2021.11.05
発達や特性が気になる子どもの就学先を決定する就学相談。行われる発達検査やその判断基準はどのようなものでしょうか。
この記事では、就学相談の流れや判断基準、発達検査などの具体的な内容まで紹介します。
受けるべきか悩んでいる方にとっては、事前に整理しておきたい考え方や就学支援シートの書き方も紹介していますので、ご参考ください。
自治体の行う就学相談では、障害がある子ども・個別の支援が必要な子どもにとって適切な就学先を相談することができます。
主には小学校・中学生入学前に行われ、通常学級・通級指導教室(特別支援教室)・特別支援学級・特別支援学校かを相談します。
必ず就学相談を受ける必要はありませんが、特別支援学級や特別支援学校を希望する場合は受ける必要があります。
決定には教育的・医学的な意見も含めた総合的な判断で行われますが、最終的には子ども本人と保護者の意見が尊重されます。
多くは小学校への入学1年前(年長)の4月頃から開始されます。
そして11月頃には就学先を決定し、1月頃に就学通知を受け取ります。
これらは自治体・その年度によって異なります。おおよその目安としてご参考ください。
申込方法はさまざまです。
学校から案内書が届くこともあれば、幼稚園・保育園から案内があることもあれば、自ら専門窓口に申込をすることもあります。
入学1年前の4月頃になったら幼稚園・保育園や自治体の就学相談専門窓口に確認をとってみても良いかもしれません。
就学相談の申込から就学先決定までは、おおよそ下記のような流れで行われます。
この流れも自治体や年度、家庭の状況により異なります。目安としてご参考ください。
就学相談の面接では、保護者から子どもの普段の様子を伝えたり、就学先について質問・相談をします。
子どもが学校生活を送るにあたって気になる点や、学区内の通級指導教室(特別支援教室)・特別支援学級の設置校についてなど、相談することができます。
就学相談の発達検査・知能検査は、臨床心理士等の専門家により、1時間ほどで行われます。
発達・知能検査の種類には、代表的なものとして「田中ビネー知能検査V」「WISC-V知能検査」などがあります。
かかりつけの医療機関や療育機関がある場合は、その機関で検査を受けられることもあります。
検査では、ものの名前など言葉の理解、一時的な記憶処理などさまざまな項目のワークを行います。その結果から子どもの発達状況や、得手不得手を理解します。
発達検査からはIQなども測定されますが、人には調子のよい日・悪い日があるように、波があります。その結果をすべてと思いすぎず、あくまでも「そのときの結果なんだ」と目安として受け取ることが大切です。
行動観察・グループ観察は、保護者の希望・了承を経て、必要に応じて実施される場合があります。
行動観察では、臨床心理士等の専門家が幼稚園・保育園に行き、子どもが集団の中でどのように過ごしているか、ようすを見ます。
グループ観察では、小学校などに集まり、集団の中で指示が通るかなど、教員がようすを見ます。
内容は自治体や年度、その時々の状況によって内容は異なるため、あくまでも参考の一つにしてください。
行動観察・グループ観察は、子どもにとっても普段と違う・初めての状況で戸惑うこともあるかもしれません。
見通しがあると安心できる子どもには事前に何をするのか伝える、終わったあとには感想を聞き状況を理解するなど、フォローが大切です。
就学先の決定の最終決定権は、子ども本人と保護者にあります。
しかし「通常学級か?特別支援学級か?」「特別支援学級の中でも、知的障害クラスか?自閉症・情緒障害クラスか?」など、その判定基準は気になるところかもしれません。
ここでは知的障害クラスと自閉症・情緒障害クラスの判定基準と、就学相談における相談員の観点をご紹介します。
※2022年発刊の『DSM-5-TR』において自閉症の医学的診断名は現在「ASD(自閉スペクトラム症)」となっていますが、こちらの記事のクラス名に関しては文部科学省が定める種別に基づき、出典元において記載されている表記を使用しています。
文部科学省 756号通知「障害のある児童生徒等に対する早期からの一貫した支援について」では下記のように記されています。
“知的発達の遅滞があり、他人との意思疎通に軽度の困難があり日常生活を営むのに一部援助が必要で、社会生活への適応が困難である程度のもの”
衣服の裏表の理解、ボタンを掛け違えないか、トイレ・食事が一人でできるか、などの生活面から、
言葉や指示の理解、道具の操作、文字・数字の理解の程度、などが観点の例になります。
文部科学省 756号通知「障害のある児童生徒等に対する早期からの一貫した支援について」では下記のように記されています。
”自閉症又はそれに類するもので、他人との意思疎通及び対人関係の形成が困難である程度のもの”
「対人関係の形成が困難」とは、名前を呼ばれたときに気づいて振り向く、自分や他人の役割を理解し協同する、などが難しい状態です。
文部科学省 756号通知「障害のある児童生徒等に対する早期からの一貫した支援について」では下記のように記されています。
”主として心理的な要因による選択性かん黙等があるもので、社会生活への適応が困難である程度のもの”
「社会生活への適応が困難」とは、他人と関わって遊ぶ、決まりを守って行動する、などが一般にその年齢段階に求められる程度に至っていない状態です。
意思の伝達や指示理解の程度、集団・社会の中で自ら参加しに行くか、ルールや決まりごとを理解できるか、などが行動観察の観点例になります。
下記は東京都特別支援教育推進室が用意した、就学相談時に用いる資料です。
下記資料9~19枚目には、「社会性・行動」「日常生活」「コミュニケーション」といった子どもの状態をチェックできるシートがあります。
「具体的に子どものどのような部分を見られるんだろう」と気になる方は、参考の一つとして目を通してみても良いかもしれません。
基準はあくまでも基準です。
実際は「自閉症・情緒障害クラスを希望していたが、近くの小学校には知的障害クラスしかなかった」など、さまざまな状況があり得ます。
どの環境が良いかは一概に言えないため、子どもにとって過ごしやすく学びやすい環境を整えていくことが大切です。
就学相談を経て子どもの就学先が決定します。
そのため、「希望したとおりの結果にならなかったら…」「子どもの調子が悪い日と重なったら…」などと考える方もいるかもしれません。
ここでは就学相談に向けて事前に整理しておきたい考え方や、就学支援シートの書き方について紹介します。
通常の学級を希望する場合は、就学相談を受ける必要はありません。
ただし、通級指導教室(特別支援教室)、特別支援学級、特別支援学校を希望する場合は必要です。
就学相談の結果、通常の学級のという判断が出る場合ももちろんあります。子どもの就学先に迷う場合は、就学相談を活用してみましょう。
子どもの就学先は、子ども本人と保護者、学校、教育委員会の三者の意思をまとめて総合的に判断されます。
ただし最終決定権は子ども本人と保護者にあるため、希望と判断が一致しなかった場合は、相談の継続・不服申し立てが可能です。
小学校のクラス見学や体験ができる場合もあるため、活用するのも選択肢の一つです。
転籍や転学は基本的には可能です。
入学した後から「合わなかった」「子どもが成長した」など状況が変化することはあります。子どもの環境を整えるためにも、常に子どものようすを見続ける必要があります。
文部科学省は2021年6月に「障害のある子供の教育支援の手引」を新たに公表しました。
その中には、就学後も必要に応じて学校や学びの場を見直すことが重要であること、学校や学びの場は固定したものではなく、子どもの発達・適応などの状況に応じて変更できるものであることが記載されています。
このように、学校や学びの場は、子どもの状況に合わせて柔軟に対応することが望まれます。
しかし、実際には教員や教室が不足しているケースもあります。
入学後も子どもの様子を見ながら、学校や自治体と連携をはかっていくことが大切です。
就学支援シートを事前に記入することで、子どもの特性や親自身の気持ちが整理されることがあります。
記入する前に、療育手帳や医師の診断書があれば用意しましょう。
就学支援シートは自治体によって異なりますが、下記は一例として、大阪市教育委員会指導部が用意した就学支援シートです。
「好きなこと」「苦手なこと」は、可能なら「なぜ?」を考えてみるとヒントになるかもしれません。
例えば「ゲームが好き」の中にも「人と一緒にするのが好き」「アイテムを集めるのが好き」「絵が動くのが好き」など理由があるかもしれません。
「じっと座っているのが苦手」の中にも「椅子の感覚が苦手」「興味のあるものが見えると気になってしまう」などの理由があるかもしれません。
就学相談にあたり学級ごとの違いや考え方など、より詳しく知りたい場合は下記の無料勉強会もおすすめです。
グレーゾーン・発達障害のある子の小学校入学
・保護者向け勉強会
・参加無料
・オンライン開催
就学相談では、子どもが最適な教育を受けられる就学先を総合的に判断します。
地域や年度によって異なりますが、おおよそ入学1年前の4月頃から始まり、11月頃までには就学先が決定します。
発達検査・知能検査、場合によっては行動観察・グループ観察などを行いながら子どものようすを把握し、総合的に就学先が判断されます。
判断が希望と一致しなかった場合は相談継続することができます。
最終決定権はあくまでも子ども本人と保護者にあります。子どもにとって過ごしやすい・学びやすい環境を整えることが大切です。
同時に、子どもの状況は入学後も変化していきます。見守りながら、必要なタイミングには柔軟に環境を見直すことも重要です。
監修
井上 雅彦
鳥取大学医学系研究科臨床心理学講座教授。応用行動分析学が専門。30年以上ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもや家族の相談、療育・家族支援プログラムの開発に携わる。
参考
・東京都の就学相談案内|東京都教育委員会
・障害のある子供の教育支援の手引~子供たち一人一人の教育的ニーズを踏まえた学びの充実に向けて~|文部科学省
・令和3年度 就学相談説明会 | 中央区教育員会事務局
・就学相談の流れ 概要版|北九州市ホームページ
・【保護者向け】大阪市の就学相談リーフレット(令和3年4月改訂)|大阪市教育委員会指導部
・『子どもの心理検査・知能検査 保護者と先生のための100%活用ブック』|熊上 崇 (著),、星井 純子 (著)、 熊上 藤子 (著)
・第1部 就学相談の基本と実際|東京都特別支援教育推進室
・就学相談・転学相談等様式集|東京都特別支援教育推進室
・就学支援シート|大阪市教育委員会指導部
無料発達障害のある子どもの保護者向け勉強会
グレーゾーン・発達障害のある子の小学校入学