専門家執筆・監修|HSCとは?HSPとの違いや特徴、原因、接し方を解説

近年、子育てなどの場面で使われることが増えているHSC(ハイリーセンシティブチャイルド)。

「とても感受性が高い子ども」という意味を持つ「HSC」ついて、書籍やSNSの情報などが数多く発信されるようになったこともあり、一度は耳にしたことがあるという方も多いのではないでしょうか。

この記事では、専門家監修のもと、HSCの概要やHSPとの違い、HSCの特徴や診断基準はあるのかなど、詳しく解説します。

執筆・監修

飯村 周平

創価大学教育学部教育学科 専任講師
博士(心理学)思春期・青年期の子どもたちを対象に、発達心理学の観点から環境感受性の研究を行っている。心理学者によるHSP情報サイト「Japan Sensitivity Research」を運営するなど、研究にもとづくHSP情報の発信にも努めている。

HSC(ハイリーセンシティブチャイルド)とは?

HSC(ハイリーセンシティブチャイルド)とは?

HSCとはHighly Sensitive Child(ハイリーセンシティブチャイルド)の頭文字をとったもので、直訳すると「とても感受性が高い子ども」という意味です。

2019年以降、マスメディアの特集や書籍などを通じて、HSC(エイチエスシー)という言葉が広く知られるようになりました。良くも悪くもこの言葉は、家庭や学校現場などにおいて、今後ますます浸透していく兆候がみえます。しかし、HSCは医学的な概念ではなく診断基準も設けられていないことから、人によって捉え方が異なる場合もあります。

また、心理学の専門家は、書籍やSNSなどで説明されるHSCの情報には、誤解が多く含まれると指摘しています。こうした点で、HSCに関する適切な情報を集め、この特性とどのように向き合っていくかを考えることは重要なのかもしれません。

HSCは心理学にルーツをもつ言葉です。1996年に、HSP(Highly Sensitive Person)の概念が、臨床心理学者のエレイン・N・アーロン博士によって提唱されました。一見すると、新しい疾患名のようにみえますが、実はそうではありません。「感覚処理感受性」と呼ばれる、心理的特性が高い人に使用されるラベルです。

HSCという言葉を活かすのであれば、子どもにとって有益になる形で行われるべきです。また、すでにHSCという特性が子どもにあるとしている保護者や学校関係者は、なぜこの言葉を使用する必要があるのか、今一度考えてみてほしいと思います。

子どものHSCを考える前に意識したいこと

生まれてから死ぬまで、私たちはさまざまな環境から影響を受けて、身体を成長させたり、心(脳)を発達させたりします。子どもの心理社会的な発達にとって、環境が重要であることは言うまでもありません。発達心理学の研究者は、家庭や学校は特に重要な環境であると考え、その役割を長年にわたり研究してきました。

そのほかにも、私たちは一人ひとり感受性の程度が異なることから、家庭や学校などの環境からどのくらい影響を受けやすいかには個人差があります。

同じ環境に置かれたとしても、ある子どもは影響を受けやすい一方で、別のある子どもはあまり影響を受けにくいことがあります。

HSCとHSPの違い

HSCとHSPの違い

HSCと関連する言葉に、HSPがあります。

HSPとはHighly Sensitive Person(ハイリーセンシティブパーソン)の略語で、意味は「とても感受性が高い人」となり、HSCと同じです。成人はHSP、子どもはHSCというように、使い分けることがあります。

HSPについては以下の記事で詳しく解説していますのでご覧ください。

・参考:HSPとは?特徴やチェックリスト、無理なく仕事を続けるための対処法を解説【専門家執筆・監修】|LITALICOワークス

発達障害のある子の保護者さま向け勉強会

グレーゾーン・発達障害のある子の小学校入学

・専門家監修
・参加無料
・オンライン開催

HSCの特徴

HSCの特徴

HSCは、「感覚処理感受性」と呼ばれる心理的特性が高い子どものことを指します。

HSCは「ポジティブ・ネガティブ両方の環境や刺激に対する影響の受けやすさ(処理や知覚の個人差)」を説明する、気質・性格的な心理特性として研究されています。感覚処理感受性が相対的に高い子どもを、HSCと捉えることがあります。

感覚処理感受性は、誰もがもつ特性です。以下の図が示すように、低い人から高い人までグラデーションになっているのが特徴です。

分布を見ると、感受性が平均程度の人が過半数になります。感受性が高い人と低い人は同じくらいの割合でいます。

「図 感覚処理感受性の個人差」

HSCと環境の関係を知る必要性

HSCと環境の関係を知る必要性

一部の書籍やネット記事などでは、HSCというラベルが「学校になじめない子ども」「不登校気味の子ども」「生きづらい子ども」といった文脈で使用されています。しかし、学術的にみると「HSC」=「不適応的な子ども、弱い子ども」という理解は必ずしも適切ではありません。HSCかどうかにかかわらず、子どもの適応を理解するためには、環境に目を向ける必要があります。

以下の図は、感受性の個人差によって、環境の質が子どもの心理社会的な発達にどのように影響するかを説明したものです。このような特徴を「差次感受性」と呼び、数多くの研究知見が蓄積されています。

図が示すように、感受性の高い子ども(実線)は、環境の質が悪い場合(例:保護者や友人との関係が良好ではないなど)、感受性が低い子どもよりも、不適応的な方向に発達する傾向があります。しかし、環境の質が良好な場合には、感受性が低い子どもよりも、適応的な心理的発達を示しやすいとされています。

一方で、感受性が低い子どもは、環境の質が悪い場合でも、感受性が高い子どもと比べて、ネガティブな影響を受けにくい傾向があります。しかし、同時に環境の質が良好な場合にも、そこからポジティブな影響を受けにくいとされています。

このように感受性の個人差と環境の組み合わせによって、子どもの発達が変わってきます。HSCは決して「弱い子ども」ではなく、ポジティブ・ネガティブな環境から良くも悪くも影響を受けやすい子であると言えるのです。

「図 感覚処理感受性の個人差」

HSCの感受性は生まれもった特徴か?

一部の書籍やネット記事では、HSCであることは生まれもった特徴だと説明されることがあります。しかし、この説明には注意が必要です。なぜなら、感受性自体も発達的に形成されるからです。

生まれながらに感受性の高い子どももいるかもしれませんが、生まれながらに感受性の程度が決まっているわけではありません。

感受性は、生まれながらにもった遺伝子と、その後の環境によって形作られると考えられています。遺伝子に関しては、たった一つの遺伝子が感受性の程度を決めるというわけではありません。感受性には無数の遺伝子が関与しており、それらが少しずつ感受性の高さを生み出しています。

以下の図が示すように、感受性に関与する遺伝子型の数が多いほど、ポジティブ・ネガティブ両方の環境から、影響を受けやすくなることが報告されています。

「図 遺伝子型と感受性の関連」

HSCの診断基準

HSCの診断基準

HSCかどうかを「診断」する基準は、実はありません。

そもそも「感覚処理感受性」はHSCかどうかを「診断」することを目的とした概念ではなく、どのくらい高ければHSCというラベルを貼ってよいかという確立した基準がないのです。

研究でもHSCというラベルを使うことがありますが、それは「診断」を目的としたものではありません。感受性が高い群(HSC群)、中程度の群、低い群で、心理的な特徴(抑うつ症状、問題行動、向社会性など)がどのように違うのかを調べる際に、HSCというラベルを便宜上使用することがあります。

感受性が高い上位30%をHSC群とする場合があり、上位15%や20%とする場合もあります。あくまでも便宜上そのように定義しているだけであり、明確な基準はないのです。

HSCはチェックリストで判断できる?

HSCはチェックリストで判断できる?

上述のように、HSCかどうか「診断」する基準はありません。しかし、子どもの感覚処理感受性は、心理尺度(チェックリスト)によって、その程度を測定することができます。

以下の項目は、岐部・平野(2020)によって作成された日本語版児童用敏感性尺度の項目です。小学3年生~6年生を対象にし、子ども自身で回答します。

・一度にいろいろなことが起こるといやな気持ちになる
・大きな音は好きではない
・自分の生活に変化があるのは好きではない
・うるさい音のせいでいやな気持ちになる
・短い時間でたくさんのことをしなければならないと、緊張してしまう
・一度にあまりに多くのことをさせられるとイライラする
・だれかに見られていると緊張して、いつもよりうまくできなくなる
・暴力がたくさん出てくるテレビ番組は好きではない
・良いにおいのするものが大好きだ
・音楽を聞いていて、とても幸せになることがある
・自分のまわりで何かあったら、小さなことでもすぐに気がつく
・味のちがいがよく分かる

 

これらの項目について、「全く当てはまらない(1点)」「ほとんど当てはまらない(2点)」「あまり当てはまらない(3点)」「どちらともいえない(4点)」「やや当てはまる(5点)」「よく当てはまる(6点)」「とてもよく当てはまる(7点)」で回答し、平均値を算出します。得点が高いほど、感覚処理感受性が高いことを意味します。

HSCのラベルを貼ることの意味とは?

HSCのラベルを貼ることの意味とは?

学校現場では、HSCラベルが浸透しはじめており、一部の教員が「あの子はHSCっぽいよね」と診断的に用いる場合があるようです。

しかし、教員や保護者が子どもに対して安易にHSCラベルを貼ることで、問題を抱える子どもの状態を「その子どもがHSCだから」と分かった気になり、問題の背景から目を背けてしまっては本末転倒です。

HSCというラベルをきっかけに、子どもの神経的・心理的多様性に目を向け、それを子育てや教育活動に生かすことができるのであれば、HSCというラベルは役に立つでしょう。とはいえ、HSCというラベルを通さずとも、子どもの状況を見定め、環境を調整することはできます。

子どもが問題を抱えているとき、まずやるべきことは、HSCかどうかを「診断」することではありません。一部の保護者には「自分の子どもがHSCかどうか知りたい」「診断してハッキリさせたい」というニーズがあるかもしれませんが、なぜHSCというラベルが必要なのか、ラベルは子どものために役に立つのかなど、今一度自分自身に問いかけてみてほしいと思います。

HSCの困りごとと対処法

HSCの困りごとと対処法

敏感さに起因する「困りごと」を周囲の大人や保護者が支援するには、現状として自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)の文脈からアプローチしたほうが役に立つでしょう。なぜなら、神経発達症(発達障害)には過敏性を伴うことが多く、すでにさまざまな対処法などが提案されているからです。

基本的に敏感さ自体を「なくす」ことはできないので、周囲の大人が環境を整えていくことが重要です。すでにご紹介した日本語版児童用敏感性尺度をもとに、以下ではいくつかの困りごとの例と対処法を解説します。

 

うるさい音のせいでいやな気持ちになる

最近では、一部の映画館で、発達障害で聴覚過敏のある子ども向けに、大きな音を遮断するヘッドホン型の「イヤーマフ」を貸し出すサービスもあります。不快な音がする場所を避けるのも一つの方法ではありますが、ノイズキャンセリング機能付きのイヤホンなどのグッズをうまく活用するのも有効な対処方法でしょう。

 

短い時間でたくさんのことをしなければならないと、緊張してしまう

周囲の大人がマジョリティ、すなわち「普通」や「平均」、また「友達」に無理に合わせさせる必要はありません。子ども自身のペースで進められるように、周囲の大人が調整するようにしましょう。子どもたちの学力や運動能力を競争させるような「普通」があるとしたら、その普通に合わせることが子どもの幸せにつながるのか、一度立ち止まって考えてみることが大切です。

 

 自分の生活に変化があることを好まない

例えば、子どもの時期は、小学校から中学校への進学など、比較的短期間のうちに学校環境の変化を経験します。小学校でうまく生活できていても、中学校の環境が合わずに苦しむ場合もあるでしょう。

ここでも「環境」に注目することが大切です。無理にマジョリティに合わせようとせず、保護者と学校、専門家などに相談のうえで、子どもにとって何が幸せになるかを検討していく必要があります。

HSCのまとめ

HSCのまとめ

感受性が高い子どもは、自身の特性と合った環境からはより良い影響を、合わない環境からはより悪い影響を受けやすい特徴をもつと言えます。

もしHSCというラベルを使用するのであれば、それは周囲の大人が「安心」するための材料ではなく、第一に子どもの適応にとって役に立つ形であるべきです。

子どもの発達が気になったり、生活をする上で何か困りごとがあったりするときは、かかりつけ医や相談機関、専門家に相談をするようにしてください。

発達障害のある子の保護者さま向け勉強会

グレーゾーン向け
個性を伸ばす「中学・高校受験」

・保護者向け勉強会
・参加無料
・オンライン開催

 

この記事をシェアする

発達障害に関連する記事

特集記事