2023.02.28
妊娠から出産までにかかる費用は、基本的に健康保険が適用されません。その分、公的支援が用意されていますが、それを利用するための申請を忘れると、一時的にでも大きな支出が発生することになってしまいます。
出産を控えている人は、予想外の出費に戸惑ったり、妊娠中や出産後にあわてたりすることがないように、いつ、どれくらいの費用がかかるのかを把握しておくことがとても大切です。
今回の記事では、出産にかかる費用全般と、出産時にかかる自己負担額を減らすために知っておきたい公的支援制度について解説します。
厚生労働省の発表によると、平成28年度から令和2年度までの5年間、出産費用の自己負担額は下記のように推移しています。
※参考:厚生労働省「出産費用の実態把握に関する調査結果(令和3年度)の結果等について」
※公的病院:国公立病院、国公立大学病院、国立病院機構など。
※出産費用の内訳:入院料/分娩料/新生児管理保育料/検査・薬剤量/処置・手当料/個室利用料など
表を見るとわかるように、令和2年度の公的病院での出産費用(室料差額などは除く)は1人当たり約450,000円で、私立の医療機関も含めた全医療機関平均では1人当たり470,000円近くかかっています。
出産費用は、地域や医療機関の種類、出産の方法などによって自己負担の金額が変わってきます。そのため、出産を希望する医療機関によってどれくらい費用がかかるのか、前もって違いを調べておくことが大切です。
妊娠・出産時に利用できる医療機関は、経営形態や規模などによってさまざまな種類があり、それによって出産費用も異なります。
室料差額なども含めた出産費用の全国平均値※を医療機関ごとに見てみると、以下のようになります。金額の差は、医師やスタッフの数、設備や提供するサービスなどの違いです。
※正常分娩で出産し、室料差額やその他の費用を含んだ出産費用の合計額。(厚生労働省保健局で集計)
出産費用は、所得や物価、医療費など、さまざまな要因により地域差が出てきます。最も高額なのは公的病院の場合で東京都の553,021円、最も安いのは佐賀県の351,774円です。現在住んでいる地域で出産するか、里帰り出産をするか迷っている人などは、出産費用の地域差も参考にしてみてください。
自然分娩の場合、入院のタイミングによっては費用の一部が割増料金になることもあります。一般に、休日や祝日、年末年始などの長期休暇中の入院や、分娩が深夜にまで及んだ場合には、割増料金となる医療機関が多いようです。
とはいえ、分娩の始まるタイミングはコントロールできるものではありませんし、入院の時期も自分では決められませんから、あまり気にしすぎないようにしましょう。
自然分娩には健康保険が適用されないため、室料差額なども含めた出産費用の全国平均値(すべての医療機関を含む)は、524,182円(令和元年度)です。
帝王切開は手術を行う医療行為なので、健康保険が適用されて費用は3割の自己負担となります。さらに、高額療養費制度を活用すれば、自己負担額を抑えることができる場合もあります。また、民間の医療保険に加入している場合は、入院や手術の保障を受けられることが多いでしょう。
無痛分娩は、陣痛の痛みを麻酔によってやわらげる分娩方法です。妊婦さんの希望により行われ、麻酔を使いますが健康保険は適用外です。無痛分娩の費用は医療機関によって違いますが、一般に自然分娩の費用に数万円~数十万円が加算されます。
妊娠中に定期的に受けることになっている妊婦健診の費用は医療機関によって多少違い、また健康保険の適用外なので自己負担となります。ただし、母子健康手帳の交付後は、住んでいる自治体で「妊婦健康診査受診券(補助券)」による助成があります。補助の金額は自治体によりますが、助成回数は全市区町村で14回以上受けられることになっています。
妊婦健診は費用がかかりますがパスしたりせず、必ず受けましょう。健康な妊娠・出産は生理的な仕組みで起こることから疾患ではないとされて保険適用外なのですが、いつ、健康状態が崩れるかわからないものです。妊婦さん自身とおなかの赤ちゃんの命にかかわっている、ということを忘れないでほしいのです。
母子健康手帳の交付前に受診した際の費用は、全額自己負担となります。医療機関にもよりますが、初診では10,000円程度かかることが多いようです。
妊娠初期から妊娠23週までは、4週間に1回の健診が推奨されています。母子手帳交付後の健診で受診券や補助券を使用すると、1回の費用は1,000〜3,000円前後となります。
この期間は2週間に1回の健診が推奨されています。赤ちゃんの様子を確認する検査が行われるようになりますが、1回の健診費用は助成を受けて1,000〜3,000円ほどが目安でしょう。
おなかの赤ちゃんの身体を診る精密超音波検査(胎児エコー)や、血液検査などを行うと、その分の費用が加算されて1回の健診で10,000円以上が自己負担になることもあります。
週に1回の健診が推奨される時期です。このころになると、いつ陣痛が来てもおかしくないため、経腹超音波検査やNST(ノンストレステスト)による検査や内診によって、赤ちゃんの様子や分娩に向けた準備がどれくらい始まっているかを確認します。
この時期の健診にかかる費用の自己負担額は、1回につき3,000円前後が目安です。ただし、超音波検査や血液検査などを行うと、1回10,000円以上が加算されることもあると知っておいてください。
妊婦健診は妊娠中14回受けるのが一般的で、助成を受けた場合の総費用は100,000~150,000円ほどになります。加えて、出産費用として平均500,000円程度がかかります。こうした費用の全額を自己負担することはとても大変なので、支援のためにさまざまな公的制度が用意されています。
妊娠4ヶ月(85日)以降に出産すると、公的な健康保険から赤ちゃん1人につき420,000円(産科医療保障制度の対象外となる出産の場合は408,000円)の出産育児一時金が支給されます。出産育児一時金について詳しくは、関連記事を参照して確認しておきましょう。
ただ、出産育児一時金の支給は出産後のため、出産までに準備するお金が足りない場合は、健康保険協会の「出産費貸付制度」を利用するのも一つの方法です。出産育児一時金が支給されるまでの間、無利子で利用できますから、こういった貸付制度も活用できることを知っておくと安心です。
出産によって会社を休んだ女性に対して、給料が支払われなかった期間を対象として支払われる手当金です。出産日(実際の出産日が予定日より後の場合は出産予定日)以前42日(多胎妊娠の場合は98日)から、出産翌日以降56日の範囲内で、会社を休んだ期間を対象として支給されます。出産手当金について詳しくは、関連記事を参照して確認しておきましょう。
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育休を取得した時に雇用保険から支払われる給付金です。受給対象は雇用保険の加入者なので、自営業者やフリーランス、個人事業主は対象外となります。
給付期間は原則として子どもが1歳になる日の前日までですが、そのときに保育園に入れなかったなど一定の要件を満たしていれば、最長で2歳まで期間の延長が認められます。育児休業給付金について詳しくは、関連記事を参照して確認しておきましょう。
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1ヶ月にかかった医療費が高額になったとき、自己負担限度額(年齢や所得などによって異なります)を超えた分が払い戻されます。この制度は、自然分娩の場合は適用外ですが、帝王切開や吸引・鉗子分娩などで医療行為がなされた場合には、適用対象となります。
この制度を利用するには、加入している健康保険への申請が必要です。ただし、「限度額適用認定証」があれば申請は不要となり、医療機関の窓口に認定証を提示することで、支払う金額を自己負担限度額までに抑えることができます。「限度額適用認定証」は、自治体の健康保険に申請します。直接窓口まで行けば即日発行、郵送で申請した場合でも1週間ほどで届きます。
予定帝王切開が決まっているなどで、医療費が高額になることが事前に分かっている場合はもちろんですが、自然分娩を予定している人でも予定外の帝王切開になることもありますから、念のため「限度額適用認定証」を取得しておくと安心です。
ただし、差額ベッド代など医療以外にかかる費用に関しては、高額医療費の対象外となります。
夫婦で考える育休制度ー手当・期間・ライフプランー
妊娠中から出産までにかかる費用の合計は、かなり高額です。でも、妊娠・出産では予測のつかない体の変化が起こることもありますから、必要な医療やケアはきちんと受けていくことが大切です。
そのかわりに、妊娠・出産でかかる費用は、少しの工夫や申請をすることで、自己負担で支払う金額を抑えられることを知っておきましょう。申請が必要な場合は忘れずに手続きをし、助成や給付を受けられるお金はしっかりもらうようにしましょう。
医療機関によって分娩や入院時の個室代などの費用はかなり違います。医療機関は通いやすさや設備などだけでなく、予算に見合うかどうかを確認して決めることが大切です。
出産費用については、事前に出産を予定している施設のホームページで調べたり、初診時に聞くほか、その施設を利用した先輩ママなどからも情報収集しておくとよいようです。
医療費控除とは、医療費が一定の金額を超えた場合に、確定申告をすることで所得控除が受けられ、納める税金が安くなる制度です。医療費控除が適用されるのは、1年間で医療費の世帯合計が10万円(総所得金額などが200万円未満の人は総所得金額などの5%)を超えた場合です。
医療費控除の対象金額は、次の式で計算します。
「1年間に支払った医療費の合計」-「保険金などで補填された金額※」-10万円
※生命保険契約などで支給される入院費給付金や、健康保険などで支給される高額療養費、出産育児一時金、家族療養費など
医療費控除の対象になるのは、妊婦健診や通院の費用をはじめ、医療機関に支払った費用です。さらに、医療費には妊娠前や出産後に病気などの治療で支払った金額も合算できますが、控除の対象にならない場合もあるので下記の表で確認しておきましょう。
医療費控除のための確定申告には領収書が必要ですが、控除の対象となる費用には、公共交通機関を利用した通院費など領収書のないものも含まれます。これらは、家計簿やアプリなどに明細を記録しておき、実際にかかった費用を説明できれば領収書がなくても申請が可能です。
出産後の忙しい時期に、確定申告で税務署に行くのは大変、と思うかもしれません。でも、お金が戻ってくる可能性が高いので、ぜひ試してみてください。
さらに、妊娠・出産のためにかかる費用としては、ここまでにお伝えした費用のほか、マタニティウエアやベビーウエア、おむつ、ミルクなど、妊娠生活や育児のために必要なグッズの予算も必要です。先輩ママなどのアドバイスも参考にしながら、予算内でおさまるように工夫しましょう。
出産にかかる費用の総額は、地域や医療機関、出産方法などによって変わってきます。とはいえ、妊娠中には健診や検査などで数万円、出産時には50万円程度の費用がかかることは、心に留めておいてください。
出産にかかる費用を少しでも抑えるためには、前もって複数の医療機関を比較検討したり、利用できる支援制度を調べて早めに準備を進めておくといいですね。ただ、支援制度を利用しても、実際にお金が給付されるまでには時間がかかる場合もありますし、妊娠・出産時には、想定外の事態が発生することもあります。
自分と赤ちゃんの命を守る健診はきちんと受け、受け取れるお金に関しては自治体の広報などをしっかりチェックして、余裕を持って準備をしたいですね。そして、安心して赤ちゃんを迎えられるようにしましょう。
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