2022.03.18
発達障害の有無にかかわらず、ゲームに夢中になる子どもはたくさんいます。
子どもがゲームばかりして勉強しない、夜遅くまでゲームをやめられないため朝起きられない、といった悩みをお持ちのご家庭もあるのではないでしょうか?
ゲームには子どもだけでなく、大人まではまってしまう魅力があります。しかし、ゲームばかりしていると日常生活に問題が生じるケースもあるようです。
発達障害のある子どもが上手にゲームと付き合っていくにはどうしたら良いのでしょうか?
ここでは発達障害の特性とゲームとの関係やゲームとの付き合い方、子どものゲームに対する親の関わり方についてご紹介します。
監修
井上 雅彦
鳥取大学医学系研究科臨床心理学講座教授。応用行動分析学が専門。30年以上ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもや家族の相談、療育・家族支援プログラムの開発に携わる。
ゲームを始めるとなかなかやめられないというケースも多いといいます。しかし中には、発達障害の特性が影響する場合もあるかもしれません。
発達障害の特性とゲームとの関係性、また環境面についてもそれぞれまとめてみました。
ASDは一例として、以下のような特性があります。
・対人関係やコミュニケーションが苦手
・興味があることには没頭しやすい
・行動を切り替えるのが苦手
など
こうした特性から、難しいコミュニケーションをあまり必要とせず、きちんとしたルールに則ったゲームに夢中になり、やめられなくなる傾向があるようです。
ADHDは一例として、以下のような特性があります。
・好きなこと・関心があることに対して過集中となる
・多動性・衝動性があり、さまざまな情報や変化に富んだ刺激を好む
など
こうした特性から、ゲーム機が目に入ってしまうと、つい衝動的に手に取ってしまう、またゲームを始めると人が話しかけても気づかないくらい集中してしまうこともあるようです。
一方、発達障害の特性にかかわらず、子どもが普段置かれている環境によってゲームに依存しやすくなる場合もあるようです。
例えば、以下のような環境が挙げられます。
・学校でのいじめなどにより、自分の居場所がない
・学習面などで苦手なことがあり、褒められる機会が少ない
・対人関係などのストレスを抱えても誰にも相談できない
など
まずは子どもの特性や、周囲の環境も含めてゲームに夢中になってしまう背景をあらためて見直してみることが大切です。
発達障害のある子どもにとってゲームはとても魅力的な物である反面、ストレスの多い学校などからの逃避先としてゲームが選ばれた結果、依存しやすくなる傾向もみられます。
また、もともと感情のコントロールが苦手なためプレイ中に癇癪を起こしてしまうこともあります。
例えばゲームがうまくいかない場合、できるまで何度もやろうとしてますますうまくいかず、ゲーム機器を投げるなど物にあたったり、周囲の親やきょうだいに八つ当たりすることもあります。
また、なかなかやめられないからと親がゲームを取り上げたりすると、子どもは癇癪を起こしてしまい、かえって逆効果になることもあります。
2019年、世界保健機構(WHO)によって「ゲーム症/ゲーム障害※ (Gaming disorder)」が認定され、日本国内の病院でもゲーム依存に関する相談ができるようになってきました。
またDSM-5(精神障害の診断・統計マニュアル第5版)では、対象をオンラインゲームに規定し、今後研究が必要な疾患の一つとして「インターネットゲーム障害」について言及しています。
※正式な翻訳は未定となります
評価のポイントとして以下のような内容が挙げられます。
・ゲームをの頻度・時間を自分でコントロールすることができない
・日常生活でやらなくてはいけないことよりもゲームを優先してしまう
・家庭や学校生活において悪影響が出てきているにもかかわらず、ゲームをやめられなかったり、さらにのめり込んでしまっている
・家族などに対してゲームをした時間についての嘘をついてしまう
・ゲームに依存することで、交友関係など人間関係が崩れてしまった
・上記の状態が12ヶ月以上続いている
など
また、長時間ゲームをしているからといってゲーム症/ゲーム障害であると自己判断せず、その場合は医療機関へ相談しましょう。
病院では、問診や血液検査など本人の健康状態を調べる検査などが行われます。
主な治療としては、一例として以下が挙げられます。
・カウンセリング(対話により依存を自覚)
・モニタリング(行動記録により、依存度合いを確認)
・認知行動療法(行動パターンの見直し)
依存の程度や問題だと感じる部分は子どもの年齢や人によっても異なるため、治療内容や通院の頻度は人それぞれです。専門機関に行くことを本人が拒否する場合は、まずは保護者が相談に行くと良いでしょう。
なお、治療についても、本人だけでなく家族や周囲の人なども関わりながら行われていく場合もあります。
子どもがゲームをする際に、どのようにルールを決めたら良いのでしょうか?またそのためには、どのような情報収集が必要なのでしょうか?
ここではルールをつくる前に必要な対応や、ルールづくりについてご紹介します。
最初に、子どもがなぜゲームにのめり込んでいるのかの背景要因を考えてみることが大事です。
例えば、学校でのストレスが影響している場合もあるでしょう。そのため背景要因を正しく把握し、改善していくことが最初のステップとなります。
最近では小学生以下の子どもも含め、インターネットゲームが盛んに行われています。しかしゲームをやめるためのルールは、親が一方的につくらないことが重要です。
また親がゲームをやったことがない際、子どもにとってどれだけ面白いのか、なぜ止められないのかなどが分からない場合もあります。
まずは親がゲームについて知り、学ぶことが大切です。そのうえでルールづくりをしていくと良いでしょう。
子どもがどのゲームをやっているのかを知ることが必要です。ゲームの種類によって、止めるタイミングや声掛けのタイミングなども変わってきます。
例えば、
・戦闘系のゲームなのか、パズルゲームなのか等のゲームの種類
・プレイ時間における制限の有無
・個人プレイ型なのか、集団プレイ型なのか
・ゲームの中で他者とコミュニケーションが取れるものなのか
などが挙げられます。
この特徴や種類を把握することによって、何が止めづらい要因なのかを知る手立てになります。またゲームの中で他者とコミュニケーションが取れる場合、そのコミュニケーション自体が子どもにとっては安らぎや憩いの場合もあります。
最近のゲームの特徴や種類を把握するためにも、子どもと一緒にゲームをプレイすることも一つでしょう。
子どもがプレイしているゲームが、どんな課金の仕組みをしているかを知ることも重要です。
ゲームの中には、無料でプレイできるものも多くあります。一方でキャラクターを強くするためは有料アイテムが必要だったり、いろんな特典を得るために課金を求められることがほとんどでしょう。課金をしない場合は、長時間プレイをすることによって、アイテムや特典を得る仕組みもあります。
また、親のクレジットカード登録がされ、使える設定になっている場合もあります。トラブルにつながることもあるので、クレジットカードは登録をしない、暗証番号を教えない、機器の中に記録させないなどの対応をしていきましょう。
現在、ゲーム機の多くにペアレンタルコントロールという機能がついています。ペアレンタルコントロールとは、ゲーム時間を自動的に設定された時間で制限したり、ゲーム機器を使用した際のアクセス先の追跡ができたりする機能のことです。
ゲーム機ごとに機能内容は異なるため、その機器のサービスサイトで確認してみましょう。
そのうえで、ペアレンタルコントロール機能を上手く活用していくことが必要です。
ゲームを始めた後にルールを決めるよりも、ゲームを始める前にルールを決めるのがタイミングとしては望ましいと言われています。
発達障害の特性がある場合、切り替えが苦手だったり、臨機応変な対応が難しいことがあります。こうした特性を踏まえてルールを考えることが大切です。
例えば、
・親子でルールをつくり、スモールステップで進める
・ペアレンタルコントロール機能を活用し、時間制限をかける
・ペナルティをつくる場合は親の都合などで変えず、一貫性を持つ
などが挙げられます。
その中でも「ゲームの終わり時間を守る」ということは子どもにとってはかなり難しいことの一つです。
ゲームを親が声掛けをして終わらせる方法もありますが、ゲーム機器にペアレンタルコントロール機能があれば、設定しておくことをオススメします。
時間が来れば自動的に終了となるため、「惜しかったね。終わってしまって残念だったね」など、子どもに共感しながら声をかけることもできます。
またルールを決める際には子どもと一緒につくり、意見を聞くなど子どもが守れるようなルールを考えると良いでしょう。
例えば、宿題を早く終わらせたり、お手伝いをしてくれたりしたらゲームをする時間を少し延長してあげるのも良いでしょう。できなくて罰を与えるよりも、うまくいった成功体験を積み重ねる方が有効です。
例えばペットを飼って子どもに世話を任せたり、カラオケで大きな声を出したり、非日常感を感じられ、ゲーム感覚でできるような刺激的なスポーツ(サーフィンやスケートボードなど)でストレスを発散できるようにするなど、ゲーム以外の体験をする機会を設けることも効果があります。
またゲームに関連する別のことに興味を持ってもらうのも一つです。例えばイラストや漫画を描く、コスプレをする、YouTubeに投稿する、マインクラフトをやってみるなどの事例もあります。そうすることでゲーム以外の時間が増えていき、かつ合わせて発展的なスキルを学べる機会にもなります。
子どものゲームに関しても、趣味に関しても親が先回りして良し悪しを判断して制限をかけるのではなく、子どもが良いと思うものを認めてあげることが大切なのかもしれません。
ゲームとうまくつきあうことで発達障害のある子どもにとって利点となることもあります。
ゲームを通して、発達障害のある子どもの世界が広がったというケースもあります。
例えば、
・ゲームの世界を通して異年齢の人やさまざまな国の人と出会い、コミュニケーションの幅が広がった
・ゲームアプリの開発を目指し専門的な知識(数学)を学んだり、チャットでのコミュニケーションを楽しむために英語を学ぶようになった
・戦略的な考え方ができるようになった
など
ゲームに限らず、発達障害のある子どもは自分の興味のあることに対しては積極的に取り組む傾向があるため、本人が好きなことをやってみるのも大切です。
そのほか、部活動の一つとしてゲームをスポーツ競技として捉えた「eスポーツ」を取り入れている学校などもあります。
発達障害のある子どものための学習ツールや療育のゲームなども開発されています。
・ADHDの人たちを対象とした不注意の症状などを改善するデジタルゲームアプリ
・ディスレクシアなど読むことに困難を抱える子どもたちを対象にした学習ツール
など
あくまで一例ですが、子どもたちにとって、楽しく取り組めるということが大きなポイントです。
ゲーム好きを活かして就職するケースもあります。例えば、発売前の段階でゲームのバグ(不具合)を発見するなど、発達障害のあるゲーム好きな人たちが大活躍している職場もあります。
なお特例子会社とは、障害のある人の雇用の促進・安定のために設立された会社のことです。障害に配慮した勤務時間や職場環境の整備もされており、安心して長く働けるようにサポートも行われています。
このようにゲームを上手く活用することで、発達障害のある子どもの可能性を広げたり、学習に役立つケースがあります。
子どもがゲームをなかなかやめられない理由の一つとして、発達障害の特性がその背景要因として考えられるかもしれません。また、学校での適応状態などについても注意を向けることが必要です。
ゲームをやめさせようと強引に取り上げるのではなく、なぜそのゲームに熱中してしまうのか、その背景を考えて子どもの周りの環境や背景・気持ちなどを理解することが大切です。
まずは、親子で一緒にゲームの問題点やルールについて考えてみたり、あるいはゲーム以外に夢中になれることを見つけてみるのも良いでしょう。
ゲームと上手く付き合うことで日常生活のルールを守ることを学んだり、活用によっては子どもの可能性を広げるきっかけになるかもしれません。
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