2023.01.25
これから妊娠・出産を経て育児をしながら働き続けようとする人にとって大事な法律が、2022~2023年の間に改正されて施行されます。
それは、働く人が仕事と子育て・介護などを両立できるようにするため定められた「育児・介護休業法」です。今回は、子育てしながらより働き続けやすい制度に移行している育児・介護休業法改正のポイントについて、わかりやすく解説します。
育児・介護休業法は、国が定めた法律です。働きながら子育てをする人にとって大切な「育児休業(育休)」は、この法律による休業制度です。
育児・介護休業法の正式名称は、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律 」といいます。
少子高齢化によって労働人口が減少している中で、育児や介護をしながら働く人が少しでも安心して働き続けることができるように、企業が職場の環境を整えていくことを目的として制定されました。
「育児休業(育休)」は、働く人が子どもを育てる目的の休業制度です。
取得できるのは原則として子どもが生まれてから1歳になるまでですが、適切で明確な理由がある場合には、事前に申請することで1歳6ヶ月から2歳まで延長することが可能です。
なお、「育児休業(育休)」と名称が似ているため混同しやすいのが「育児休暇」です。これは、企業が従業員の育児支援のために設けている制度で、企業によって対象者や期間が異なりますし、就業規則により育児休暇がない企業もあります。
育休は国が法律で定めた公的制度で対象者や期間が決まっていますが、育児休暇はそれとはまったく別の起業単位の制度だということを理解しておきましょう。
育児・介護休業法によって定められている育児休業(以下・育休)について、いつからいつまで?(期間)、誰が?(対象者)、取得条件などの詳しい内容を確認しておきましょう。
産後休業(産休)の対象は出産した女性(ママ)のみですが、育休は配偶者(パパ)も対象となります。
また、今回の法改正で創設された「産後パパ育休」は、配偶者(パパ)が取得可能です。
女性(ママ)の場合、育休の取得が可能な期間は、産休が終わってから子どもが1歳になる誕生日の前日までです。一方、配偶者(パパ)は、子どもが生まれた日から1歳の誕生日の前日までが取得可能な期間となります。
子どもが1歳になっても保育園が見つからない場合や、配偶者の死亡・ケガ・病気などの理由がある場合は、子どもが1歳6ヶ月になるまで育休を延長することができます。それでも事情が解決しない場合には、子どもが2歳になるまで再延長が可能です。
育休は性別や雇用形態に関わらず取得できますが、以下の3つの条件を満たす必要があります。
① 同一の事業主に引き続き1年以上雇用されていること
② 子どもの1歳の誕生日以降も、引き続き雇用されることが見込まれること
③ 「子どもの2歳の誕生日の前々日までに労働契約の期間が満了しており、かつ契約が更新されないことが明らか」ではないこと
つまり、雇用期間が1年未満の場合と、契約社員や派遣社員などで1年以内に雇用関係が終了する見込みのある場合には、育休が取得できないことがあります。育休の取得を考えている人は、自分が対象者にあたるかどうか社内でも確認しておくと安心です。
育休の取得には、休業開始予定日の1ヶ月前までに企業へ申請することが必要です。女性(ママ)の場合、産休から続けて育休に入るケースが多いので、産休前または産休中に申請する必要があります。
休業期間を1年6ヶ月または2年に延長したい場合には、子どもが1歳を迎えていたら休業期間の終了日2週間前まで、1歳未満は1ヶ月前までに申請しなければなりません。
育児・介護休業法は、これまでも何度か改正が行われてきました。直近では2021年(令和3年)6月に公布された育児・介護休業法が改正され、2022年(令和4年)4月から2023年(令和5年)4月にかけて、5つの内容が段階的に施行されています。
特に男女を問わず子育てをしながら働き続けたい人たちにとっては、5つの改正点のうち以下の3点がとても大切です。
・有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和(2022年4月1日施行)
・育児休業の分割取得(2022年10月1日施行)
・男性の育児休業取得促進のための子の出生直後の時期における柔軟な育児休業の枠組みの創設(2022年10月1日施行)
上記3点については以下の章で詳しく解説しますが、その他に企業側が対応すべき点としては次の2つがあります。
・個別の制度周知・休業取得意向確認と雇用環境整備の措置の義務化(2022年4月1日施行)
企業は、従業員に育休の制度について知らせ、取得を希望するかどうか個別に意向を確認するとともに、育休を取得しやすいよう職場環境を整備しなければなりません。
・育児休業取得状況の公表の義務化(2023年4月1日施行)
常時雇用する従業員が1000人以上の会社では、「男性の育児休業等の取得率」または「育児休業等と育児目的休暇の取得率」を公表する義務があります。
上記2点が守られなかった企業は、マタハラやパタハラにも相当するとして、企業名が公表されたり最大20万円の過料が科されたりすることがあります。
2022年(令和4年)4月1日に施行となった法改正で、子育てをしながら働き続けたいママ・パパにとってうれしいポイントが「育休の取得条件の緩和」ではないでしょうか。
「有期雇用労働者の育児休業の取得条件の緩和」とは
改正前までは、契約社員、パートやアルバイトといった有期雇用契約の従業員が育児休業を取得するときには、以下2つの条件の両方を満たす必要がありました。
(1)同一の事業主に引き続き1年以上雇用されていること
(2)契約期間は子が1歳6カ月までの間に終了しないこと
この条件が改正後は、(2)のみを満たしていれば、育児休業の取得が可能になりました。つまり、雇用形態にかかわらず、就業1年未満の人でも育休が取得できるようになったということです。
ただし、育休を取得できないこととする労使協定を締結している企業に勤めている場合には、以下のような人は育休の適用除外となってしまいます。
・就業1年未満の従業員(今回の改正より追加)
・申し出の日から1年以内(延長の育休については6ヵ月以内)に雇用関係が終了することが明らかな従業員(現行通り)
・1週間の所定労働日数が週2日以下の従業員(現行通り)
これまで以前は「パパ休暇」という制度がありましたが、2022年10月1日施行の法改正によりそれが廃止されて、新たに「産後パパ育休」という制度ができました。
通常の育休は、原則として子どもが1歳になるまで1回だけ取得が可能です。「パパ休暇」は、産後8週間以内に配偶者(パパ)が育休を取得した場合に、特別な事情がなくてももう一度育休を取ることができる特例の制度として設けられました。
今回の法改正ではこの「パパ休暇」が廃止となり、代わりに「産後パパ育休」(正式名称は「出生時育児休業」)が創設され、2022年(令和4年)10月1日から施行となりました。産後パパ育休は、配偶者(パパ)が産後8週間以内に4週間までの休業を取得することのできる制度で、通常の育休とは別に取得することができます。
注意すべきポイントは申請の時期。産後パパ育休は、4週間以内なら2回に分けて取得することもできますが、2回に分割取得する場合は、初回の休業時に2回分をまとめて申請することが必要です。産後パパ育休制度が創設されたことにより、男女ともに仕事と育児がさらに両立しやすくなりました。
これまでの育休は原則1回しか取得できず、分割して取得することはできませんでした。それが今回の法改正によって、育休自体も期間中に2回に分けて取得可能になりました。
育休を2回に分けて取得する場合は、1回目と2回目の休業時にそのつど申請をすることが必要です。また、保育園に入園できないなどの特別な事情があって育休の延長を希望する場合、これまで育休の開始日は、1歳または1歳半の時点のどちらかに限られていました。それが今回の法改正で、育休の開始日が自由に設定できるようになりました。そのため、夫婦で育休の取得時期をずらすなど、交代で育休を取ることも可能になったのです。
さらに、以前は子どもが1歳以降になってから育休を再取得することはできませんでしたが、法改正によって特別な事情がある場合は、子どもが1歳以降でも再取得が可能になりました。こうした改正によって、パートナー間で調整しながらこれまでよりそれぞれの生活スタイルに合わせて育休の取り方が柔軟に選べるようになりました。
育児・介護休業法は、「少子化対策」「女性雇用の確保・活躍する場の拡大」「高齢者社会における介護対策・施策」「企業の雇用継続・雇用の安定化」などを背景に制定された法律です。
2022年の厚生労働省発表によると、男性の育休取得率は13.97%とまだまだ低いうえ、ママの産後8週間までの間に取得しているケースが多いのです。育児はたしかに、出産直後の数週間が特に大変ですが、その後も子どもが病気やケガをすることもあるでしょうし、希望する保育園に入れるかどうかわからないなど、さまざまな困難が予想されます。
そのため、ママやパパが子育てしながら少しでも働き続けやすくなるようにと、今回の法改正で育児休業の分割取得などが可能になりました。育児・介護休業法の内容をよく理解したうえで、育休の取得については会社とも相談し、育児をパートナーと分担しながら2人で子どもの成長を見守っていけるといいですね。