2022.07.07
満3歳〜満4歳になる前の子どもを対象に行われる「3歳児健診」。
出生後から定期的に行われる健康診査ですが、調べてみると「3歳児検診で初めて『発達の遅れがある』と言われた」という体験談がちらほら。
これから3歳児健診を予定していて、普段の子どもの様子を見て発達に気になりどころがある方は特に、3歳児健診で何を検査するのか、どんな様子であれば「発達に遅れがある」と言われるのかが気になるのではないでしょうか。
ここでは3歳児健診の目的や検査内容、加えて「発達に遅れがある」と言われたときの対応についてご紹介します。
監修
井上 雅彦
鳥取大学医学系研究科臨床心理学講座教授。応用行動分析学が専門。30年以上ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもや家族の相談、療育・家族支援プログラムの開発に携わる。
3歳児健診とは、満3歳から満4歳になる前の子どもを対象として、各自治体が実施する健康診断のことを指します。
3歳児健診は、母子保健法に基づき実施される「乳幼児健康診査(1歳6か月健診・3歳児健診)」の一環です。
各自治体によって実施時期や内容にばらつきはありますが、乳幼児健康診査には下記のような種類があります。
3歳児健診は、小学校に入学する前の最後の乳幼児健康診査に位置付けられており、下記のような目的で実施されます。
・子どもの身体的な発育状況の確認
・子どもの心理的な発育状況の確認
・疾病の早期発見
・保護者に対する育児に関する指導
・家庭との関わりの場を形成
個人差はあるものの、3歳の子どもは自分で話したり、日常生活でも自分でできることが増えたりするタイミングです。
そのため、3歳児健診は子どもの障害や疾病を早期に発見し、進行を未然に防止したり、適切な治療を開始したりすることが目的とされています。
一方で、就学時健康診断は、学校に通うにあたって子どもが心身ともに健康かどうかを調べ、学校生活や日常生活の中で支援が必要な場合の早期発見を目的としています。
3歳児健診の対象は、基本的に満3歳〜満4歳になる前の子どもですが、自治体によって細かい部分が異なります。
例えば、東京・関西の自治体でも下記のように差があります。
・東京都世田谷区:3歳になった月の月末
・東京都練馬区:3歳1ヶ月頃
・東京都足立区:3歳前日から4歳前々日
・大阪府大阪市:満3歳を超え満4歳に達しない幼児
・大阪府高槻市:3歳7ヶ月〜3歳10ヶ月
・兵庫県西宮市:3歳5ヶ月〜4歳を迎える誕生日月中
健診時期が3歳5ヶ月〜4歳未満のケースもあれば、健診を受ける日程が3歳1ヶ月になる月に指定されているケースもあるので、詳しくは自治体のホームページをご参照ください。
発達障害とは、生まれつき脳機能の発達の凸凹(でこぼこ)が激しく、本人の周囲の環境や人間関係とのミスマッチから、社会生活上の支障が生じる障害のことを指します。
3歳は身体と心が大きく成長する大切な時期であるため、このタイミングに子どもの成長をチェックする総合的な健診を行います。
3歳児健診について調べていると、「健診」の字を使うケースと、「検診」の字を使うケースがあります。
本記事内では上記の考えに基づき、「健診」の字を使用します。
3歳児健診では医師による診察や問診、保護者への聞き取りを通して、運動発達状況や精神発達状況の確認を行います。
言葉やコミュニケーションだけでなく、指先の器用さなども発達障害の傾向を見極めるポイントになることがあります。
自治体によって検査内容に違いがあるので、詳細は自治体から届く3歳児健診の案内をご参照ください。
身長・体重・胸囲・頭囲を測定し、身長と体重から肥満度を算出します。これらの数値を成長曲線と比較して、発育状況に問題がないか確認します。
家庭で簡単な視力検査を行い、目に関するアンケートを記入して当日提出します。
事前に視力検査ができなかったときや0.5以上の視力が確認できなかったとき、もしくはアンケートで「目に関して不安がある」と回答したときに、健診会場で二次検査が実施されます。
事前に絵シートを用いた「ささやき声検査」を家庭で実施し、耳に関するアンケートを記入して当日提出します。
健診当日に二次検査を実施する場合もありますが、基本的には持参したアンケートとささやき声検査の結果を見て、後日精密検査が必要か判断します。
歯並びや噛み合わせなどに問題がないか、虫歯がないかなど、口の中の健康状態を確認します。
事前に家庭で採尿し、当日提出します。
子どもの遊んでいる様子などを保健師等が観察します。
医師が診察を行い、健康状態に問題がないか確認します。
また、保健師が子どもに対して問診を行い、運動機能や認知機能、言葉の発達についても確認をします。
保護者に対して、前回の1歳半健診以降に変化が見られたか、子どもの普段の様子で気になるところはないかなどの質問があります。
3歳児検診では、以下のような点をチェックして、心身の発達に問題がないかを確認します。これらのチェックポイントの項目には発達障害に関わる内容も含まれています。※自治体により検査内容は異なります。
・手と足を交互に振って歩くことができる
・何秒間か片足立ちができる
・クレヨンなどを使って閉じた丸が描ける
・はさみを使って紙を直線に切ることができる
・親指と人差し指でOKの形を作ることができる
・三輪車に乗って漕げる
・着替えが一人でできる、または一人でやろうとする
・手を自分で洗える
・食事が大体一人で食べられる
・乳歯が20本生えそろう
・視線を合わせて会話ができ、言葉を理解した上で指示に従うことができる
・友だちとごっこ遊びや集団遊びができる
・ものの大小、長短、色(赤・青・黄・緑)を理解している
・自分の姓名を両方言うことができる
・二語文を話すことができる
・人に自分の気持ちを伝えることができる
・「なぜ」「どうして」と質問をする
・自分のものと他人のものの区別をつけることができる
ただし、上記のようなチェックポイントを、完璧にできないといけないというわけではありません。
保健師による問診を通して、コミュニケーションが成立しているか、明瞭に発音ができているか、吃音などの症状が見られないかも確認し、総合的に判断されます。
3歳児健診では、気になる点があれば再検査や要観察・要フォローとなる場合があり、要因については、下記があげられます。
身体測定により、低身長・高身長や、痩せすぎ・肥満など、成長曲線から大きく逸脱する結果が出た場合に、経過観察や栄養指導が行われたり、医療機関を紹介されたりする場合があります。
耳に関するアンケートや家庭・健診会場での検査で、「聴こえにくい」などの異常が見られた場合は、耳鼻咽頭科での精密検査が必要となる場合があります。
目に関するアンケートや家庭・健診会場での検査で、「見えにくい」などの異常が見られた場合には、眼科での精密検査が必要となる場合があります。
保健師からの問診を通して、色や形、大小や長短などの識別ができない、2語文が出てこない、発語がはっきりしないなどの「言葉の問題」が見られたときに、経過観察や医療機関の受診が必要となる場合があります。
また、当日子どもの体調や気持ちの問題でうまく測定ができなかった場合は、個別で再検査を行うケースもあります。
保健師からの問診を通して、簡単な会話が成立しない、目を合わせようとしない、一人遊びが多いなどの「対人関係・コミュニケーションの発達の遅れ」が見られたときに、経過観察が必要になる場合があります。
また、保健師等による訪問相談、医療機関や療育機関を紹介されることもあります。
その場合は、自治体の窓口への相談など、次のステップを案内されるケースもあります。
言葉や認知、コミュニケーションの発達に気になる点がある場合、「発達に遅れがある」といった指摘を受けることがありますが、3歳児健診の場は診断を行う場所ではないため、発達障害の診断には改めて専門の医療機関への受診が必要となります。
「発達に遅れがある」と言われると、「発達障害」だと思い不安になる方もいるかと思いますが、確定診断ではないことを理解しましょう。医学的な診断だと誤解する方も多いです。一方で「発達に遅れがある」と言われた場合、早期に必要な治療・支援につなげることで、症状が改善することもあります。
まずは深刻になり過ぎず、冷静に子どもの様子と向き合うことが必要です。
3歳児健診後の対応として、具体的には下記のようなものがあげられます。
保健師等が家庭訪問などを行い、家庭での様子を見たり、家族に対して関わり方の支援を行ったりします。
自治体が主催する「子育て教室」「ペアレント・トレーニング」などを案内される場合もあります。
発達の気になる子どもが通う児童発達支援事業所で、声かけなどを通して発語を促したり、集団プログラムで周囲の人とのコミュニケーションを学んだりすることができます。
健診会場では、普段と違う雰囲気に慣れず「いつもならできることがうまくできない」というような子どもがいます。
その結果、当日担当した保健師からは「発達障害の可能性がある」と指摘されるケースもあるでしょう。
かかりつけの医療機関によっては、個別に3歳児健診を受けられることもあります。
普段の様子を知っているかかりつけ医に改めて相談してみるのも良いでしょう。
3歳児健診では、子どもと直接コミュニケーションを取ることができるため、これまでの乳幼児健診では分かりにくかった困りごとに、気づきやすい機会と言えます。
「発達に遅れがある」と指摘されると、保護者としては不安になったり混乱したりするかもしれません。
しかし、3歳児健診で子どもが抱えている困りごとに気づくことができたというのは、子どもの成長を長い目で見たときに、ポジティブなこととも捉えられるでしょう。
自治体によっては、早期発見・治療につなげるため、重篤でない場合でも再検査や医療機関・療育機関の紹介を行っているケースが多くあるため、悩んだり困ったりした際は、一人で抱え込まずに相談するようにしましょう。
3歳児健診をきっかけに、子どもの普段の様子などを改めて観察して、何に困りごとを抱えているのか、どういう環境・どういう対応をすれば困りごとを減らせるのかを考えてみてください。
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参考
・「乳幼児健診マニュアル 第6版」福岡地区小児科医会 乳幼児保健委員会(著)
・「3歳児健康診査の手引」|新潟県医師会
・「0歳~6歳 子どもの発達と保育の本」河原紀子(監修・執筆)、港区保育を学ぶ会(執筆)
・3歳児健診の目的は?|『めまもり』プロジェクト|アキュビュー®︎ ジョンソン・エンド・ジョンソン
・「新版赤ちゃんの発達障害に気づいて・育てる完全ガイド」黒澤礼子(著)
・「発達障害の早期療育とペアレント・トレーニング ー親も保育士も、いつでもはじめられる・すぐに使えるー」上野良樹、金沢こども医療福祉センター作業療法チーム(著)
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