2023.05.11
企業で働く労働者で妊娠中の方は、「産前・産後休業」、いわゆる「産休」を取得できます。産休は、男女かかわらず取得できる育休とは異なり、女性だけが対象の制度です。産休を取得すると、長期間休業して出産前後に備えることができるというメリットがある反面、働かない期間中に会社から給料が出るのかと不安に感じるかもしれませんね。そこで今回は、産休期間中のお金の面に着目して解説します。
編集・監修
関川 香織
2012年よりフリーランスのライター・編集。前職の主婦の友社では妊婦雑誌、育児雑誌、育児書、育児グッズ通販誌の編集に携わり、これまでに手がけた書籍・雑誌は500冊以上。現在は「LITALICO発達ナビ」などのWEB記事制作や編集にも携わる。公私ともに、約30年にわたって日本の育児・妊娠・出産の情報発信をしている。
産休期間中、給料は基本的には支払われません。そもそも産休とはどういう期間なのか、から考えてみましょう。
産休とは、出産前の準備や出産後の身体の回復のため、働く女性が出産する際に取得できる制度で、労働基準法で定められています。この「産休」は、次の2種類の総称です。
産前休業
出産前の母体の保護を目的とし、出産予定日の6週間前(多胎の場合は14週間前)から取得可能です。取得は任意で、開始日は出産予定日の6週間前から選ぶことができます。
産後休業
出産後の母体の回復を目的とし、出産翌日から8週間の取得が法律で義務付けられています。出産予定日と実際の出産日がずれた場合も、出産翌日から8週間を産休として取得できます。
産後休業中は原則として働けませんが、医師が認めた場合には申請をすれば産後6週間から就業が可能です。
産休の対象者
出産準備と産後の母体の回復が目的のため、取得できるのは出産前後の女性(ママ)のみです。育休とは違って、配偶者(パパ)は取得できません(ただし、「産後パパ育休」があります)。
企業は、原則として産休中の従業員に給与を支払う義務がありません。福利厚生制度の一環として、産休中でも給与を支払う企業もあるようですが、それはごく一部です。
出産前後はお金がかかる時期でもあり、産後はできるだけ早く職場復帰したい人もいるかもしれませんが、周産期は母体の健康管理を最優先にしたいものです。経済面では、安心して産休を取得できるようさまざまな支援制度があります。「給料」という形ではありませんが、産休期間中に給付金を受け取れることを知っておきましょう。
夫婦で考える育休制度ー手当・期間・ライフプランー
基本的に無給となる産休中は、各種の給付金が、支給されない給与の補填となります。
公的医療保険の被保険者や被扶養者が、出産したときの費用として支給されるお金です。原則、子ども1人あたり50万円で、多胎児の場合は子どもの人数分が支給されます。ただし、産科医療補償制度※未加入の医療機関などで出産した場合は、子ども1人あたり48.8万円となります。
※産科医療補償制度:分娩に関連して重度脳性麻痺となった子どもが、速やかに補償を受けられるように分娩を取り扱う医療機関などが加入する制度。
出産育児一時金の対象
支給対象は、妊娠4ヶ月(85日)以降に出産をした公的医療保険の被保険者と被扶養者です。分娩の種類にかかわらず、自然分娩でも帝王切開でも同額を受け取ることができます。
なお、早産や死産、流産、人工妊娠中絶(経済的理由によるものも含む)などで出産に至らなかった場合でも、妊娠4ヶ月以降であれば出産育児一時金の支給対象となります。
出産のために休業し、その間に無給または給与が減額となった場合に、会社で加入している健康保険から支給されるお金です。支給金額は一律ではなく、以下のように計算します。
・出産手当金の1日あたりの支給額=支給開始日以前の12ヶ月間の各標準報酬月額※の平均額÷30日×2/3
※標準報酬月額とは、毎月の報酬の月額を区切りの良い幅で50等級に区分したもので、健康保険や厚生年金保険の保険料を定める基準にもなっている
産前42日、産後56日で計98日間の産休を取得した場合、上記の1日あたりの支給額×98日が支給額の合計金額となります。
出産手当金の対象
出産手当金を受け取るには、下記の要件を満たす必要があります。
①勤務先の健康保険の保険者であること
②妊娠4ヶ月以上経過した出産であること
③出産のために休業していること
出産育児一時金の申請は、受け取る方法によって以下のように異なります。
加入している公的医療保険から医療機関に、出産育児一時金が直接支払われる制度です。被保険者が申請する必要はなく、出産費用が出産育児一時金の支給額以下であれば、窓口負担はゼロになります。直接支払制度利用の流れは、下記の通りです。
①出産する前に保険証を提示して医療機関へ直接支払制度を利用したいと申し出る
②出産したのちに医療機関から被保険者(もしくは被扶養者)へ明細書が発行される
③医療機関から健康保険に対して請求が行われる
④健康保険から医療機関に対して支払いが行われる
⑤出産費用と出産育児一時金に差額がある場合は、精算および請求が必要
※「出産育児一時金はいくらもらえる? 申請についても詳しく解説!|LITALICOライフ」より引用
出産前に被保険者(もしくは被扶養者)が申請を行い、出産後に医療機関が出産育児一時金の受け取りを行う制度です。直接支払制度と同様、被保険者(もしくは被扶養者)は出産費用を立て替えずにすみます。受取代理制度利用の流れは、下記の通りです。
①出産する前に受取代理申請書を作成する(医師の証明が必要)
②健康保険窓口で申請を行う(出産予定日の2ヶ月前から申請可能)
③健康保険から医療機関に対して、受取代理申請書受付通知書が送付される
④出産後、医療機関から健康保険に費用請求・報告書などが送付される
⑤健康保険から医療機関に対して支払いが行われる
⑥出産費用と出産育児一時金に差額がある場合は、精算が必要となる
※「出産育児一時金はいくらもらえる? 申請についても詳しく解説!|LITALICOライフ」より引用
直接支払制度や受取代理制度を導入していない医療機関での出産や、海外での出産の場合などでは、公的医療保険に直接申請ができます。出産する本人が会社員であれば、申し出により企業が代理で手続きをすることも可能ですが、その場合は出産費用の全額をいったん立て替える必要があります。直接申請の流れは下記の通りです。
①「直接支払制度や受取代理制度を利用しない」という代理契約の文書を作成し、医療機関と被保険者等がそれぞれ保管する
②出産後に退院するとき、被保険者等が医療機関に出産費用を全額支払う
③領収書や明細書、代理契約書の写しなどの必要書類を添えて、被保険者などが健康保険の窓口に申請する
①会社の担当部署に出産手当金の受給資格があるか確認する
②出産手当金の申請に必要な書類を用意する
③申請する本人が申請書に必要な内容を記入する
④必要事項を記入した申請書を会社の担当窓口に提出する
⑤出産手当金の支給
産休中は給付金が入るだけでなく、「社会保険料免除」制度により出費が抑えられる場合があります。
企業で働いていると、健康保険、厚生年金保険などの社会保険料は通常、給与から天引きされています。産休期間中の社会保険料は、所定の手続きを行うことで、被保険者(=産休を取得する人)と事業主どちらも免除になります。なお、健康保険料は育休期間も免除されます。
社会保険の免除適用期間は、「産前休業を取得した日が含まれる月から、産後休業が終了した翌日が含まれる月の前月まで」です。以下、2つの例を見てみましょう。
【例1】出産予定日が5月4日の場合
産前休業→3月24日〜5月4日
産後休業→5月5日~6月29日
産後休業が終了した翌日→6月30日
社会保険料免除期間→3月〜5月
【例2】出産予定日が5月5日の場合
産前休業→3月25日〜5月5日
産後休業→5月6日〜6月30日
産後休業が終了した翌日→7月1日
社会保険料免除期間→3月〜6月
上記のように出産日が1日違うだけで、産後休業の終了日(の翌日)によって社会保険の料免除期間が1ヶ月違ってしまうことがあります。なお、産休から継続して育休を取得する場合、社会保険料の免除は育休を開始した月からとなります。
申請は、事業者(会社)が必要な書類を年金事務所に提出して行うため、被保険者(産休を取得する本人)は、産前産後休業の取得期間を決めたらまず、会社へ申し出ます。会社によって申請方法や受付期間などの規定が異なることもあるため、事前に担当部署に確認しておきましょう。
産休・育休の取得で社会保険料が免除された場合でも、将来受け取れる年金額が減ることはありません。免除期間中も被保険者としての資格は有効なので、産休・育休中も安心して子育てに専念することができます。
育休中の社会保険料免除についての詳細な申請方法などは、下記の記事をご覧ください。
産休中は仕事を休み、出産に向けて心身共に安心して過ごしたいものです。ただ一方で、給与が出なくなることに不安を感じるかもしれません。お金の面で不安がある時は、今からできる事前の準備を進めておくことが大切です。
また、産休中の経済的負担が少しでも軽くなるように、出産育児一時金や出産手当金、社会保険料の免除などの経済的支援制度がいくつかあります。それぞれの制度の内容や特徴、申請方法を理解したうえで、安心して産休・育休期間を過ごせるようにしましょう。
夫婦で考える育休制度ー手当・期間・ライフプランー