2023.03.30
数ヶ月から約1年にわたっての育休から仕事へ復帰するとなると、当然ながら生活スタイルが大きく変わります。家族が増えて日々のルーティンも違ってくるだけでなく、長期間離れていた職場に戻ったときに、勝手がわからず戸惑うこともあるかもしれません。
仕事と育児を両立できるのか、久しぶりの職場で環境も変わった中でうまくやっていけるのか、など不安になる人も少なくないでしょう。今回は、復職までの流れや生活面・仕事面で育休から復帰する前に準備しておきたいポイントを解説します。
編集・監修
関川 香織
2012年よりフリーランスのライター・編集。前職の主婦の友社では妊婦雑誌、育児雑誌、育児書、育児グッズ通販誌の編集に携わり、これまでに手がけた書籍・雑誌は500冊以上。現在は「LITALICO発達ナビ」などのWEB記事制作や編集にも携わる。公私ともに、約30年にわたって日本の育児・妊娠・出産の情報発信をしている。
労働者が個人的な理由により長期間仕事を休んだ後、再び職場に戻って働くことを一般に「復職」または「職場復帰」といいます。仕事を休む理由は、妊娠・出産による産休や育休をはじめ、病気、けが、精神疾患、介護などが挙げられます。
内閣府男女共同参画局の調査では、第1子の出産後も仕事を続けている女性の割合は年々上昇しており、2018年は53.1%でした。これは、1980年代後半と比べると約2倍以上という数字で、それだけ復職する女性が多くなったということでもあります。
※「『共同参画』2019年5月号【図表1出産前有識者に係る第1子出産前後での就業状況】」(内閣府)を加工して作成
育休から復帰後の働き方には、さまざまな選択肢があります。その中で今回は特に、「出産前から働いていた職場に復帰する」場合について解説していきます。
厚生労働省は、企業の従業員が出産後、育休取得や職場復帰がスムーズにできるよう支援をするため、中小企業向けに「育休復帰支援プラン」を策定しています。それによると、まず会社の制度や措置について育休取得の前後で変化がないか、事業主は復職者と確認をすると同時に復職者の希望や育児環境などを確認し、職場の状況を踏まえたうえで働きやすい職場環境を整えることが求められています。
育休から復職する場合、基本的に会社は休業前と同じ組織(部署)または職種に復帰できるよう配慮することになっています。ただし、復職者が時短勤務などを希望し、休業前の業務量を担当するのが難しい場合には、復職時に違う部署へ異動となることもあります。復職時の対応については、復職前にまず担当部署に相談してみましょう。
育休から職場へ復帰する際の一般的な流れは、下記のとおりです。ただ、細かい部分では企業ごとにルールが異なる部分もあるので、自分が勤めている会社の担当部署に事前に確認しておくとスムーズです。
まずは、会社の担当部署に復職したい意思を伝えます。すると、担当者や復職後の部署の上司などとの面談が設定され、働き方について話し合い、具体的な復職の日程を決めます。復職の意思を伝える際には、下記の「報告事項」「希望事項」も伝える必要があります。復職後の生活についてできるだけ具体的にイメージしながら、事前に考えておきましょう。
報告事項
・子どもや自分の体調について
・保育園は決まったかどうか
・保育園の預かり予定時間
・子どもが病気になったときの対応について
・夫や祖父母などの協力体制について
・出張や残業、休日出勤などの対応可否について
希望事項
・勤務時間について(フルタイム、時短勤務、その他)
・時短勤務の場合、いつまで継続するか
・希望の出社・退社時間
・業務の内容や量について
復職後の労働時間については、以下のように子どもの年齢により調整を行うことが育児・介護休業法で定められています。
子どもが3歳未満
・短時間勤務の取得
・所定労働時間を超える労働の免除
子どもが小学校に入学する前
・時間外労働の制限(休日出勤を含む)
・深夜労働(22:00〜翌5:00)の免除
復職条件について会社側の同意を得たら、復職関連の届け出に必要事項を記入し、育休終了までに担当部署に提出します。復職に際して提出するおもな書類は、下記の通りです。
復職する日が決まったら、会社の親しい同僚や周囲に報告し、復職後の働き方について説明しておくとスムーズに復職できるでしょう。
ただ、コロナ禍を経て出社をしなくなった会社もあり、同僚などと顔を合わせて挨拶することが難しい場合もあるかもしれません。誰にどのような形で復職を報告するかは、復職経験のある先輩や上司と相談しながら調整すると良いでしょう。
育休から職場へスムーズに復帰できるよう、仕事面での準備として3つのポイントを考えておきましょう。
復職後は、休業前より仕事にかけられる時間が減ることがほとんどです。保育園のお迎えのため急な残業が難しくなったり、子どもの体調不良で突然仕事を休んだりといった場面もあります。
子育てをしながら働くには、休業前とは仕事の組み立て方や取り組み方を変えることが必要になります。いわゆるライフハック的な仕事術についても知っておきましょう。たとえば、自分が抱えているタスクを書き出して常にチェックする、作業に優先順位をつけて仕事にあたるなど、15分ごと・30分ごとなど短い時間単位でこなす仕事内容を決めておくなど、仕事を進めやすくする工夫です。
復職後は時短勤務になっても、業務量が大幅に減ることはあまりないでしょう。短時間で仕事をこなすには、休業前よりも効率を意識することが必要になります。たとえば、パソコンの単語登録を活用する、ショートカットキーを覚える、一度の会議で複数の案件をまとめて確認するなど、一つひとつはわずかな時短でも、積み重ねれば何時間もの削減につながります。
①、②のように工夫して「できるだけ周囲に迷惑をかけないようにしよう」と頑張ったとしても、子育てが始まる以前のようにはいかないことも多くあります。子どもの体調不良や保育園行事などで、仕事を抜けなければいけないことは誰にでもあります。そんなとき、無理をして一人で仕事を抱え込むと、ミスやトラブルにつながりかねません。それより、自分だけしか把握できていない情報をできるだけなくして、関係者の間で情報共有することが大切です。
また、迷惑をかけまいと周囲に気をつかいすぎるよりも、いざというときには周りを頼って、「助けて!」と言える関係性を構築しておくことのほうが重要です。周囲のサポートには感謝しつつ、「お互い様」の精神で助け合いながら仕事に貢献するよう働いていくことで、同僚との良好な関係づくりや、職場の働きやすい雰囲気づくりにもつながるでしょう。
はじめての育休復帰と今からできる準備
次に、生活面での3つのポイントを考えておきましょう。
毎日すべき家事は全て書き出して視覚化し、何をどちらがやるのか、その間子どもをどちらが見るのかなど、ある程度まで決めておくと良いでしょう。
家事以外にも次のような育児関連のことが増えます。以下はリストアップの例です。
・保育園の送迎
・子どもの食事の世話(調理、片づけ)
・子どもの入浴、スキンケアなど
・子どもの歯磨き、爪切りなど
・寝かしつけ
・翌日の登園準備
・子どもの着替え
・おむつなど育児消耗品のストック確認と買い出し
これらは子どもの機嫌にも左右されるので、大人のペースでは進められないことのほうが多いかもしれません。限られた時間ですべきことをこなすには、「しなくて良いこと」の見直しも必要です。
同時に、家事のやり方も見直してみましょう。たとえば、掃除機かけや食品や日用品の買い出しは休日にするなど、毎日しなくても良いことを決めます。事前に決めたことがうまくいかないときには、その都度調整していきましょう。その際も職場での人間関係と同様、夫婦で「お互い様」の気持ちが大切です。
家事の手間を省くため、ロボット掃除機や食洗機、時短調理器具などの便利な家電製品や、スマホアプリで家電の管理をするなど、機械の助けを有効に使いましょう。
機械ではできないことについては、たとえば子どもが熱を出し、急に保育園へのお迎えが必要になったときの対応は、誰にサポートをお願いするかを決めておきましょう。身内や知人に頼むのか、地域のファミリーサポートやベビーシッターを利用するのかなど、対策を立てておくと安心です。
仕事と家事に育児が加わり、復職後は時間に追われる場面が増えます。働きながら育児をする大変さは、徐々に慣れるし子どもも成長するので楽になっていくとはいえ、この先何年かは続きます。そこで、最初から完璧にこだわっていると、自分の時間が持てず気持ちの余裕を失ってしまうかもしれません。
ただ、「余った時間を自由時間に」と考えていると、時間はほぼ余らないものです。先に自分の時間を確保して、それ以外の時間を工夫して使う、という考え方をしましょう。たとえば、通勤中や子どもを寝かしつけた後を自分の時間にするとか、休日は月に何回かパートナーに子どもを見てもらって好きなことをする時間を確保します。もちろん、パートナーと暮らし方について話し合うことが大切です。「お互い様」という意識は忘れないようにしましょう。
このとき、子どもよりも自分のことを優先させているという罪悪感は持たないことにします。家族のためにも心の余裕を作るつもりで、自分の時間は楽しみましょう。
はじめての育休復帰と今からできる準備
育休から復帰するときは、休業前と比べてさまざまな変化が大きいため、不安になったり戸惑ったりすることが多いでしょう。職場でも家庭でも、「準備は万端!」と思っても、思い通りにならないことのほうが多いかもしれません。
育休からの復帰に向けて、パートナーと家事・育児の分担などについての話し合いは行いつつ、実際に復帰した後は完璧を求めすぎないことが大切です。必要なときには家族や職場の人とも相談して、子どもの笑顔を楽しむ余裕を持てるようにしながら、自分の働くペースをつかんでいきましょう。