2023.04.11
育休中は、基本的に会社から給料が支給されません。そのため、共働き家庭であっても「配偶者控除」を利用できる可能性があります。「配偶者控除」の利用を「扶養に入る」と表現することもあります。
ただ、共働き家庭にとって普段は利用しない制度であるだけに、「うちの場合でも配偶者控除が利用できる?」「配偶者控除を利用すると、控除額はどれくらいになる?」「どんな手続きが必要?」など、分からないことばかりではないでしょうか。今回の記事では、育休によって配偶者控除が適用される条件や控除額、申告方法などを詳しく紹介します。
扶養とは、家族や親族を経済的に援助することです。扶養(援助)をする人は「扶養者」と呼ばれ、扶養を受ける人は「被扶養者」と呼ばれます。被扶養者とは、扶養者と同一の世帯でおもに扶養者の収入によって生計を維持している配偶者・子ども・両親などを差します。
扶養の定義は、以下のように大きく2種類に分けられます。
税法上の扶養
家計を支えている納税者(=扶養者)の配偶者(=被扶養者)の給与収入が年間103万円以下である場合などに、納税者の所得から一定の金額を控除することが可能な制度をいいます。産休・育休などの取得による減収で関係するのは、この「税法上の扶養」です。
社会保険上の扶養
家計を支えている人(=扶養者)が加入する健康保険や厚生年金などの社会保険について、被扶養者は自分で保険料を支払わなくても健康保険に加入することができる制度をいいます。子どもが自分の保険証を持っているのは、親の扶養に入っているためです。
ただし、会社勤務で社会保険の加入者だった人が産休・育休を取得した場合、事前に申請すれば産休・育休中の社会保険料が免除されます。そして、免除期間中も被保険者としての資格は失われませんし、将来受け取れる年金額も減額されません。異なる種類の社会保険に二重で加入することはできないこともあり、育休中にわざわざ扶養者の社会保険に入り直す必要はないと言えるでしょう。
育休中は収入が減るため、普段は扶養に入っていない人でも一時的に扶養に入ることができる場合があります。その際に利用できるのが、「配偶者控除」または「配偶者特別控除」の2種類です。この2つに共通する条件は下記のとおりです。
①12月31日時点で民法の規定による配偶者であること(内縁関係の場合には該当しない)
②納税者と配偶者で生計を一にしている(※1)こと
③青色申告者の事業専従者(※2)としてその年を通して一度も給与の支払を受けていないこと、または白色申告者の事業専従者(※2)ではないこと
※1:生活費を共有している、または生活費を同じ財布から出している、などということ。
※2:青色申告または白色申告で確定申告を行う個人事業主と、日常の生活の資を共にしている配偶者や15歳以上の親族など。つまり、個人事業主から給与の支払いを受けている家族従業員のこと。
上記の条件に加えて、扶養者と被扶養者の所得金額により、利用できる制度や適用される控除額が変わり、以下のように「配偶者控除」と「配偶者特別控除」があります。
「配偶者控除」を利用するための条件
配偶者控除を受けるには、納税者本人と生計を一にする配偶者の年間合計所得が48万円以下であることが条件です。パートや会社員など給与所得者の場合、給与所得控除分の55万円+48万円で年収103万円以下となります。
ただし、配偶者控除の額は納税者本人の所得によって変わり、所得が900万円(年収1,095万円※)を超えると段階的に控除額が減っていき、所得が1,000万円(年収1,195万円※)をオーバーすると配偶者控除は受けられません。
※年収=給与所得控除を差し引く前の収入。年収1,000万円を超える場合の給与所得控除金額は195万円(上限)
「配偶者控除」の年収別控除額一覧表
「配偶者特別控除」を利用するための条件
育休中の配偶者の年間合計所得が48万円(給与所得者は年収103万円)を超えていても、その所得が133万円以下(給与所得控除を差し引く前の年収は201万6千万円)であるときには、配偶者特別控除を受けることができます。
ただし、控除額は納税者本人の所得によって段階的に変わり、所得が1,000万円(年収1,195万円)を超える場合には、配偶者控除と同じく配偶者特別控除も受けられません。配偶者特別控除の控除額については、以下の表を参考にしてみてください。
「配偶者特別控除」の控除額
夫婦で考える育休制度ー手当・期間・ライフプランー
産休・育休中には、会社から給与が出ない場合がほとんどですが、経済面で不安なく育休の期間を過ごせるように、経済的な支援として「出産一時金」「出産手当金」「育児休業給付金」などが給付されます。
こうした制度を利用すれば、経済的には育休取得前の給与水準の約50~70%の手当を確保することができます。そうなると、「配偶者控除」や「配偶者特別控除」は対象外になるのでは、という疑問もあるかもしれません。
実は、産休・育休中の経済的支援による給付金などは非課税です。そのため、納税者本人の所得金額にも含まれないので、配偶者控除などの適用条件に影響はありません。
また、所得の金額は1~12月までの12ヶ月分の給与で決まります。そこで、産休・育休に入った年、育休を取得していた年、育休から12月までの間に復帰した年、それぞれについては減収になることが多いので、配偶者控除や配偶者特別控除の対象となる可能性が高いでしょう。
さらに、育休から復帰した後で時短勤務などによって以前より減収となった場合にも、控除の対象となることがあります。そこで産休に入ってから育休が終わるまでは、控除の条件を満たしているかどうか念のため毎年確認すると良いでしょう。
育休を取得したことで収入が減り、配偶者控除や配偶者特別控除の適用を受ける場合には、期限内に忘れず手続きをする必要があります。
「配偶者控除」「配偶者特別控除」を利用する場合の手続きについては、以下のように大きく2つに分けられます。
①納税者本人が勤務先に申告書を提出する(年末調整)
納税者本人が「給与所得者の配偶者控除等申告書」を勤務先に提出すると、年末調整で控除を受けることができます。書類の提出期限は、その年の最後の給与などの支払いを受ける日の前日までです。 年末調整によって、多く支払った税金は年明けに還付してもらえます。
以下は、国税庁Webサイトに出ている配偶者控除等申告書の書き方例です。
※「令和4年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」(国税庁)を加工して作成
配偶者控除等申告書は、3が配偶者等控除申告書となります。1は納税者本人の住所・氏名などの記入欄で、2では納税者本人の所得金額から控除額の計算に必要な区分がわかります。
配偶者控除等申告書の記入部分の書き方は、次のとおりです。
①休業中の配偶者の個人情報を記入します。マイナンバーも必要なので、記入前に準備しておきましょう。
②配偶者のその年の収入金額と所得金額※を記入します。
③②の所得金額※から「配偶者控除」「配偶者特別控除」のいずれかを判定し、該当欄にチェックを入れます。(記入例の場合は、②の「配偶者控除」)
④2で判定が出た納税者本人の区分(記入例の場合はA)と受けられる控除(記入例では②)の交差した欄(上記申告書の赤枠部分)=控除額380,000円を、右側の「配偶者控除」の欄に記入します。
※配偶者の収入が給与所得のみの場合、所得金額は下記の国税庁サイトを参考にして下さい。
②確定申告書を提出する
自営業の場合や会社での年末調整には手続きが間に合わなかったとき、確定申告をすれば配偶者控除や配偶者特別控除を受けることができます。その場合にはまず、「配偶者控除」と「配偶者特別控除」、どちらの対象になるのかを確認しておきましょう。申告書には控除額を直接記入するため、前もって調べて計算しておくことが必要です。また申告書には、納税者本人と配偶者のマイナンバーも記入します。
なお、配偶者控除や配偶者特別控除は、納めすぎた所得税を還付してもらう「還付申告」なので、育休から5年以内ならさかのぼって請求することもできます。
育休中は給与が支払われないことが多いため、お金の面で不安を覚えることもあるでしょう。その場合には、育児休業給付金などの手当を受け取りながら、一時的に配偶者の扶養に入る「配偶者控除」や「配偶者特別控除」を利用することもできます。
配偶者の扶養に入ると納税負担が軽くなり、払い過ぎた分の税金は年末調整や確定申告によって還付されます。控除額は家庭ごとの収入によって異なりますが、中には数万円〜10万円程度戻ってくる場合もあります。こうした制度の上手な利用法を知ることが、育休期間を安心して過ごせる準備になります。
夫婦で考える育休制度ー手当・期間・ライフプランー