2022.09.16
4歳頃になると身体的な成長も著しく、自分でできることも増えていきます。
保育園や幼稚園などの集団生活の中でも、よりお兄さん・お姉さんになって、求められることも増えるのではないでしょうか。
そんな中、喋らない・周囲とコミュニケーションを取ろうとしない・激しい癇癪を起こして手をつけられないなどの行動が見られると、保護者としても心配になり「発達障害なのでは?」と考えてしまうこともあります。
この記事では、4歳児の発達の目安と、4歳頃に見られることが多い発達障害の特徴について、チェックリストと共に紹介します。
監修
井上 雅彦
鳥取大学医学系研究科臨床心理学講座教授。応用行動分析学が専門。30年以上ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもや家族の相談、療育・家族支援プログラムの開発に携わる。
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発達障害とは、生まれつき脳機能の発達の凸凹(でこぼこ)が激しく、周囲の環境や人間関係とのミスマッチから社会生活上の支障が生じる障害のことです。
発達障害にはいくつかの種類がありますが、先天的に脳の働きに違いがあるという点が共通して見られます。遺伝的要因以外にも「環境要因」と呼ばれる、その人が置かれている環境や摂取する栄養や薬物、生活習慣なども関連しているのではないかと言われています。
しかし、はっきりとした原因やメカニズムはまだ分かっていません。
同じ診断名であっても人によって症状の個人差が大きく、また同じ人でも年齢や環境によって症状の表れ方は変化します。
加えて複数の発達障害の特性が組み合わさって見られることもあります。
3歳児健診で「発達に関して気になる点がある」と言われることもありますが、専門の医療機関で相談したとしても、4歳の段階で発達障害と断定することは難しいことが多くあります。
あまり早期の段階から「発達障害かも」と不安になる必要はありません。
しかし、子どもの特性に早くから気づき、特性に合わせた関わり方をすることで、症状の改善が見られたり、子ども自身が生きやすくなったりすることが期待できます。
周囲とのコミュニケーションで困りごとを感じたり、周りの友だちよりできない・保護者や先生に怒られてばかりという経験を積んだりすることで、子どもの自信や自己肯定感が下がり、結果的に二次障害の発症につながる可能性もあります。
大切なのはその子の特性を受け止め、周囲の環境や困りごとに合わせて適切な支援を行なっていくことです。
発達障害はその特性や表れる困りごとによって、大きく3つのタイプに分けられています。
ASD(自閉スペクトラム症)は、自閉症やアスペルガー症候群、広汎性発達障害などが統合されてできた診断名です。
・主な特徴
①社会的コミュニケーションや対人関係の困難さ(=コミュニケーションがうまく取れないなど)
②限定された行動、興味、反復行動(=強いこだわりが見られるなど)
他にも手先が不器用、感覚刺激に過敏・鈍いなどの特性が見られることもあります。
ADHDには「不注意」「多動性」「衝動性」の3つの特徴が主に見られますが、要素の表れ方の傾向は「不注意優勢に存在」「多動・衝動優位に存在」「混合して存在」というように人によって異なります。
・主な特徴
①不注意(=集中力がなく飽きっぽい、忘れ物・失くし物が多いなど)
②多動性(=手足をいじっていつも落ち着きがないなど)
③衝動性(=順番が待てない、会話の流れや雰囲気を気にせず発言するなど)
学習障害は限局性学習症とも呼ばれ、知的発達の遅れがないものの、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算・推論する」能力のうち1つ以上の取得・活用に困難を示す発達障害です。
・主な特徴
①字を読むことに困難がある:ディスクレシア(読字障害)
②字を書くことに困難がある:ディスグラフィア(書字表出障害)
③算数・計算、その場にないものを推論することに困難がある:ディスカリキュア(算数障害)
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子どもの発達には個人差が見られるものの、4歳児は言語や身辺自立、社会性、学習などの面で、下記のような様子が目安となります。
・2つの連続した指示に対応できる
・名前、年齢など自分に関わることを聞かれて答えることができる
・日常の挨拶をする
・物を触った時の感覚を言葉で表現する(フカフカ、ザラザラなど)
・相手の目を見て話す、聞くなどができる
・衣服の着脱を自分でしようとしはじめる
・排泄のタイミングが分かる
・「鼻水が出ている」「髪が乱れている」などに気づき、清潔に保とうとする
・箸を使って自分で食べたり、食器に手を添えようとしたりする
・決められた時間内は席を立たずに食事ができる(30分程度)
・自分の感情を簡単な言葉で表現しようとする
・状況によっては、決められたルールや役割の中で遊ぶようになる
・自他の区別がはっきりしていく
・友だちと協力しはじめる
・友だちの考えが自分と違うことが理解できるようになる
・思い通りにならない葛藤を経て、友だちの気持ちに気づくことができるようになる
・1〜10までの数字が分かる
・物の増減、「増えた」「減った」を理解する
・上下、左右、前後などの位置関係を理解する
・ハサミ、糊、セロハンテープ、絵の具、クレヨンなどを使うことができる
・塗り絵やお絵描きをする
・人間の全体像をイメージし、顔や身体、手足がある絵が描ける
目安にはなってくるものの、発達の度合いは子どもによって異なるため、できないことがあっても心配しすぎることはありません。
また、場所や相手が変わったり、体調が悪かったり、気持ちが乗らないなどさまざまな要因が関係することで、いつでもどこでもできるというわけでもありません。
一言で「発達障害」といってもさまざまな種類が存在しています。
個人差や年齢差もありますが、一部共通して見られる「困りごと」があるため、チェックリストとして紹介します。
「発達障害であるかどうか」の診断は、専門の医療機関での相談が必要になるため、チェックリストはあくまでも普段の様子を観察し、気になる傾向が見られるかどうかを確認することを目的にご使用ください。
当てはまる項目が多いからといって、発達障害であることを断定するものではありません。
・一人遊びや独り言が目立つ
・行事参加が難しい
・気に入ったセリフやフレーズを繰り返す
・自分の興味関心のあることを中心とした一方的な会話
・言葉の遅れが見られる、周囲とのコミュニケーションが難しい
・特定の音やにおいなどの感覚的な刺激に対して、強い拒否やこだわりをしめす
・おもちゃや特定の物の操作で同じことを繰り返す
・勝ち負けや順位・独自のルールへのこだわりが強い
・変化が苦手で、いつものやり方や手順が崩れることを嫌ったり、初めての物や場所を極端に怖がる
・夜中に起きることが多い、寝つきが極端に悪い
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・園生活など集団行動が必要な場所で、座って食事をしたり話を聞いたりする時にすぐ席を離れてしまう
・座っていても身体の向きを変えるなど、常に動いている
・物をなくしたと言って探し回ることが多い
・騒ぐ、叫ぶなどの行動が他の子どもと比較して明らかに多い
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・4歳頃はまだ学習障害(LD)の特徴は見られにくい
学習障害(LD)は「読む」「書く」「計算する・推論する」能力に関係する特性のため、就学した後に表出することが多い発達障害です。
4歳の時点では、まだ学習障害(LD)と分からないことが多くあります。
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チェックリストに当てはまる項目が多かったからといって、発達障害であると断定することはできません。
発達障害の診断を行えるのは医療機関のみのため、大学病院や総合病院、小児科・児童精神科・小児神経科や発達外来への相談が必要となります。
また、最初から医療機関に受診するのではなく、地域の発達相談の窓口に相談し発達検査や発達相談を受けた後に、受診してもよいでしょう。
発達障害の特性が見られるものの診断の基準には満たない「グレーゾーン」の場合もあります。「グレーゾーン」の場合、見られる特性の程度によって療育施設に通う場合や、しばらく経過観察を行う場合などがあります。
アメリカ精神医学会の診断基準である「DSM-5」(「精神疾患の診断・統計マニュアル」第5版)を用いて診断を行います。
表れる症状について医師が問診や行動観察を行い、必要に応じて心理検査や発達検査などを行います。それらの結果が「DSM-5」の診断基準を満たすかどうか、日常生活・社会生活に著しい不適応を起こしているかどうかなどを総合的にみて、発達障害かどうかを診断します。
特定の症状が6ヶ月以上継続して認められるか、少なくとも2つ以上の状況(例:家庭と園)で見られるかなどが診断基準となっている場合もあるため、一度の受診だけではなく継続的な検査・経過観察が必要なケースもあります。
診断の際には、現段階で見られる子どもの特性や困りごと、生育歴や各健診の様子などが聞かれるため、普段の様子をメモしたものや母子手帳などを準備しておくとよいでしょう。
チェックリストの内容が役に立つ場合もあるかと思うので、ぜひ参考にしてみてください。
発達障害かもと思ったら、まずは専門の相談機関で相談してみましょう。
その後、医療機関で発達障害であると診断された、もしくは診断にはいたらないものの、発達に気になる点があると認められた場合、障害児通所支援を利用して支援をスタートさせることができます。そのためにはまず「通所受給者証」(通称:受給者証)の取得が必要です。
受給者証の取得にあたって、発達に支援が必要である証明として、①〜③のいずれかが必要です。
①医師意見書(確定診断がなくても、意見書があれば受給者証の取得が可能)
②医師による発達障害に関する診断書
③療育手帳
住んでいる自治体の福祉窓口で相談をすれば、地元で受診できるクリニックを紹介してもらえる場合もあります。
自治体の窓口で必要書類を揃えて受給者証の申請を行い、自治体職員による聞き取りを受けた後、受給者証が支給されます。
申請から支給決定までの期間は自治体によってさまざまです。約2週間の場合もあれば、1〜2か月かかる場合もあります。
受給者証と、受給者証の支給量(障害児通所支援を利用できる1ヶ月あたりの日数)などを踏まえて作成した「障害児支援利用計画」が揃うと、実際に施設と契約することができます。
申請前〜支給決定までの期間に、各施設に問い合わせたり見学を行なったりしておくと手続きや契約がスムーズになるかもしれません。
障害児通所支援の福祉サービスは目的や対象によってさまざまです。
4歳の場合、「児童発達支援」で行う日常生活の自立のための療育や学習支援、運動プログラムなどが主になります。公費の施設もあれば私費のサービスもあり、利用料は異なります。
子どものニーズに合った支援が受けられるか、通いやすい場所・時間で利用できるか、定員に空きがあるかなど、さまざまなポイントを施設側と相談・見学しながら、利用する施設を決定しましょう。
発達に対してはさまざまな支援が行われます。ここでは具体例として一部をご紹介します。
療育とは、個々の発達の状態や障害特性に応じて、今の困りごとの解決と将来の自立と社会参加を目指して行います。発達支援と呼ぶこともあります。
療育の中でも、特に対人関係や集団生活を送りやすくするための技術(スキル)を習得するための訓練のことを「ソーシャルスキルトレーニング(SST)」と呼びます。
たとえば、3歳〜6歳頃は遊びの中で集団生活のルール・スキルを学べるよう、個別や集団で療育を行います。TPOに合わせた挨拶や会話ができるように指導員と練習をしたり、暴れる・泣くなど以外の手段を使って自分の感情を適切に表現する方法を学んだりします。
一度の授業で身につくものではないため、中長期的に教室に通う中で失敗したり、できるようになったことが時間が経つとできなくなったりということがあります。
しかし何度も同じようなシチュエーションを繰り返すことで、段々とスキルが身につき、教室以外の社会生活の場でも同じように行動できるようになります。
療育を担っている機関としては、児童福祉法に基づく児童発達支援センターや児童発達支援事業所があり、0〜6歳の幼児が対象になっています。
小学生以上の場合、放課後等デイサービスの対象となります。
自治体や運営している機関により、集団や個別などの支援形態、どのような支援が受けられるのかが異なるため、通所を決める前には問い合わせや見学を行うことをおすすめします。
療育が子どもが対象である一方、ペアレント・トレーニングは保護者を対象として講義やワークが行われます。
ペアレント・トレーニングでは講義による知識の獲得だけではなく、ロールプレイや演習を行うことにより、保護者側が子どもと関わる時のスキルを獲得していきます。実際の家庭でもホームワークに取り組むことで、教室の中だけでなく日常生活の中でも子どもの行動が変わっていくことを促します。
個別ではなくグループで行うことにより、同じ悩みを持つ他の保護者との出会いや共感、他で実践している工夫が参考になるなどのメリットがあります。
あくまでも一例ですが、それぞれのケースに合わせて支援が行われます。
こちらでは、知的障害とASD(自閉スペクトラム症)のあるお子さんの支援実例を紹介します。
療育施設で指導員が言った音を真似する「音声模倣」の指導を行います。
授業を通じて、発声や発語、お話を楽しいことだと感じられるようにサポートします。
家庭でも子どもが好きなものを使いながら、保護者が指導員と同じように声かけを行う反復練習を行うことで、より定着が早まり自発的なコミュニケーションを促します。
療育施設では着替える練習ばかりではなく、まず身体を大きく動かす遊びをたくさん行います。
身体を大きく動かすことに慣れてきたら、人形の着せ替え遊びを通して手先の細かい動きを練習します。
時には指導員が園を定期訪問し、子どもが着替えやすい環境についての情報を伝え、園の先生と協働しながらできる範囲での環境設定を整える場合もあります。
ソーシャルスキルトレーニングで、友だちとのコミュニケーション方法を学びます。
たとえば好きな物を使った「貸し借り」の練習や、癇癪を起こさないで他の行動や言葉で自分の気持ちを伝える練習をします。
「貸してもおもちゃは戻ってきてまた遊べる」「『やりたい』と言葉で伝える方が自分の要求が相手に伝わりやすい」といった経験を重ねることで、周囲とコミュニケーションを取るメリットを感じることができます。
ペアレント・トレーニングを通して保護者も子どもの特性を知り、癇癪を起こす理由や適切な声かけの方法を学びます。
グレーゾーン・発達障害のある子の小学校入学
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4歳になると身体も大きく成長し、癇癪を起こした時に保護者が止められないという悩みも生まれてくるため、早めに子どもの特性や困りごとに気づき、適切な支援を行うことが必要になります。
チェックリストに基づき、特性で気になる点があったとしても、子どもの成長は個人差が大きいため、すぐに「発達障害である」と判断することはできません。
発達障害かも…と一人で悩まずに、発達相談機関などで相談することが大切です。早めに子どもの困りごとに気づき、適切な支援を行うことで、今後の可能性の幅は広がっていくといえるでしょう。
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