されるようにしておけば、時間を意識しやすく後回しづらくなるでしょう。
また、重要な提出物の期日は一人で守ろうとせず、友人や家族などにも伝えておき、忘れていたら声をかけてもらうようにしましょう。
・使い終わる場所の近くにしまう場所をつくる
置き場所を決めておき、使い終わったら決めた場所にしまうというルールをつくりましょう。
このとき大切になってくるのが、置き場所の決め方です。置き場所が遠くにあると物を戻しに行くことが面倒くさくなってしまいがちです。するとルールが守りづらくなるため、「物を使い終わる場所の近く」にしまう場所をつくるようにしましょう。例えばソファーの近くで使う物であれば、ソファーの近くに置き場所をつくります。
・見えやすいかごや透明な袋に収納する、収納棚の扉をはずす
中が見えない箱ではなく、中身が見えるかごや透明な袋に収納すると、どこに何をしまったが分かりやすくなります。また物が見つからないということを防ぐために、収納棚の扉をはずし、いつでも中が見えるようにしておくのも一つの手です。
・失くしやすいものにスマートタグをつける
スマートタグをつけることで、スマートフォンと連動させることができます。例えば鍵や財布との距離が大きく離れたときにブザーを鳴らしたり、失くした際にGPS機能で位置情報を取得するなどです。鍵や財布といった貴重品につけるのも一つの工夫です。
ゲームは実家に置いておき、帰ったときだけやるといったルールを決めるとよいでしょう。また、機内モードにしてスマートフォンがインターネットにつながらないようにしておく、目覚ましをアプリではなく時計でかけるなど夜寝る前にスマートフォン触れる機会を極力減らす、ゲーム用と普段使い用の二台に分ける、長時間プレイしすぎないように人に手助けしてもらう、といった工夫も有用な手段です。
感覚過敏の症状がある場合は、強い光や大きい音、人混みなどの強い刺激が知らず知らずのうちに疲れにつながっている可能性があります。帰宅後に一日のスケジュールを確認し、上記のような環境に長時間いた場合は次の日にゆっくり休むといった対策をとることが効果的です。
また外に出るときはイヤーマフやノイズキャンセラーを使って大きな音を防いだり、サングラスやつばつきの防止をかぶるなどして強い光を避けるようにし、疲れがたまりづらい工夫をしましょう。
たとえば環境の変化があった場合、ストレスで睡眠不足になってしまう、などの症状が表れる場合もあります。いざという時のために、自分の障害について理解のあるかかりつけ医や主治医がいると安心です。
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一人暮らしをする際は、何か困ったことがあれば一人で抱え込まずに適切に他者を頼っていくことが大切です。相談できる人を一人ではなく複数つくる、相手が相談を受けられない状況のときは断りのサインを決めておくことで、人間関係のバランスがとりやすくなります。
相談できる公的機関もあります。
ここでは何か困ったことがあったときに相談ができる窓口や、発達障害の人が一人暮らしをする際に利用できる支援サービスを紹介します。
保健、医療、福祉、教育、労働などの関係機関と連携し、地域における総合的な支援ネットワークを構築しながら、発達障害のある大人や子どもへの支援を総合的に行う専門機関です。
発達障害がある本人またその家族、関係者が利用することができ、日常生活でのさまざまな相談(学校、職場で困っていること)などに応じています。また、福祉制度の案内や利用方法の説明に加え、保健、医療、福祉、教育、労働などの関係機関への紹介も行っています。
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就業及びそれに伴う日常生活上の支援を必要とする障害のある人に対し、相談支援や職場・家庭訪問などを実施する機関です。
生活習慣の形成、健康管理、金銭管理などの日常生活の自己管理に関するアドバイス、住居・年金・余暇活動など地域生活、 生活設計に関するアドバイス、関係機関との連絡調整などを行っています。
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※2020年時点
不登校・ひきこもりなどを含めた仕事に就いていない若者に就労支援をする機関です。15~49歳が対象です。
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「無料商品のはずが支払いを求められた」「ネットで購入したはずのものが届かない」など、買い物などに関するトラブルを感じた際の相談窓口です。
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職場のなかでの嫌がらせや、給与に関するトラブルなど、あれば相談することができます。
お住まいの地域の障害福祉課などに設置されていることがあります。
警察だけでは対応できないなど、内容に応じて専門機関の紹介を受けることもあります。どこに相談すればいいかわからず困った場合に活用することもできます。
公式HPはこちら
日常生活自立支援事業とは、「福祉サービスを利用したいけれど手続きの方法が分からない」「計画的にお金を使うのが難しいので誰かに相談したい」「預金通帳などを失くすのが怖いので預かってほしい」といった毎日の暮らしに関する不安を解消し、自立した生活を送るための支援を行う事業です。情報の入手、理解、判断、意思表示を適切に行うことが困難な人を対象としており、障害者手帳を持っていなくても利用ができます。
訪問1回あたりおよそ1,200円の料金が生じます。利用を希望する場合は、お住まいの市町村の社会福祉協議会に相談しましょう。
ホームヘルパーが家庭を訪問し、掃除や洗濯、調理など家事を援助する福祉サービスです。障害者手帳がなくても利用できますが、障害者総合支援法における障害支援区分が区分1以上であることが必要です。利用を希望する場合は、市区町村の障害福祉担当窓口に相談しましょう。
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発達障害の人が一人暮らしをする際のよくある困りごとや解決のための工夫を知っておくことで、「本当に一人暮らしができるのだろうか…」という不安は和らぐのではないでしょうか。
一人暮らしをする際に大切なのは自分だけで抱え込まないことです。困ったことがあれば、家族や友人、支援機関などを頼り、サポートを受けるようにしましょう。
参考
・『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』|日本精神神経学会(監修)
・家計調査(家計収支編)調査結果(2019年)|総務省統計局
・障害基礎年金の受給要件・支給開始時期・計算方法|日本年金機構
・2020(令和2年)年4月1日施行 生活保護実施要領等|厚生労働省
・障害年金|日本年金機構
・生活保護制度|厚生労働省
・『世界一やさしい障害年金の本』|相川 裕里子(著)
・『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に暮らすための本』|村上由美(著)
・『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に働くための本』|村上由美(著)
・『14歳からの発達障害サバイバルブック: 発達障害者&支援者として伝えたいこと』|難波寿和(著)
・発達障害支援センターとは|国立障害者リハビリテーションセンター
・障害者就業・生活支援センターについて|厚生労働省
・日常生活自立支援事業|厚生労働省
・ここが知りたい 日常生活自立支援事業 なるほど質問箱|社会福祉法人 全国社会福祉協議会
・「障害福祉サービスについて・居宅介護|厚生労働省
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